米国防省エアシーバトル検討室廃止へ

「エアシーバトル」との用語の存続も危うし!
Air Sea Battle.jpg20日付米海軍協会web記事は、米国防省内に設置された「エアシーバトル検討室:Air Sea Battle Office」が閉鎖され、統合参謀本部のJ-7にその業務が移管されると報じています
国防省関係者はその理由を明確に説明せず、エアシーバトルの考え方は引き継がれると強調しているようですが、「エアシー」だけが強調される名称に陸軍や海兵隊が反発していることや、その他諸々が背景にありそうです
20日付米海軍協会web記事
●米海軍協会が入手した8日付の「メモ」によれば、中国等を念頭にしたA2AD対処策に関する業務を担っていた「ASBO:Air Sea Battle Office」が閉鎖され、統合参謀本部J-7に任務が移管される模様
●具体的には、J-7が「monitor and support」して本年末までに取りまとめられる「JAM-GC:Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons」において、現ASBコンセプトに関する見直しを行うことになっている
DF-21D 2.jpg●20日に国防省報道官は、「名称の変更は、コンセプト全体をよりよく表現する良い機会だから」と説明し、「ASBに不足していたのは地上部隊の部分で、強固に防御されたエリアに対するアクセス確保に、地上部隊をどう活用するかを考える必要がある」と述べた
●ASBコンセプトは、米軍がイラクやアフガンに焦点を絞っている最中、米国のアクセスを拒否する敵に対抗するために生み出された考え方だが、誤解や反対意見も多かった
ASBOでは現在約20名の上級幹部が勤務しており、コストの低いA2AD対処策を検討していた
各地域コマンド司令官にとって、ASBOは「お助けデスク」の役割を果たし、新たな任務要求に対し、既存のアセットをどのように活用して任務を達成するかを助言していた
●ASBO設置には、イラクやアフガンでの戦いに10年以上集中するあまり、他の脅威への備えや技量が失われつつあるのではとの危惧も背景にあった
●一方でASBコンセプトは米軍指導層に必要性は理解されたが、海外での政治的インパクトも強かった。(まんぐーす注:米軍が中国周辺国から遠ざかるのでは、との懸念を招いた
●またASBは中国軍の能力向上を挑発的に捕えすぎ、中国を刺激しすぎたと批判する者もいる
●更に米国防省内では、ASBが当初海軍と空軍だけで検討されていたため、陸軍の反発を招いたと言われている
21日付DODBuzz記事は本件について
ASEANPlus.jpg陸軍幹部は、エアシーバトルとの言葉をとらえた記者等からの「陸軍はASBで何をするのか?」との質問に悩まされてきた
●専門家の中には、イラクやアフガン対処に追われる中、海空軍への予算割り当てを確保するために持ち出されたコンセプトだという人もいる
●またJ-7はJAM-GCを担当するが、その中でどの程度をASBについて割り当てるかは不明確である
●特に興味深いのは、国防省や現在ASBOで勤務する幹部が、どの程度J-7の業務に関与するかである。更に言えば、エアシーバトルとの名称がJAM-GCの中で引き継がれるかが注目される
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
しみじみと時の流れを感じます・・
「エアシーバトル」との名称が中国を刺激し、アジアの米同盟国に米国が遠ざかるとの懸念を与えたことは確かでしょうが、中国の脅威の本質は米国防省も理解しており、ASBの考え方が消滅することはないと思います。ただ、何よりも以下のような米国内事情が今次決定の背景だと思います
Asia Pacific.jpgもともとASBOが国防省にできたのは、統合参謀本部では軍人同志の馴れ合いでASBを適切にハンドリングできないとの懸念が、当時のゲーツ国防長官等にあったからだと思われます
それが統合参謀本部の恒常部署に吸収されるなら、コンセプト推進の後退を示すものともいえましょう
コンセプト自体が後退しようと前進しようが、強制削減による予算減額でその実現が難しくなり、4軍の協力気運が消え失せたとも考えられます。
米空軍と米海軍NIFC-CAコンセプトとの擦り合わせがほとんど感じられないこと等、各軍種が個々の組織防衛に「奔走」し始めた気配はプンプン感じます
また、オバマ政権が中国を刺激する軍事コンセプトが際立つことを嫌い、看板を下ろした、とも言えましょう。オフショア・コントロール概念の提唱者ハメス氏が、盛んにASBを危険思想だと宣伝したことも背景にあるのかもしれません
陸軍や海兵隊の懸念は察しますが、戦車戦や着上陸作戦を夢見てもらっても困ります。特に陸軍には、米国版のA2AD網構成を担ってもらい、ミサイル部隊化を進めていただきたいものです
ASBの動向
「2014年春ASBの状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-15
「2013年ASBOの取組み」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04
「ASB公式文書」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-06-07
「陸軍をミサイル部隊に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-10-30
「対比:ASB対オフショアコントロール」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24
「ASB批判に5つの反論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-17
海空軍トップ連名のASB論文概要
「2013年5月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-21
「2012年2月の論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-19
元祖ASB:CSBAの報告書
「ASBの背景:対中国シナリオ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30

タイトルとURLをコピーしました