陸上自衛隊:南西諸島で生き残り主張?

Nakazawa.jpg中澤剛1等陸佐(陸自:研究本部)による「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」との論文が東京財団のwebサイトに掲載されています。 恐らく、同財団上席研究員で元研究本部長の元陸将・山口昇氏の推薦による「陸自の組織防衛」作戦の一環でしょう
論文は、米国内で議論されている対中国の5つの戦略オプションを比較検討し、同時に現実の米国のアジア戦略を分析、両方から導かれる日本のあるべき対応を考察し、陸上自衛隊の重要性・必要性を導こうとする取り組みです。
取り上げられた5つの戦略オプションは、「戦略的抑制(Strategic Restraint)」、「オフショア・バランシング(Offshore Balancing)」、「選択的関与(Selective Engagement)」、「積極的介入(Assertive Intervention)」、「前方パートナーシップ(Forward Partnership)」です。5つを比較しながらの紹介が丁寧で、この部分は資料としての価値があります
ところで、中澤剛1等陸佐を覚えていますか? 
Nakazawa3.jpg民主党鳩山政権時の平成22年2月、日米共同訓練時の訓示で「同盟というものは、外交や政治的な美辞麗句で維持されるものではなく、 ましてや『Trust me:信頼してくれ』などという言葉だけで維持されるものではない」と発言して更迭された有能な人物です
中澤大佐は訓示で、現場で共に汗を流してこそ同盟が強固になるのだから、このような共同訓練が重要だと述べただけであり、一部の偏向マスコミ以外は疑問を持たない優れた訓示だったと言われています
民主党の犠牲者:中澤大佐の主張
中国の海洋戦略と米国のエアシーバトルASBやオフショア・コントロールの作戦構想がぶつかり合う点から、主戦場は第1列島線。従って、第1列島線を強固に保持し、有事には中国海軍の活動を南シナ海・東シナ海に限定させうる米軍の前方展開と自衛隊の事前配置の日米共同抑止態勢が極めて重要である
米国の対日支援が海・空主体で行われるのであれば、この地域における陸上自衛隊の役割は、ますます大きくなる
Nakazawa2.jpg●「米国のASBは海・空主体だから、日本も海・空自衛隊の増強が必要」というような議論はまったく逆で、「米国がASBで海空主体になるので、日本は陸上自衛隊の南西地域への増強が必要」なのである
米国の軍事専門家が共通して主張するのは、南西諸島における地対艦ミサイルの配置である。彼らの論は、コンセプトの段階ではあるが、十分、傾聴に値する
●地対艦ミサイル部隊を守る対空SAM部隊、更にこれを守る戦闘部隊、海上・航空優勢確保のための海・空自衛隊等の配置と日米共同運用について、更なる検討が必要
●陸上自衛隊に、沖縄や各主要島嶼や九州の航空基地や海自基地、有事活用しうる民間空港や港湾を防護させなければ、この地域の防衛は極めて脆弱
●また、種子島から与那国島までの島々に展開し、領域拒否を行う必要がある。地上部隊は、穴を掘り、偽装をし、分散して被害を局限する事が出来る
●紛争の終結段階でも、交渉に入れば「土地を確保している」事実が交渉を有利に進めるために極めて重要
●陸上戦力は、築城工事や偽装により残存性を高め、粘り強く継続的に地域を確保可能。また、海空の装備に比し装備が廉価で、自力で海上を移動できない防御的な戦力である。
●従って、陸上自衛隊は、中国の脅威にならない防勢的なA2/AD手段として、「力で現状を変更しようとする試み」を未然に防止することができる
まんぐーすの感想や意見
●主戦場と想定した第一列島線の南西諸島に、対艦ミサイルや巡航ミサイルでを配備して「日本版ミニA2AD」を構築しようとの構想を、オブラートに包みながらも提案した心意気に感激。更に、明確な言及は避けつつも、陸自がA2ADミサイル部隊を担うべきとの主張が垣間見え、感涙
●上記概要では触れなかったが、「もちろん、海上自衛隊、航空自衛隊は重要である」と言及し、海空自の防衛力整備の方向性を理解して必要性にも触れている
●更に、九州から南西諸島の官民の航空基地や港湾施設の重要性を認識し、その防衛に対する陸自の役割を認識している点は謙虚である
ただし、とても納得できません
Nakazawa4.jpg南西諸島の島々の地上部隊による支配は、島々が小規模で分散していることから、海上又は航空戦力の地域優勢確保とイコールに近い。つまり、仮に地上部隊が離島を支配していても、周辺海空域を敵がコントロールしていれば、補給路のない離島群の地上部隊が無効化するのは時間の問題だからである。逆に地上部隊が存在しなくても、海空優勢が確保できていれば、実質支配を確保しているのとほぼ同義であろう
●むしろ島々の地上部隊派遣に固執することは、海空部隊に兵站支援や支援作戦などの負担をかけることとなり、本末転倒である。正規軍が掩体を掘り、偽装をし、分散して被害を局限するレベルの対応ではプレゼンス確保は無理
●ミサイル部隊化した陸自による「日本版ミニA2AD」は、緊要な列島線を形成する島に限定する
●中澤氏は陸自の重要性を主張しているが、南西域での海空戦力の重要性はそれに勝るのは明らかであり、海空戦力の不足も明白。丁寧に進めてきた戦略分析を生かさず、大綱議論の中心となるべき限られた資源の陸海空への資源配分優先について全く触れていないのは奇妙。「防衛態勢について踏み込んで記述したいが、大綱・中期の策定作業中の時期でもあり・・」と避けてはいけない
●また、南西域で陸自が必要だとしても、中澤大佐も重要だと認める海空自衛隊が各4万人程度である一方、四面環海の日本で陸自が約14万人の態勢を維持する圧倒的なアンバランスを肯定する材料には全くなり得ない陸自をミサイル部隊にシフトするにしても、数万人の削減による経費の節減と、節減分の装備品への再配分こそ検討されるべき
●更に、経費面で無謀な構想を戒める姿勢を示しながら、また陸自の対艦ミサイル部隊や防空ミサイル部隊の必要性を主張しながら、現在の陸自の主力である戦車や大砲や歩兵のリストラや陸自の態勢変換にさえ全く言及していない
●山口昇氏(防衛大教授:元陸将:元研究本部長)上級研究員を務める東京財団だが、陸上自衛隊だけの主張を発表しないでほしい。・・・とはいえ、海自はともかく、空自には対外発表できるレポートを書ける人材がいないのも事実であり、残念ながらしょうがない。
「森本元大臣の防衛構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05
「陸自の組織防衛を許すな!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-17
平成22年大綱見直し時の議論
「読売も社説:陸自削減を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-21
「国防より組織防衛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-16
米国では陸軍ミサイル部隊化の動きが・
「米陸軍をミサイル部隊に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「陸軍トップがミサイル重視検討発言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-17
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
33ページに及ぶレポートは、中澤剛1等陸佐の誠実な人柄が伺える丁寧な書きぶりであり、民主党政権立ち上がり時の混乱に翻弄された「恨み」など一切感じさせません
レポートの結論部分には、陸自の「組織防衛」を背負わされている苦労が浮かび上がっていますが、このような王道の研究アプローチは今こそ必要とされるモノです。
中澤剛1等陸佐の「武運長久」を祈念いたします

タイトルとURLをコピーしました