陸自OBの教授が脆弱空自に宣戦布告!
CSBA論文を盾に、陸自のみで第1列島線防衛が可能と
7日付Wedgeサイトが、陸自を春退官(研究本部の第一研究課長で)したばかりの吉富望・日大教授の論文「陸上自衛隊への期待と課題」を掲載しました。以前紹介した現役自衛官による「中澤論文」と同様の流れを汲む、陸自生き残りのための理論武装を狙う論文ですが、今回は退官して「学際」に入った人物からの発信です
退官後にまで元所属組織に忠誠を誓う陸自OBの「血の絆」を感じずにはおれませんが、その「陸自よいしょ」ぶりからは、再就職先を斡旋(?)してもらった「お礼奉公」の臭いが漂ってきます
本論は、CSBAのクレピネビッチ理事長がForeign Affairs誌の2015年3月/4月号に寄稿した論文「How to Deter China」を紹介しつつ、その「土俵」に乗っかり、後ろ盾にして、第一列島線で中国軍の西太平洋進出を阻止する上で、陸上自衛隊の役割が今後も如何に重要かを訴えるものです
CSBA理事長論文への「乗っかり」が巧みで追い風(?)を捕らえた論文ですが、注意を要する点も多々含まれた論文ですので取り上げます。
陸自に対し「組織のスリム化や装備の効率化」を求める表現が一度だけ短く登場する一方で、「米軍や第1列島線諸国軍の航空戦力」にはあまり期待できないと堂々と主張する点が「中澤論文」からの進歩(戦術の変更)です
一方で気になるのは、CSBA理事長論文の背景を全く語らず、CSBA理事長が「第1列島線防衛」に「地上部隊」が重要として陸上自衛隊に言及している点だけを大声で振りかざし、「地上部隊=陸自」だから陸自が対中国A2ADの中核だと言わんばかりの論理展開になっている点です。
更に、海空自衛隊が夏休みもそこそこに、対中・対露の実任務に汗を流す中、「リフレッシュ期間」と称して将軍から一兵卒に至るまで、全員「長期の休眠」モードには入る「暇な陸上自衛隊」の合理化に関する分析検討が全くなく、陸海空が「互いに譲り合う」ような論調になっている点も看過できません
もう制服を脱いだのだから、しがらみを脱し、本当に言いたいことを言うべきでは無いですか? 十分に問題点を把握しているでしょ。吉富教授どの!!!
同列にある現役自衛官の論文
「中澤論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10
以下ではまず、CSBA理事長論文を読むに当たって留意しておくべき「執筆の背景」や「論文の狙い」を考察し、吉富教授の主張に触れる前に免疫力を高めます。
そしてCSBA理事長論文に便乗する吉富論文の概要に触れ、チョット吉富教授に質問を投げかけた後、まんぐーすが思うことをコメントさせていただきます
CSBA理事長論文の背景(推測です)
●予算配分に関わる懸念から米陸軍や海兵隊がCSBA提唱の「エアシーバトル」に拒否反応を示し、国防省からエアシーバトル室が消滅した中で、CSBAは「心ならずも」米地上部隊にも配慮した軍事的提言を求められている
●また、「エアシーバトル」批判でよく聞かれた「懲罰的抑止」に力点を置きすぎエスカレーションの懸念がある点や、米国の財政状況への配慮不足にも対応する必要があった
●論文「How to Deter China」でCSBA理事長は、米軍地上部隊に第一列島線構成国地上部隊のバックアップ(フィリピンでは主力だが)任務を与え、対中国での米地上部隊の任務を明確にしつつ装備体系変更を訴えると同時に、第2列島線より後方での待機を第一として負担感の軽減を図っている
●同時に「拒否的抑止」にも力点を置き、日本やベトナム等への「負担シフト」が可能な地上部隊による「中国の海上・航空優勢を拒否する役割」を提唱することで、米軍事予算問題への対応を示すことに配慮している。
