久々に「サッカー」カテゴリーの記事です!
5月12日、ザッケローニ監督がブラジルW杯日本代表23名を発表しました。彼ほどの思慮深い監督がこの重要な会見で適当な発言をするはずもなく、当然日本中が注目しました。
しかし、原稿無しのイタリア語会見を、専属とは言え通訳が日本語に訳す形で進められたため、十分に真意が伝わったかどうか心配する声もありました。
そんなこだわりを持った皆様の期待に応え、イタリア在住のジャーナリスト・宮崎隆司氏が会見をじっくり分析し、その内容を植田路生氏がまとめてweb上で発表しました
宮崎氏は「あれだけの緊張感のある場で素早く翻訳することは非常に難しい。私は時間をかけて翻訳したので指摘できただけのこと」と専属通訳を擁護しつつも、翻訳が微妙に異なる点や、訳されなかった部分を指摘し、植田氏が分析・解説しています。
結構専門的な内容で、文章がわかり辛い部分もあるので、勝手に解釈を入れて文章を再構成し、ご紹介します。重要だと思うのは、通訳の訳より、ザック監督は強い言葉で「超強気」な発言をしていた点です。期待したいです!
元記事は「実は超強気、挑発すらしていたザック。日本語訳で隠れてしまったイタリア人指揮官の真意」
→http://brazil2014.headlines.yahoo.co.jp/wc2014/hl?a=20140514-00010002-footballc-socc&p=1
ボランチとの訳は適当か?
●「悩みどころは、ボランチを1枚多く連れていくかどうかだった」という通訳に違和感を覚えた。「ボランチ」と訳された言葉は「MF」という意味で、日本で守備的MFを意味する「ボランチ」とは意味合いが違う
●日本代表のMF登録4人は全て「ボランチ」の選手なので、通訳者がボランチと訳した可能性はある
●一般的な「MF」の意味ならどうか。であれば、細貝萌を選ぶかどうかという単純な話ではなく、中村憲剛をどうするか、あるいは1トップタイプを除いた9~10人のMF全体の構成で悩んでいたことも考えられる
●また、先の「悩みどころは」発言の前を、通訳は「先週末も広島に行った」と訳したが、監督は「最後の最後まですべての試合を見た。例えば広島」と発言していた。広島だけにしてしまうと、“青山か細貝か”の二元論になり、記者の質問もその方向に行ってしまった。監督は「すべての試合を見た。例えば広島」と言ったのに
●記者が訳に釣られ、「ボランチの選考で悩んだということだが、細貝を外して、青山を入れた決断の理由は?」という質問に繋がり、監督回答は「その決断は難しく、先ほども言ったが、ボランチを4枚か5枚かで悩んだ」と訳されたが、実際の監督の回答では冒頭に「いや青山のポジションが問題ではなかった」と言い、質問を真っ向から否定しているのに
●悩んだのは本当に「ボランチ」なのだろうか。戦術大国イタリアの指揮官が、「ボランチ」より広い意味を持つ「Centro-campista(MF)」という言葉を使うだろうか
「若い選手を入れられなかった」発言
●通訳は「フレッシュな若い選手も入れられなかったことも残念だった」と訳したが、「何人かの若い選手が非常に私を悩ませた」と語っていた。そして一瞬言葉を詰まらせたあと、「その彼を入れることができなかった」と続けた
●「何人かの」という複数形が「その彼」と単数形になっている。ザッケローニ監督は意中の若手一人がいた可能性がある。「その彼」と言ったのは、思わず口を滑らせてしまったのではないか(南野か、原口か、宮市か?)
