昨年10月の話になりますが、藪中三十二・元外務事務次官(現在は外務省顧問)が自衛隊の応援団体で「東アジア情勢と日本外交」というテーマで講演しています。
タイトル通り、東アジア情勢全般について、声を荒げることなく淡々と冷静な分析がなされていますが、本日はその中から「尖閣問題」について言及されている部分の概要をご紹介します
外務省顧問としての立場からの、半年近く前の講演でもありますが、頭を冷やして考えるには良い材料かと思いますので、概要を掻い摘んでご紹介します
尖閣問題の第1幕:日本は敗者
(初動の報道戦)
●東京都による尖閣購入話がスタートで、国が買った方が情勢の変化を防げるだろととの判断で国有化に向かった。中国側は日本の国有化でもっと悪くなったと判断した
●世界がこれをどう見たかがポイント。しかし世界は、一連の事態は日本が引き起こした、日本が仕掛けたとの見方になった。
●あの当時、中国国内で日系の店舗や工場荒らしの乱暴があり、当然中国の野蛮さを世界が非難するはずだったが、中国側の主張「日本が無謀な行為をしたから、中国は対応せざるを得ない」との中国ロジックで世界のメディアは報じた
●一番賢明なやり方は、静かにやることだった。静かに実行支配を強めることが、国際的にも一番正しい方法であった。これを鳴り物入りでなく、静かにやることが非常に重要だった
●(中国がそうしてきたように)あの地域の海保の船を2倍や3倍にして管理を強めることが必要だった
●(国際的に)大事なことは、どちらが仕掛けたということで、中国は日本が仕掛けた点を最大限に利用し、案の定、NYT紙等で中国に同情する立場が表明されている
第2幕:世界中が注目(もう第1幕は終了か)
●「日中対決、覚悟・決意のテストだ」とNYT紙が報じた。どちらが仕掛けたとの段階は終わり、日本が意外と頑張っている・・とのニュースになっている。20年ぶりに日本が世界のトップニュースになっている(最近は経済政策面でも)
●南シナ海で中国と向き合うベトナム・フィリピンも見ている。中国にがんがんやられて、日本がどう出るかを世界が固唾をのんでみている。だからここは頑張りどころ。
●ここで注意が必要なのが米国の姿勢。2010年の漁船の時(中国漁船の海保船への体当たり事案)の際は、日本を一方的に支持した。文句なく日米安保条約を適応すると言った
●しかし今回は、領土問題や領土紛争があるようだ、それはちゃんと当事者間で解決してくれよ。一方で尖閣には確かに安保条約が適応されるようだ・・・との姿勢です
●米国は一貫してこの2つのポジションを持っている。領土問題は当事者間との立場の一方で、日米安保条約では、沖縄の施政権を返還した際に尖閣が明示されているので、尖閣は範囲内と言わざるを得ない。
●(質疑応答場面で・・)米国の持っている応答要領はかなり大ざっぱで、何が影響するかというと世界と米と中と日本の関係、国際的に見た見方、その辺が出てくる。ここでは第1幕のどちらが仕掛けたか、との視点も出てくる
将来的な視点:国際社会での振る舞い
●米国のビジネスは大半が中国を向いている。非常に重要な相手です。P5(常任理事国)に対する配慮も重要でしょう。そんな中で物事が動くことも忘れてはいけない
●日本の経済界から大変だという話はあるが、中国から見ても日本からの投資は大事重要なわけです。経済は相互に影響し合うモノです
●2010年の漁船の時は日中首脳会談を要望する状況があったが、第2幕に入り日本が頑張っているとの国際的な見方の中で、どのように振る舞うのがよいのか。ASEANの視点も踏まえて。
●相当にしっかりと、堂々と、国際社会が見てもフェアに、かつ日本は頑張っているぞと。海保と自衛隊の連携もますます重要。
●中国が釣魚島の白書を出したが、日本も相当に準備し、発言し、徹底的に国際社会に訴えなければならない
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昨年10月以降ですと、中国経済の陰り、安倍自民党政権の誕生、オバマ大統領の再選等々の大きな動きがありましたが、藪中氏の主張は今も基本的な視点として重要なポイントを抑えています。
「好むと好まざるに関わらず、この尖閣の問題で議論に入ってしまった」のですから、小さく細長い島国である日本の特性を良く頭に置いて、冷静に熱く事に望まなくてはならないのでしょう。
藪中氏は、当初キャリア採用ではなかったようですが、上司の薦めで入省後試験を経て上級職として改めて採用されたとのこと。北朝鮮を巡る6カ国協議が話題になっていた頃、日本側代表としてテレビで良く拝見しました。おしゃれな方でしたね。
民主党政権に代わった混乱時に事務次官をされており、いろいろ役人として苦労されたことでしょう。
同種の講演会関連の過去記事
「石破茂氏:防衛予算と中国脅威」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-29-1
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