8月16日放送(配信)の「伊藤洋一のRound Up World Now」が恒例の中国特集を行い、お馴染み富士通総研主席研究員の柯隆さんが登場しました。
伊藤洋一氏との対談形式で行われる恒例の中国特集ですが、中国国内政治、経済政策等々、広範な話題を判り易く短節に伝えています。
ちなみに柯隆さんは1963年中国南京市生まれ。88年来日。94年名古屋大学大学院で経済学修士。長銀総合研究所入社。98年から富士通総研経済研究所で勤務。
財務省関税・外国為替等審議会委員などを歴任。中国問題御意見番で論文、著書多数。中国のCCTVにも毎週のように登場している方です。
習近平の状況
●習近平は政治的信条を明らかにしていないが、習近平は改革推進派(憲法尊重)右派で、現状維持派の左派と対立のように表現されるが、双方の異なった既得権益や利害集団を背景に持つだけであるともいえる
●しかし経済成長に陰りが出る中で、いつまでも外国企業たたきや反日デモをやっていても、共産党の正当性や共産党への支持が得られるわけでもない。中国の政治や経済制度を徐々にでも変えて行くことが不可避である
●前の胡錦濤政権の10年間は何も変わらなかった。しかし北京五輪と上海万博の勢いで何とか成長を維持し続けた。しかし習近平には何もイベントが無い。待ったなしの状況とも言える。
●まず当面1期目の5年間で改革の方向性や道筋を示せば、2期目があるだろう。全てを帰ることなど到底出来ないが、種々の勢力や派閥と調整を行い、方向性やロードマップを示すことは求められる。
●ロードマップには、憲法の尊重(司法の独立尊重、報道の自由)、国有企業や銀行の民営化、金利の自由化、富裕層への適正課税等々が、段階的にでも進むことを示す必要がある
●江沢民が胡錦濤を暗に批判し、習近平を褒めたとの話もあり、上海閥の支持を得て前に進む可能性もある
●オバマ大統領との8時間にも及ぶ会談は具体的な成果を生まなかったといわれるが、互いを知るという観点では意味が無かったということではない
中国の対外政策と対日関係
●中国は粉ミルク問題では欧米の複数の国を訴え、自動車でもVWを訴えている。しかし日本企業が争いの対象にはなっていない。これは明確に日本を外しているからだ
●日本の斉木外務次官の訪中とタイミングを合わせるかのように、数年前の毒入り餃子事件の犯人が突然話題になり、犯人に謝罪の言葉まで言わせている。犯人による謝罪など中国文化には無い習慣であり、明らかに意図を持った動きである。
中国経済の状況
●4~6月の成長率が7.5%と発表されているが、実質的には5%である。失業率も4%程度と一貫して発表されているが、実質は9.6%ほどだろう
●先日杭州から深センまで状況を目で見ながら移動したが、明らかにコンテナ船やコンテナの量が減少している。また交通量も減っており、経済の減速や調整を感じる。一方で欧米のリーマンショックのような破滅的な影響が出ているかというと、そこまでは無い。基盤まで壊れていないが、減速しているのだ
李克強首相の経済運営
●明確なメッセージや目標を未だに示していない。また、市場との関わり方も下手である。経験不足からなのか能力不足なのか不明だが。
●先日、短期金利が急上昇したが、この際も「流動性の供給はしない」と大国の指導者としては考えられない直接的な発言を行って市場の混乱に拍車を掛けている。対応が同じでも「適切に状況を見て対応する」との発言が期待されていたのに。
●最重要な課題の一つである国営企業改革についても、発言や行動が全く無い。各地方政府がそれぞれに全ての業種を持つことは不可能で、現状で相当の余剰生産力を無駄に保有しているのに、これへの対策が全く無い
●国営企業を民営化し、市場のメカニズムに乗せないと解決しない問題である。自動車の生産能力は2000万台だが、1/4の500万台分が余剰能力となっている。鉄鋼なども同様である
一人っ子政策を変更か?
●一人っ子政策により中国は急速に高齢化が進んでおり、特に農村部で影響が大きく、働き手の高齢化で将来の食糧供給への懸念が出ている。世界最大の米の輸入国になる恐れが現実味を帯びてきている
●結婚適齢期の男女人口のアンバランスも深刻。男性3000万人があぶれる状況。ベトナム女性を大量に迎えた村が話題になるほどである。
●一人っ子政策見直しは必至だと考えるが、最大の抵抗勢力は全国の地方政府にまで広がる「一人っ子政策監視組織」の650万人である。自らの仕事を守るため、国益そっちのけで「一人っ子政策死守」に動いている
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////
人口面(市場としての魅力も含め)でも、華僑といわれる人たちの圧倒的な通商能力面でも、世界への発信力という面でも、核戦争をも生き残る広大な縦深性のある国土を持つ点でも、中国はやはり巨大なパワーです。
相互依存の高まる国際社会の中で、到底無視は出来ません。チマチマと断片的にでも中国も勉強しておかないと、「戦闘機」や「陸自現有組織」の防衛だけでは日本の国益には役立ちません。
過去の「Round Up World Now」中国特集
「中国情勢やぶにらみ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-09
「中国経済と指導者交代」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-15
「バイデン訪中と密約」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-12