●このようにCSBA理事長の論文は、米国内事情へのCSBAの対処案を打ち出す必要性から生まれたもので、第一列島線構成国が「小躍りして」読むべきものでは無い。米国の内情をよく推し量り、個々の提案の善し悪しを慎重に吟味すべきものであり、陸自応援論文だと「早合点」または「意図的に曲解」すべきではない。
●むしろ理事長論文からは、内向きな米国を象徴するオフショア・バランシング論(Offshore Balancing)の代表的スローガンである「二度とユーラシア大陸で地上戦を戦うな!」、「米国は前線に立つな。遠方から操作せよ」、「負担のシェアでなくシフトだ」との主張が感じられる
オフショア・バランシング論の解説
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27
吉富教授によるCSBA論文活用論文の概要
●CSBA理事長は地上戦力に下記の役割を期待。これにより海空戦力は分散することなく、遠距離偵察や空爆などの任務に重点志向可能
1. 中国軍の海上・航空優勢獲得を直接拒否する役割
(1) 地対空ミサイルおよび地対艦ミサイルにより空中・水上からの接近を拒否
(2) ロケットランチャー、ヘリコプター、舟艇による機雷敷設およびロケットランチャーによる対潜魚雷の投射により水上・水中からの接近を拒否
(3) 島嶼への上陸・占拠を拒否
2. 味方の作戦基盤を防護する役割
島嶼と海底に設置された光ケーブルを防護し、戦闘ネットワークを維持
3. 拒否的抑止に資する役割
地対地ミサイルによる敵地攻撃
●CSBA理事長は、第1列島線周辺における中国の海上・航空優勢を拒否する役割は総じて地上戦力によって達成可能と主張する。なぜなら、まず、中国軍のA2ADによって米軍および第1列島線諸国の海空戦力のプレゼンスは低下するから
●また、陸上戦力は地形を利用した隠蔽や防御でA2AD環境下でも第1列島線で生き延び健在し、中国軍に対抗できる能力を持ち得る。空爆のみで敵の地上部隊を壊滅させた例は見当たらない
●CSBA理事長は陸自について、米軍の支援が無くても中国軍の海上・航空優勢獲得を拒否する能力を大幅に強化できると断じている。陸自が沖縄に地対空ミサイルを配備し、地対艦ミサイルを島嶼に展開する訓練を実施し、与那国島への配置を決定し、奄美大島、宮古島および石垣島に配置を検討中
●同理事長はまた、地上戦力による機雷敷設や対潜魚雷の投射も提唱するユニークなものである。陸自は地対艦ミサイル、多連装ロケット、ヘリを保有しており、海自の統制下で機雷敷設や対潜魚雷の投射を行う検討に価値はある
●更にCSBA理事長は、地上戦力が地対地ミサイルによる敵地攻撃能力を持つことを提唱しているが、技術的には可能でも政治的には敏感な問題である。
●この様に陸自が南西諸島周辺での海空優勢拒否において果たす役割は大きい。CSBA理事長は言及していないが、同時に、陸自は島嶼防衛と海空優勢拒否を両立させる必要がある
●陸自はヘリ以外に離島に部隊等を機動展開させる手段がない。多数の隊員や装備・物資等を迅速に輸送できる高速輸送艇(機雷敷設も可能)を陸自が自ら保有し、配備する必要がある
●とはいえ、島嶼防衛と海空優勢拒否を両立させる予算の増額は多くを期待できない。従って陸自全体として組織のスリム化や装備の効率化を進め、同時に陸海空自衛隊による統合を進めて必要な資源を捻出する必要がある。
●重要なのは、陸海空の各自衛隊が南西諸島における島嶼防衛と海空優勢拒否を両立するために如何に役割を分担するかである。
コメント前に、ちょっと吉富教授へ質問
●以下の断定的表現には空自も含むの?
(現役時に職務上知り得た知識ですか?)
「中国軍は・・・有事には第1列島線に所在する航空基地に対して大規模なミサイル攻撃を行うと考えられている。その場合、米軍や第1列島線諸国軍の航空戦力は、こうした攻撃で早期に壊滅することを避けるため、ミサイル攻撃等を受けにくい第2列島線の航空基地に退避し、そこから第1列島線付近に飛来して作戦を行うこととなる」
●沖縄海兵隊は、なぜCSBA理事長論文では戦力にカウントされていないと思うか?
