5月発表:恒例「中国の軍事力」レポート

2015 China report.jpg1ヶ月以上前に発表されていた米国防省による中国軍事力に関するレポートを、遅まきながらご紹介します
本年は5月8日に公開されており、正式名称は「Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China for 2015」です。
毎年は米国防省webサイトに概要解説記事が出たりするのですが、今年は「議会に提出を求められている報告書が出ました。関係する他省庁ともコーディネイトして出しました」との短いコメントだけが添えられており、極めてロープロファイルな発表でした
90ページ越える報告書では、年率10%を切ったものの9.5%を維持する軍事費の伸びと装備の近代化南シナ海での埋め立てや東シナ海での活動についての警戒、また国際貢献を通じて海外展開能力を高め、人道支援や災害対処に頻繁に顔を出す様子を描写しています。
でもやっぱり「肝」は、サマリー冒頭の恒例表現
●中国は、地域で発生する高列度紛争に短期間で勝利(short-duration, high-intensity regional conflicts)する能力の向上に、長期的視野に立った包括的な取り組みを引き続き行っている。
台湾海峡での潜在的な紛争発生に備えた準備が焦点であり最優先の軍事投資先であるが、中国はその準備重点を台湾以外の東シナ海や南シナ海での緊急事態にも向けつつある
またサマリーが強調する優先投資先は
DF-21D 4.jpg●2014年、中国は地域での緊急事態に備えた能力強化のため、引き続き巡航ミサイル、短中距離弾道ミサイル、高性能航空機、統合防空、情報作戦、着上陸・空挺作戦等の改善に取り組んだ
●中国軍は、中距離弾道ミサイル、長距離対地・対艦巡航ミサイルの開発試験を行って作戦可能範囲の拡大に努め、有事の際に米国を含む敵対戦力を押し返すことを試みている
●中国はまた、対宇宙、サイバー攻撃作戦、電子戦能力にも焦点を置き、敵対者の近代的な情報戦を拒否する備えを行っている
具体的内容で興味深い部分:つまみ食い
(引用元は「海国防衛ジャーナル」です)
China-Navy2.jpg●エネルギー供給地と輸送オプションの多様化を追求。しかし現状は、2014年、石油の約60%を輸入に依存。2035年までに80%へ達する見込
●南シナ海とマラッカ海峡への依存を緩和させることを目指すも、2014年、中国の石油輸入のうち85%が南シナ海とマラッカ海峡を経由
●短距離弾道ミサイル(SRBM)の数が、昨年1000発から1200発に増加し、初めて射程800~1,000kmのDF-16の存在に言及
在日米軍基地は準中距離弾道ミサイル(MRBM)と対地巡航ミサイルの射程内にあり、グアムもまた空対地巡航ミサイルの射程内にある。グアムを攻撃するための射程4,000km級の新型中距離弾道ミサイル(IRBM)を開発中との情報もある。
新しい空中発射型、地上発射型対地巡航ミサイルの配備を進めている。空中発射型は、YJ-63、KD-88、そしてCJ-20 (CJ-10の空中発射バージョン)がある
China National Day parade.jpg●中国沿岸から555km(300海里)内において、信頼性の高いIAMDシステム保有。ステルス機探知能力有りと主張
●ロシア製SA-20 PMU2は、射程1,000km級弾道ミサイルに対処可能な模様。
●国産HQ-9長距離地対空ミサイルは、射程500km級弾道ミサイルに対して限定的な対処能力
●2014年、ロシア製S-400システム(400km)の購入契約
アジアで最大数の艦船を保有する。主要任務は「近海」の防衛だが、第一列島線を超えた「遠海」での任務へとシフト途上
●海軍は水上艦戦に重点、対艦巡航ミサイルと超水平線ターゲッティング(OTH-T)システムの近代化を継続中
●旧型水上艦はYJ-8A(120km)搭載だが、052C型はYJ-62(220km)、052D型と055型はYJ-18(540km)を搭載。なおYJ-18はSS-N-27より劇的に能力が高
China-Sub.jpg潜水艦の近代化も主要課題のひとつで、攻撃原潜×5、弾道ミサイル原潜×4、通常潜×53を持つ。2020年までに、69~78隻の潜水艦を配備
●2015年のうちにSSBNによる初の核抑止パトロールが実施されるだろう(昨年も同じ表現:2014年P開始と)
●空軍はステルス技術の無人機への導入努力。長距離UAVは、中国の長距離偵察・攻撃任務能力を向上させる
●2014~2023年で、中国は4万機以上の陸上、海上配備無人機システムを製造するという見積もりもある。
●2013年、中国はUAVを軍事演習に参加させ始め、東シナ海ではBZK-005がISR任務を実施している。
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ちなみに日本の防衛白書のサマリー部分では
●「中国は周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対称的な軍事能力(A2/AD能力)の強化取り組んでいるとみられる」
・・・との表現になっています。
DF-21D.jpg米国防省の情勢認識のポイントである、「短期の高列度紛争(short-duration,high-intensity regional conflicts)」に当たる表現は全く見当たりません
また、米国防省が弾道・巡航ミサイル、サイバー・宇宙、電子戦等をサマリーで強調している中、防衛白書は本文でも核戦力、弾道ミサイル、陸上・海上・航空戦力・・と分野別に羅列表記になっており、「非対称的な軍事能力」との「ぼんやり表現」はみられるものの、「脅威の焦点」をぼかした書きぶりは今年も踏襲されています
日本政府も防衛省も、色々「大人の事情」があるのでしょうが、まず脅威の認識を正しくして国民と共有し、国として国防の基礎を固める決意が必要でしょう
何時もの愚痴になりました・・・
2015年報告書の現物(約4MB)
→http://www.defense.gov/pubs/2015_China_Military_Power_Report.pdf
過去の米国防省「中国軍事力」レポート
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1

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