米空軍予算が支えるGPSシステム

GPS.jpg4月号の米空軍協会機関誌が「What’s Next for GPS」との記事を掲載し、米空軍の予算で維持されていながら世界中で活用され、人々の日常生活の豊かさを大いに向上させているGPSシステムについて説明しています。
正確には、位置情報だけでなく正確な時刻情報も提供しており、「生活の豊かさ向上」と言うよりも、経済活動を含む国家安全保障上、必要不可欠で運用中断が許されないシステムと言うべきかもしれません。
でもご心配なく。米空軍も太っ腹だなぁ・・と思うのですが、予算厳しき中にあっても、今後とも安定した位置情報を提供できるように、欧州版GPSである「ガリレオ」との共有化や、電波妨害に強い仕組みの開発、GPS衛星の長寿命化や高性能化等の各種施策が遂行中のようです。
記事「What’s Next for GPS」によれば
(国防省GPSシステム担当部長:William Cooley空軍大佐談)
GPS3.jpgGPS(Global Positioning System)に関する企業契約が結ばれて40年以上がたち、第1号のGSP衛星打ち上げの1978年から36年が経過したが、本システムの維持は容易な作業ではなく、今も衛星や地上システムの維持に努力が続いている
●1978年に第1号「Block I」衛星(ロックウェル製)が打ち上げられ、その後5つのシリーズを持つ「Block II」衛星に改良を重ねながら引き継がれており、これまでに計60基以上のGPS衛星が軌道上に送られた
今年1月現在で高度約12500マイル上空に36基のGPS衛星が配置されており、そのうち31基が実運用中で、他の5基はバックアップ用である。理論上は24基有れば世界中をカバーできるが、より利便性を向上させるため現在の数を空軍は維持している
●一方で2013年3月の米会計検査院GAOレポートは、経費節減オプションとして、GPS衛星30基態勢を提言している
●衛星開発企業の努力でGPS衛星は寿命以上に維持され、24基以上が維持できている。1990年代に19基打ち上げられたロックウェル製「Block II-A」は、設計寿命が7.5年だったが、2013年11月現在で依然8基が運用可能状態にある。23歳以上の衛星も存在する。
●衛星寿命の見積もりは難しく、予想困難な太陽風の影響をモデリングする努力も続いている。現役最新のボーイング製「Block II-F」は最後の12機目今年2月に打ち上げられた。
新型GPS衛星での取り組み
GPS2.jpg●現在はロッキード製「Block III」の初号基組み立てが進んでいる。この衛星は「Block II」より25%長い15年の設計寿命を持ち、初めて「L1C信号」も使用して欧州版GPSの「ガリレオ」と相互運用性を持つ予定 
●4年半も開発期間が延長された「Block II-F」開発の教訓、同型衛星で2011年に発生したセシウム時計の故障等の教訓を踏まえ、「Block III」開発では地上試験機材や試験内容の充実が図られた
●しかし「Block III」開発にも問題はある。2013年、第1号衛星開発中に衛星内で信号の相互干渉が確認された。約70kgの回路内の異なった周波数信号の影響を十分予測できなかったことが原因のようである。
●製造企業のロッキードやExelisは、今年春の本格試験までには対処可能だと自信を示しているが、試験で真価が試される。担当部長のCooley空軍大佐は、真空環境の低温から高温テストを経て初めて結果が分かると慎重である
●「Block III」は2015年5月の初号機打ち上げに向け、2014年中にはフロリダに移送される予定だが、少し遅れるとの情報も聞かれる
●ロッキード製「Block III」は2008年に1500億円の契約で始まっているが、合計製造数は未定である。同時に大量発注して単価抑制や2機打ち上げて抑制する方策、GPS機能以外の付加機能削除等も検討され、予算状況との折り合いで将来決定されるだろう
地上管制システムと妨害対処施策
GPS4.jpg●「Block III」衛星に対応するため、新しい地上管制システムの開発が2010年からレイセオン社で進められている。これまでの所、順調な模様である
●しかし、今年春からの本格的な試験を経ないと衛星に関する詳細な情報が不明で、先に進みにくい状態にある。また国防省が定めた「情報保証基準」を満たし、ハッカー等による内部侵入や偶発的事案によるシステム被害防止を万全しなければならない
妨害対処能力を強化した「M-code」の使用も求められている。「M-code」使用の回路にするため特定のチップを使用する必要があり、米空軍は3企業に製造を委託しているが、開発は順調な模様
●「M-code」チップが他軍種の装備でも有効であることを確認するため、陸軍の無人機Raven、海軍のアーレイバーク級イージス艦、空軍のF-15E、海兵隊の装甲車両を用いて試験が行われる。2017年の「M-code」運用開始に向けた施策である
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GPS-III.jpgGPSシステムのように空気のように利用させてもらっている「安全保障&経済活動アセット」の存在を知り、併せて同システムの維持に米軍が「血税」と「汗&涙」で取り組んでいる様子を見せつけられると、やっぱり日米同盟だ・・と思います。
もちろん米国がGPSを維持して世界に提供する背景には、冷徹な「国益」の見積もりがあるのでしょうが・・・
日本を愛する素直な気持ちと共に、日米同盟を維持するに必要な「忍耐」も兼ね備える日本人育成の必要性を強く感じる次第です。
GPS関連の過去記事
「原子時計でGPSの代替」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-11
「中国版GPSが運用開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-30
「北朝鮮がGPS妨害!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-12-1

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