岡崎研究所がWedgeサイトで「世界潮流を読む」との国際情勢分析の連載を行っていますが、最近、米国と中国双方の「変化の兆しを示唆」するような分析記事が掲載されています
南シナ海での猛烈な埋め立て工事の現実や、東シナ海で続く活発な領有権主張活動の最中、なかなか庶民には感じにくい部分ですが、その筋の皆さんには感じるところがあるのかも知れません
そう言えば、先週訪米していた中国軍人トップ(中央軍事委員会副主席)の米国内での行動に関し、中国側がメディア報道を拒否して話題になることを避けており、このあたりにも変化の兆しがあるのかも知れません。
とりあえず「世界潮流を読む」から2本の記事をご紹介
8日付記事は中国の変化を示唆?
●5月7日付の英FT紙は、ロシアでの戦勝記念日への習近平国家主席の参加に因み、現在の中ロ関係を簡潔にスケッチしている。中露間には根深い猜疑心、中央アジアにおける勢力争い等もあるので、両国の接近に過度に神経質になる必要はないが、他方両国をいたずらに煽って接近を助長することのないよう、気を付けなければならないと主張するものである
●中露は当面、戦後70年の機会をとらえ、歴史問題で日本に圧力をかけてくると思われる。日本の北方領土要求や尖閣支配は「戦後の現実を変更しようとする企て」だと主張するだろう。
●これは、得意のプロパガンダなので、日本は、正面から応ずる愚は避け、日本は日米同盟を強化し、軍事的圧力は適正にはねつけると同時に、「こういうことでは協力が難しくなる」とのメッセージを、中露両国に別個に発することが有効。同時に発すれば、中露を敵に回した印象を与え、両者の提携をあおる。
●現在、中露の外交のベクトルは違う。中国は米日ASEANとは当面矛を収め、「一帯一路」と称して西進に重点を置く構え。一方ロシアは、日本の支援は特に極東において不可欠であり、日本の協力を引き出すための裏工作も続けている。
●中国の西進は、中国の関心が太平洋方面から転ずることを意味するので、日本にとっては好材料。
12日付米国の政策変化を示唆する記事
●中国分析の大ベテランであるハドソン研究所中国戦略センターのピルズベリー所長が、2月発刊の著書「The Hundred-Year Marathon」において、「自分の対中認識は間違っていた。中国に騙されていた」と本書で告白。ワシントンの中国政策に関わる政府関係者や専門家に大きな衝撃を。
●著者のピルズベリーは、米国の対中関与政策を支持する「対中協調派」の中心的人物だった。彼はCIA、国防総省、米上院特別委員会等に勤務し、ほとんどの対中国インテリジェンスや米国内の対中国政策をめぐる秘密文書にアクセスし、中国の対米認識分析や米国の対中政策選択肢提示を続けてきた人物。
●従って、本書の内容・主張は、ピルズベリーが直接入手した関係者からの証言や、これまでアクセスした文書に基づいており、その信憑性は高いと思量。本書の影響らしきものとして、例えば3月に、外交問題評議会(CFR)が「中国に対する大戦略の変更」という小冊子を発表している。
●米国の対中政策は南シナ海での中国の人工島建設などにより、強硬化しているように見えるが、今後どう推移していくか注目。
著書「100年のマラソン」の概要
●2012年以降、中国人は、「中国主導の世界秩序」をおおっぴらに議論し、「中華民族の再興」とともに同秩序が訪れると信じている。最近中国人は、私及び米国政府を最初(1969年)から騙していたと実際に語った。これは、米国政府史上最大のインテリジェンスの失敗である。
●すなわち、米国は、中国を支援し続けていけば、中国が民主的で平和な国家になり、地域や世界を支配しようなどと考えないだろうと想定していたが、完全な誤りであった。我々は、中国内の強硬派の力を過小評価していた。強硬派は、中国建国100年の2049年までに経済、軍事、政治のすべての面で世界のリーダーになるとの計画(100年のマラソン)を有していた
●中国は、最初から米国を「帝国主義者である敵」と認識し、米国を対ソ連カードとして用い、米国の科学技術を吸収、窃取するつもりだったが、米国の中国専門家はこれに気づかなかった。
●中国の指導者は、150年以上にわたり米国が中国を支配しようとしてきたと考えており、彼らは中国が米国を逆に支配するためにあらゆることを行うつもりである。彼らにとって世界はゼロ・サムである。
●中国は、「暗殺者の棍棒」と言われる非対称戦力をもって米国の通常戦力を破る作戦を考えている。実際に、この非対称戦力は有効であり、米国防省の戦争シミュレーションで米軍が初めて敗れたのはこの中国の非対称戦力に対してだった
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「一帯一路」とは、昨年11月に習近平が打ち出した構想で、西方との協力関係強化を打ち出したものであり、その後首相である李克強が盛んに発言しているものです。
「一帯」がシルクロードの鉄道版建設を中心とする陸上での西方との関係強化、「一路」は海上交易を念頭に東南アジアからインドを経てアフリカ東海岸までを結ぶ構想となっています
東シナ海や南シナ海での中国の活動が収束するとは思えませんし、西側が安心するとそこにつけ込むのが中国の常套手段ですが、米国の中国への姿勢に変化が出れば、いったんは様子見で「西方へ」の可能性はありましょう。注目したいところです
この記事ににドンピシャの報道!
→16日、中国外務省の報道局長が南沙埋め立て終結方針→「計画に基づき、近く行程が完了する」と…方針転換か(読売新聞)→http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150616-00050071-yom-int
同様の記事(朝日新聞)
→埋め立てを拡大させない姿勢を示す狙いとみられるが、埋め立て地での建設工事は続けるとしている
→http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150616-00000033-asahi-int