内部崩壊する「核の傘」に対策

「継続して誰も注目せず資源配分もされなかった結果、核運用部隊の士官に、将来の伸展や昇進の見込みがない無視された分野に配属されたとの意識が染みついている」
「ICBM部隊は組織改編の度にメジャーコマンド間をたらい回しにされ、予算も人的施策も後回し・・・誇りも気概も消え失せた」
「資源投資の問題だけではなく、(海空軍の)文化の問題でもある」
Minot.jpg14日、ヘーゲル国防長官が内外2つのチームによる検証レポートに基づき不祥事やモラルの低下が深刻な米海軍と空軍の核兵器運用部隊に関する対策を発表し、今後5年間に渡り核兵器運用部隊の予算を毎年10%増とすることや、担当司令官の大将格上げ等の施策を明らかにしました
2つのレポートは、部隊での資格認定試験での長年にわたる組織的カンニングなど表面的な事象ではなく、核兵器運用部隊が組織から予算面や人材ケア面で如何に無視され、現場が悲惨な状況を訴えています。
5年前からこの問題を時々フォローしていますが、引き続き「無視され続けている部隊」であることに変わりは無いようです。扱うモノが核兵器だけに、心配です・・・
14日付Defense-News記事によれば
Minot4.jpg●14日ヘーゲル国防長官は、国防長官は米空軍の要求であったGSC(Global Strike Command)司令官の大将への格上げや核兵器運用部隊の司令官の中将格上げを認め、国防省に海空軍の核兵器運用部隊部隊の予算を、2016年度予算案から5年間10%づつ増加させるよう要求するよう指示したと発表した。
●また人的側面では、米空軍が検討している人員削減から核兵器運用部隊4000名は除外し、GSCの整備、運用、警備分野に1100名を増員するよう指示している。海軍に対しては、2500名を工廠や教育機関に増員する予算案が指示された
●同長官による発表は、組織的な投資配分、所属兵士の昇任、指導者、当該部隊への査察等の問題を指摘した2つの報告を受けて行われた。2つの報告には、予算の増額を含む約100個の提言が盛り込まれている。
特に部内チームによる報告書は・・・
Minot3.jpg●部内チームによる報告書が指摘した問題には、米空軍の不明確な責任の所在や試験で完璧を求めすぎる体質、米海軍の不適切な施設や高齢化が進む艦艇工廠の文民勤務者の状況が含まれている
●また、昇任機会の欠如、SLBM潜水艦のストレス、技術面を過度に追求してリスク管理を疎かにする勤務員への教育等も指摘されている
●報告書はまた、特に米空軍内に意味ある能力評価の基準が無く、過度に完璧を求めて「カンニング」を誘発していると指摘している。更に、インフラの老朽化により、装備の維持が益々困難になり、時間も経費もかさむ傾向にある
海軍部隊でのカンニング事案で34名が免職になったケースでは、事案が7年間も続いていた。その試験は南加州の原子力機関の教育部隊に勤務するための資格と関係しており、(つまらない潜水艦勤務を避け、)楽な教育部隊勤務を求めた結果であった
空軍でのカンニング事案では、過度に度重なる査察と試験で完璧を求める風潮が、100名もの士官をカンニングさせた背景にあると指摘され、空軍は過度な要求が逆効果を生んでいると判断し、試験システムを変更している。
●ヘーゲル長官は「継続して誰も注目せず資源配分もされなかった結果、核運用部隊の士官に、将来の伸展や昇進の見込みがない分野に配属されたとの意識が染みついている事が根本原因である」とも表現した
特に部外チームによる報告書は・・・
Minot2.jpg退役海軍大将と退役空軍大将が主導した部外チームによる報告書は、部内チーム同様にインフラや士気の問題を指摘すると同時に、「国防省や軍高官が期待していることと、期待に添うように部隊に対して為したことの大きな相違」や「指導層が語り信じている兵士のレベルと、実際の任務に就く兵士のレベルの大きな差異」が最も深刻な問題だと指摘した
●ヘーゲル長官はこれに関し、「過去数年間に発生した事案の深さや幅は、無関心や問題分野への薄い関心を明示している」と述べ、「資源投資の問題だけではなく、(海空軍の)文化の問題でもある」と言及した
●また部外チームは全てのICBM基地を訪問し、Minot基地での勤務がその勤務地環境から度を超して過酷だと指摘している。人里離れた僻地にある分散したICBMサイトを転々とし、買い物も満足に出来無い状況が士気を低下させていると報告している。
●かつては「Minotに勤務してこそ一人前だ」との風潮もあったが、組織改編の度にメジャーコマンド間をICBM部隊がたらい回しにされ、予算も人的施策も後回しの中で、そのような気概も消え失せたとも指摘されている
●そして現在では、兵士の低い昇任率や教育体制の欠如から、Minot基地への転勤を打診された兵士が退職するケースが多数だと指摘している。
報告書は国防長官と空軍長官に対し、直ちにMinot基地を訪れてその状況を確認し、最優先で任務と兵士の家族の支援に当たるべきだと勧告している
まんぐーす注:本日の写真は、勧告を受けて実現した国防長官と空軍長官によるMinot基地訪問の様子
●その他、装備の不足も深刻で、分散した3つのICBM基地に弾頭を固定する工具が1個しか無く、3個基地で使い回しするしかなく、しかもその輸送に民間宅急便を使用している実例も明らかにされている
●また、核兵器を扱う飛行部隊の勤務員も含め、上級軍曹がミサイルや航空機の維持整備にのみ集中せざるを得ず、若手のスキルアップへの取り組みが欠如しているとの報告もあった
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米国防省web関連記事
→http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=123635
Minot5.jpgどう立て直すのでしょうか? ただひたすら「その時」に供え、辺鄙な田舎や海中でミサイルの整備と訓練だけを繰り返すこの部隊の士気を回復するのは並大抵ではありません。
しかも、この予算厳しき中で、他の分野を削減して「その時」を想定して予算を増額するとなると・・・
実際この部隊には、他の分野に向かない「内向的」で「社会性が高くなく」、「無口」なタイプが寄せ集められていると言われており、一種独特の組織だとの噂も聞きます。
人類が生む出した「禁断の兵器」・・・その管理がこのような形で行われていることに人間の一面を見たような気がします。 でも気になるのは、ロシアや中国がどうなっているかです。おそろしや・・・
関連過去記事:「核の傘」の内部崩壊
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米海軍トップが危機感訴え」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-10
「ICBM部隊に不合格判定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-15
「ICBM部隊で士官17名処分」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-11
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29
「米軍核戦力は大丈夫か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-11-28-1

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