ザック監督は超強気だった
●宮崎氏は「ザッケローニ監督は非常に強気な発言を繰り返していました。驚いたほどです」と語っていた。通訳の日本語を聞いていた私(植田氏)はそうは感じなかったが。
●通訳者が何らかの意図があり、あるいは協会からの指示により配慮をしたのかもしれない。
●「ここ半年で3日間しか集まれていないので、まずは全員でこのチームのやり方をおさらいしたいと思う」の部分は訳されたが、その後の「それを踏まえて(戦術などの)考察を始めたい。しかし、我々が何をすべきか、ということに重きをおいて進んでいきたい」は訳されなかった。
●そしてその後の部分は「良いパフォーマンスをすれば、良い結果がついてくると思っている」と訳したが、「思う」とは言っていない。監督は断言している
●「成功と失敗のラインはどこか?」という質問に、「私自身は違った考え方を持っていて」と回答は訳されているが、監督は怒っており、わざと「へりくだった」嫌みな表現を使っていた
絶対的な自信と選手への信頼
●日本語の訳よりかなり強いイタリア語表現が続く。「主導権を握って戦うことが大前提で、それができないことも想定内ではある。自分たちがこれまでやってきた、そういった状況に耐え得る戦術的準備は進めてきたつもりだ」と訳された部分である。
●更に「主導権を握って戦うことが大前提で、それができない事態になっても、選手たちは十分な戦術理解を持っているので、自分たちが難しい状況に陥ることはない」と強気の発言をしている
●なぜ通訳が訳さなかったのか疑問の部分もある。「自分たちのサッカーをして、自分たちの能力を最大限に出してブラジルのピッチで戦いたいと思う」と語った後の部分を訳さなかった。
●監督は 「選手たちは極めて高い能力を持っている。繰り返すが、私は深く信頼している。フィジカルコンディションが整えば、非常に質の高いプレーができる。だからコンディション調整に全精力を傾けている。もちろんどれだけ質が高いプレーができるかは、相手あってのことだが」。繰り返しになるので、訳さなかった可能性もあるが、繰り返して訳すべきだったと思う
●強気の思いは「この4年間、コンフェデ杯以外では結果を残している。時にいわゆる格上と呼ばれている相手にもいい戦いをしたことがある」と言い、更に「同等あるいは格上との対戦でも、時に相手を半ば辱めたこともある」との発言にもこもっている
対戦国への強烈なメッセージ
●「もし、負けるようなことがあった場合は、良いプレーだったと相手チームをたたえられるような戦い方をしたいと思う」。ここも同様だ。「我々を倒す相手がいるとすれば、私は自分から(相手に)握手を求める。敵が極めて優れたプレーをしたということだ」。ここでは「極めて優れた」を2回繰り返していた。
●打ちのめしますよ、そしてあなたたちが極めて優れていなければ日本を倒すことはできませんよと、対戦国に向けての発言ではないだろうか。指揮官はメディアを通して、早くも仕掛けたのだ
●今後の準備に関し「外部からの圧力を防ぐ選手たちにはストレスの掛からない環境・状況を作っていきたいと思うし、プレッシャーが掛かる場面でも自分たちのサッカーに集中させていきたい」と言い、更に「自分が選手の盾になる。そうなってでも選手たちを守る」と断言している
●そして言葉を換えて、「選手たちへのプレッシャーはピッチ内でのものに限られる」とも語っている
●単に23人を発表しただけでなく、会見には指揮官からの強烈なメッセージが込められていたのだ。意図を汲み取ろうとしたメディアがどれだけあっただろうか。
●戦いは既に始まっている。今のところ、指揮官と我々は見ている景色が違う。
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記事をまとめた植田路生氏は
「戦いは既に始まっている。日本のメディアは翻訳された言葉をただ流しただけだった。意図を汲み取ろうとしたメディアがどれだけあっただろうか。我々は可及的速やかにW杯モードに入らなくてはならない」と訴えています
「東京の郊外より・・」で普段ご紹介している内容も、日本のメディアが無視しているか、表面的な情報を垂れ流している分野で、「意図を汲み取ろうとしたメディア」が皆無な分野です。
植田氏の言葉を借りれば、我が分野でも「戦いは既に始まっている」のに・・・。ザック監督の熱い思いを心の糧に、ボチボチやっていきたいと思います
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補足のおまけです・・・
小野剛の分析「合宿に呼んで外すのは・・」
(J2熊本監督:元協会技術委員長:仏W杯コーチ)
●(読売13日朝刊)監督の哲学が伺えた。ゴールへの嗅覚に優れ、単独で点の取れる選手。監督はぎりぎりの局面で、勝負を決めるのは誰かと考えたのだろう。
●4月以降、Jリーグを視察するスタッフの動きから、大久保と佐藤(広島)らをその候補と考えていたようだ。
●ファンからは判りづらいが、共に非常に存在感の大きい選手なので、だからこそ監督は2人を4月の合宿に呼ばなかったのだろう。
●合宿に呼んでおいて最後に外す形では、競争ばかりが目立ち、ギスギスした感じが出てしまう。「最後のピース」として加えることで、こうした要素を排除したのだろう
●もう一つの1ヶ月の長丁場をメンタル面で良く維持できるかとの視点も合わせ、融和と一体感を非常に重視した選考を目指したことを、今回の選考から強く感じた
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南アW杯関連の過去記事
「駒野を慰めたパラグアイ選手」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-30
「三浦カズにも聞いてみる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-17
「W杯:小野剛さんの分析再び」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-05-2
「16強を川淵三郎が語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-14-2
しかし・・ブラジルの大会準備や反対派の動きが心配です・・・
ブラジル代表チームの調子が悪かったりしたら、大変なことになる様な気がします。