10日、米会計検査院GAOが報告書を発表し、米空軍による無人機操縦者の管理がずさんだと非難して具体的に7つの提言を行いました。
なお米空軍は、この7つの提言の4つには同意したものの、他の3つには完全に同意できないと反応しています
無人機の操縦者は、これまでの空軍をリードしてきた(少なくとも彼らはそう信じている)有人機操縦者中心の世界の中の「新生物」です。有人機操縦者は、無人機操縦者の任務が拡大されるにつれ、自身のポストが奪われることを気にし、無人機操縦者の問題に真剣に取り組んできませんでした。その「ツケ」が今大きく表面化してきています。
これまでも断片的に無人機操縦者の問題を取り上げてきましたが、関連過去記事のへのアクセスが最近多いこともあり、米会計検査院GAOの指摘報告をご紹介します
GAO調査の概要と背景
●2008年以降だけでも、米空軍の無人機操縦者は3倍に増加し、同時に同操縦者の仕事量も急増している。これらを背景にGAOは、同操縦者の人事管理、生活の質、昇任状況の評価を行うよう依頼を受けた。
●GAOは人事管理関連文書、米空軍による調査結果、昇任率を入手し分析、また同操縦者、無人機部隊長や関連基地及び空軍司令部関係者への聞き取りを行った
米会計検査院GAOが把握した問題
●無人機への需要が急拡大する中で、何人の無人機操縦者が必要なのか米空軍が把握していない。具体的には、運用チーム(crew又はunit)当たり無人機操縦者が最低何人必要で、更に最適人数がいくらかを性格に見積もっていない。今存在するのは、現実の勤務状態に即しない前提での数字である
●無人機操縦者への仕事の過負荷により、同操縦者は訓練や将来のための教育を受ける機会を制限されている。これが「work-life balance」に負の影響を与えている
●米空軍は無人機操縦者の確保困難に直面し、一端養成した同操縦者の離職防止にも課題を抱えている。米空軍はこの問題への組織的戦略的対応を行わず、同時に下士官や文民の操縦者への登用についても検討していない
●この問題に関し、米空軍は現無人機操縦者からの意見に耳を傾けておらず、現場の声を生かそうとの姿勢がない
●米空軍が実施している無人機操縦者の職務環境改善策は、同操縦者が直面する課題を十分に分析したものではない。米本土の自宅から前線の戦闘に関与する「deployed-on-station」が兵士に与える影響について、米空軍は十分分析しておらず、対応が不十分である
●無人機操縦者の昇任率が低い事への分析や対応が不十分である。昇任率が低い背景に、どの要因が強く影響しているのか、他の要因との関連性はどうなのか等の分析がなされておらず、適切な対応が行われていない。本件に関する議会への報告も不正確である
GAOの提言勧告(recommendations)7つ
米空軍が同意が4つで部分同意が3つ(細部不明)
●最適なクルー当たりの操縦者数再見積
●最低限のクルー当たりの操縦者数再見積
●同操縦者の採用&継続勤務推進戦略策定
●採用対象者の拡大代替案の評価
●現無人機操縦者意見の反映
●deployed-on-station勤務の影響分析
●無人機操縦者であることの昇任への影響分析
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ルトワック氏いわく(@防研60周年行事)
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-31-1
●平時において「軍事のイノベーション」が起こることはほとんどない。奉仕や自己犠牲を重要な価値観とする軍事組織は総じて保守的だから
●漸進的なアップグレードを伴う変化を軍は続ける。しかし斬新的変化では、兵器は複雑で大きく重くなり性能は向上するが、価格はそれ以上に高騰する
●例えば、1982年にイスラエルが無人機の実戦運用を始めているのに、現在に至っても無人機が戦力構成の中心になる軍はない
●また、サイバー戦は従来と全く異なる要員の採用・訓練・任務付与が必要だが、これを反映する動きはほとんど見られない
軍事組織は自己変革できない(塚本勝也・防研主任研究官)
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-02
●RMA第一人者であるスティーブン・ローゼン(Stephen Rosen)は、軍事組織において変革が行われないことは「法則であり、自然状態」なのだと主張している
●マハン(Alfred Mahan)は「いかなる軍隊も自己変革するはずがなく、することもできない」、「外部からの支援が必要」と記述
●ポーゼン(Barry Posen)も、軍事組織は自らRMAを実現することはほとんどないと主張し、その理由として3 つの要素を挙げた。
—第一に、軍事組織は、不確実性を低減させることを第一の目的としており、既存のやり方を大きく変化させることはない。
—第二に、軍事組織は極めて階層的であり、RMAを促進するボトム・アップの情報の流れを妨げる。
—第三に、軍の幹部は既存の戦闘方法に熟練していることによって昇任したのであり、それを変化させるような動機は小さいということである。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
無人機部隊の運営に現場で携わった米空軍幹部は、まだ米空軍の指導層にはいないでしょう。
せいぜい現准将クラスで、それもシンボリックな対外アピール人事で、戦闘機操縦者が現場指揮官に一時的に大佐時に配置された程度だと思います
無人機は「有人機で言えば、有人機が登場した第1次大戦初期の認知状況」と例えられますが、無人機操縦者の処遇は、ICBM操作員の処遇と同じで、今後様々な問題に発展する可能性があります
無人機操縦者が将来どのように処遇されるか? 出世できるのか? 米空軍の主要なポストに配置されるのか? 意見が言えるのか? にみんなの注目が集まっています
米空軍の無人機将来ロードマップ
「RPA Vectorをご紹介」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08
無人機操縦者の過去記事
「大佐が無人機操縦者レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-22
「海軍無人機は誰が操縦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-14-1
「議会が無人機操縦者問題を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-06
「無人機操縦者と手当と民需」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-23
「UAV操縦者育成の新時代」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-27