「2020年に予定する米軍の姿の内、約8割は今と同じである。今後獲得しようとする新たな能力は極めて重要だが、大部分の革新的な進歩は、今からの訓練、教育、人的戦力管理、そして指導力開発に掛かっている」
米国防省のエアシーバトル(ASB)検討室が、公開可能バージョンのASB文書を初公開しました。
「ASB Concept, version 9.0」の公表用要約だという文書は実質12ページ(なのに6MBも!)で、2013年度執行計画(Fiscal 2013 implementation plan)も3ページ含まれています。
表紙には「version 9.0」が5月12日付、「implementation plan」は昨年9月12日付と記載されています。「version 9.0」ということは、2011年後半に当時のパネッタ長官が承認してから、既に8回も非公開の改訂版が出されている模様です。
これは柔軟性を示すものなのか、進歩を示すものなのか、それとも各軍種の意見を取り入れて「骨抜き」や「曖昧な総花的」傾向が強まっていることを示すものなのか・・。はたまた、オフショア・コントロール論にすり寄るように、柔らかいASBの方向に変化しているのか??
ざっくり申しますと、昨年2月と今年5月に海空軍トップが連名で発表した2つの論文の内容をきちんと公式文書化したもの、と考えて良いと思います(流れは逆かもしれませんが)。つまり、この眠気を誘う公式文書を読もうとされる方は、2つの論文を事前にチェックした後、公式文書に挑戦される方が良いと思います。
更に手前味噌ながら、「ASB Concept」カテゴリーの過去記事を半年分くらい眺めていただいた後に、公式文書をご覧になることもおすすめします
なお、公開版公式文書へは、AF-Magazine記事内のリンクからアクセスできます
海空軍トップが連名で発表した2つの論文概要
「2012年2月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
「2013年5月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-21
「ASB Concept」カテゴリーの過去記事
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301176212-1
以下では、とりあえず文書発表を報ずるAF-Magazine記事をご紹介し、主要な章の第1印象をお伝えします。
6日付AF-Magazine記事の概要
●国防省関係者が長く言い続けてきた「公開バージョンのASBコンセプトを公表したい」との言葉が、今週初め、ペンタゴンにある小さなASB検討室によってやっと実現した。
●12ページの同公開文書は「ASBの目的は、単に作戦をよりJointで行うのではなく、全ドメインにおいて作戦優位を増し、軍の能力を向上させ、我の脆弱性を低減することにある」と述べている
●同文書は、A2AD脅威が突きつける課題を描写し、ASBがどのようなもので何を達成しようとしているのかを表現し、統合戦力育成にどのようにFitし、国防省がどのように遂行していくのかを示している。
●ASBを全軍に定着させるための諸活動を示している。これには、訓練や教育、A2AD環境を組み込んだ演習、軍種横断的な戦法や手順の研究開発等が含まれる
全体の構成と概要(チラ見の印象)は
●INTRODUCTION
●ANTI-ACCESS/AREA DENIAL
—A2ADの定義とA2ADの5つの特徴を説明。
—5つの特徴は、事前に警報等を発する余裕がない不意急襲、迅速かつ効果的な対応が求められる攻撃、米国及び同盟国領土も攻撃範囲、陸海空とサイバーと宇宙の全てのドメインが対象、全ドメインは関連があり一つも放棄できない、の5つ。
A2AD脅威をシナリオ風に分かりやすく表現したCSBAレポート
→その1 http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
→その2 http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1
●THE AIR-SEA BATTLE CONCEPT
—ASBはJoint Operational Access Concept (JOAC)を支えるコンセプトで、A2ADにどのように対処するかを描写したもの。対称及び非対称の両環境を考慮
—軍に求められる能力として、特に「networked forces」、「integrated forces」、「attack-in-depth」を強調する。
—上記能力を用いて、「disrupt」、「destroy」、「defeat adversary forces」を実行することを目指す
●ROLE IN JOINT FORCE DEVELOPMENT
—統合戦力育成におけるASBの位置づけや役割を説明
—昨年2月発表の新国防戦略DSGや統合の上位コンセプトJOACとの関係、また並列関係にあるJoint Concept for Entry Operations (JCEO)との関係を説明
—広範な脅威を対称とするASBでは、単に装備や戦い方だけではなく、doctrine、organization、training、materiel、leadership、personnel、facilities (DOTMLPF)の分野全てでの一体となった取り組みが必要
A2ADとASB Concep及び本章については、昨年2月論文が詳しい
「2012年2月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
●IMPLEMENTATION
—ASBに関する2013年度執行計画の紹介部分
—執行計画の中身を11項目に分類し、その方向性を説明
—11項目には、厳しい環境を訓練や教育内容に反映、同様に演習に反映、下部コンセプトを作成、同盟国等とのコンセプトの共有と必要な能力造成、対A2ADのための試験や研究実施、統合全ドメイン指揮統制の試験実施、A2AD下での戦術・技術・手順開発、実戦的なシナリオでのASB演習実施、ASBに基づく統合の装備品調達、ASBや対A2ADをドクトリンに反映、各軍種の下部組織での関係強化
本章の具体的中身は本年5月の論文が詳しい
「2013年5月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-21
●CONCLUSION
(本文書の最後の一文より・・・)統合計画で2020年に達成しようとしている米軍の姿の内、約8割は既に今保有しているもので占められている。
今後獲得しようとする新たな能力は極めて重要だが、大部分の革新的な進歩は、今からの訓練、教育、人的戦力管理、そして指導力開発に掛かっている。
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いい加減なご紹介で申し訳ありませんが、なんと言ってもASBに関する「初の公式文書」ですので、一度は目を通す必要があるのでしょう。
是非コーヒー3杯飲んでから挑戦してみてください。JOACよりは短く、少しは図表が入っているので、粘れるかもしれません・・・。
海空軍トップが連名で発表した2つの論文概要
「2012年2月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
「2013年5月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-21
「ASB Concept」カテゴリーの過去記事
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301176212-1