コメント:吉富教授の姿勢に思う
●空自を含む航空戦力が、中国の弾道・巡航ミサイル攻撃に対し極めて脆弱で、有事に機能を果たせないと勇気を持って主張した点は、「脅威の変化」を正しく捕らえた点で評価に値する。
●また併せて、強靱性や抗たん性を重視した装備体系の重要性を訴え、「陸海空各自衛隊が南西諸島で如何に役割を分担するか」と言った問題提起をしている点は注目されるべき
●一方でそれ以上に興味深いのが、陸自の組織防衛や予算獲得戦略として、「他自衛隊の脆弱性攻撃」や「他自衛隊の任務奪取」を前面で主張する戦術変更の動きが伺える点である。
●少なくとも「無知」で知的蓄積がなく、戦闘機数維持だけしか眼中にない航空自衛隊は、この冷徹な事実を踏まえた陸自の攻撃に耐えられないだろう
●これまで航空戦力の作戦基盤が脆弱である点を「全く無視」し、戦闘機で「巡航ミサイル」を撃破する「夢物語」を語ってきた空自の喉元に、陸自がナイフを突きつけた衝撃は大きい。陸海空の「泥試合」も今後予期される
●ただし吉富教授は、米国内の論壇を主に見据えたCSBA理事長論文が、同盟国への「負担のシフト」を大前提とした主張を展開している点から目を背けている点で無邪気すぎる。
●CSBA理事長論文を陸上自衛隊生き残りの「錦の御旗」に祭り上げ、これなくして何も議論できない「陸自組織のスリム化や装備の効率化」や陸自のスクラップアンドビルドに関して何の掘り下げもなく、「地上戦力=陸自」との拡大解釈を前面に立てている点で、論文の信頼性を著しく損なっている
●日米軍事同盟の「操舵室」に入るべために知恵を絞るべき日本のあるべき立場に目を背け、おそらくそうと知りながら、引退後も組織のしがらみに縛られ、「陸自の組織防衛」理論強化に入り込む姿が卑しい
●例えば、「地上戦力」と「陸上戦力」との用語の両方を区別無く使用しているが、「地上戦力」を陸自戦力だと読者に「刷り込もう」とする意図が見え隠れし、白けてしまう。
●「沖縄県内には49の有人島が存在するが、これだけ数の有人島を守るためには更なる能力強化を」と訴えているが、海空戦力の脆弱性を冷徹に指摘する軍事的合理性を掲げる吉富教授が、太平洋戦争時の南方戦線の教訓を無視し、陸上戦力での領土死守を訴え、「49島×数百人」の計算で陸自の組織防衛に貢献しようとする姿は情けなさを感じさせる
●「空爆のみで敵の地上部隊を壊滅させた例は見当たらない」との見出しを付け、島嶼部を地上部隊だけで死守するとの「決意」と「やる気」で突っ走っているが、正気か???
●無理なことは無理と主張すべき。無尽蔵の財源を前提とした議論は言いっぱなし議論を招き有益でない。
●更に今後、「49島×数百人」の積み上げが公式な理論に発展すれば、「安保法制」議論で激減している陸自志願者の募集が、ますます困難に直面することを憂える
●このように陸自中心の視点に立ち、「陸海空自衛隊による統合を進めて必要な資源を捻出する必要」や「陸海空各自衛隊が南西諸島で如何に役割を分担するか」と言った問題提起があるが、陸海空が「互いに譲り合う」ような論調でまとめており、暇な陸自の実態からかけ離れている
●更に言えば、海空戦力とは異なり、(防勢的な)陸自は「災害救援・人道支援などで中国と協力できる」から信頼醸成に最も適していると言及するあたりは、「中澤論文」と全く同じ締め方で墓穴を掘る形になっており、「災害派遣による生き残り戦術」で思考回路まで本末転倒になっている陸上自衛隊の「陰」を強く感じさせる
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熱くなりすぎたかもしれません。米軍を反面教師として、陸海空の「内戦」だけは避けたいんです。
陸のリストラも身を挺して語ってください。吉富教授殿
CSBAクレピネビッチ理事長来日旅程や講演で、陸自OBの山口昇氏が接遇や進行を勤めていたので気になっていたのですが、退役陸軍士官の結束で、クレピネビッチ論文を陸自防衛に取り込む手腕は流石です。
陸自研究本部の研究課長だった人物を、大学教授に再就職させ、情報発信させる組織的取り組みにも頭が下がります。
それが可能で、人が余っている陸上自衛隊にお願いしたいのは、陸自の組織防衛だけではなく、真の国防を見据えた活動の推進です。海空自衛隊は疲弊していますから・・・
CSBA理事長の来日公演
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-27
吉富論文と同列の現役自衛官の論文
「中澤論文」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10
オフショア・バランシング論の解説
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27