4年ぶり台湾への米国武器売却を分析

Taiwan1.jpg16日、米国は4年ぶりに台湾への約2200億円の武器売却を発表し中古のフリゲート艦や対戦車ミサイルや水陸両用車両が話題になり、お約束の中国側の反発(輸出に関与した米企業への制裁等)が報じられています
4年ぶりなので話題にもなりますが、2010年と2011年の同様の武器売却の総額が約1兆6000億円であったことと比較すれば「ささやかな規模」で、2011年時に含まれていたJDAMの様な目玉には欠けます
また、以前論点だったF-16C/D売却のような案件(F-16A/B型の改修で落着)はなく、2001年から放置プレーが続く8隻の潜水艦売却にも進展が無い状況のままです
来年1月には台湾総統選と議会選挙があり、政治的にも微妙なタイミングですが、とりあえずは今回の武器売却の中身を吟味したいと思います
18日付米海軍協会web記事によれば
Taiwan4.jpg●台湾の軍備増強につながるものは、米海軍で退役となったフリゲート艦2隻(Oliver Hazard Perry級)や対戦車ミサイル(BGM-71 TOW 2B)、水陸両用強襲車両(AAV-7を36両)、地対空ミサイル(携帯式Stinger)程度である
●損耗を補完するアパッチヘリや多用途艦載ヘリMH-60Rはリストに無く、落胆した関係者は少なくない
●ただ例えば、水陸両用強襲車両(AAV-7)は台湾海兵隊が求めていた装備で、台湾海峡での作戦や首都台北近傍の河川を想定した作戦にも有効であり、台湾軍の対処能力を向上させるものである
●また注目は集めていないが、10隻のフリゲート艦艇用のデータリンク(Link 11/Link 16)売却は、台湾製のデータリンクや台湾軍指揮統制システムとと共に、台湾3軍や早期警戒システム等の兵器システムの融合や連接を推進する
●更に無料提供される台湾軍と米太平洋軍との「bilateral communications network」は極めて重要で、米台軍事関係の強さを示すものである
潜水艦や戦闘機は過去の話題?
Taiwan3.jpg2010年や2011年時には、PAC-3売却が成立し、老朽化する台湾F-16A/B型の後継が話題になったが、台湾が求めたF-16C/D売却ではなく、F-16A/B型改修に終わっており、これ以上の話が出ることは考えにくい
ブッシュ大統領が2001年に約束した通常型潜水艦8隻の売却は、米国に通常型建造ラインが無く、他国も中国を恐れて売却しないことから頓挫している。業を煮やした台湾は昨年、自国開発方針を打ち出した。現時点では明確になっていないが、米国企業等は何らかの支援を求められる可能性がある
定義が不明確な防御兵器提供
Taiwan-China2.jpg2011年に米国が、台湾関係法の枠内との整理でF-16改修にあわせJDAM提供を決定したように、防御的兵器の定義は曖昧な部分がある(しかし今回の売却装備にはJDAMほどのインパクトの兵器は無い)
台湾軍需産業は「防御兵器しばり」を補完するため、対艦ミサイル(Hsiung Feng IIや超音速Hsiung Feng III)や対地巡航ミサイル(Hsiung Feng IIE)、ARM(Tien Chien IIA)やスタンドオフ兵器(Wan Chien)の独自開発に取り組んでいる
米国は、台湾のミサイル開発をいつも同情的に見てきた訳では無いが、台湾が非対称な防御能力強化に取り組む事を、陰ながら小声で応援するようになったと見て良いだろう。
●4年ぶりの今回の売却は様々に評価されているが、次の指標となるのは、毎年ベースで行われる定時の武器売却の中身となろう
/////////////////////////////////////////////////////////
来年1月の台湾総統選と議会選挙では、「独立」や「統一」ではなく、「現状維持」の政策をとる野党「民進党」が総統選挙の世論調査でダブルスコアの優位を保っており、議会選挙でも現在過半数を占める国民党に迫る勢いを見せています
Taiwan2.jpg無理に政治レベルと絡めることには無理がありますが、米国にとっては、「台湾を忘れていないよシグナル」と「今はそっとしておいた方が得策」との思いのバランスに配慮した売却リストではないでしょうか。
米国の大統領選挙とか、2017年度予算審議とか、色々考えればきりがありませんが・・・
「台湾の非対称な防御能力強化」はポイントです。日本としても、自分のこととして考えなければなりません!
台湾国防政策を考える
「台湾劣勢戦略に学べ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-25
「CSBAが提言:台湾軍事戦略」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
「10分野で米中軍比較」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-18
「親中の国民党が大敗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-09
最近の台湾軍事の話題
「イメージ映像中国軍島嶼占領」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-06
「台湾軍事見本市で見えた」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-10
「台湾が国産潜水艦を目指す」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17
「台湾の防空ミサイル投資」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-01
「中国空母対処の台湾演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-26-1
「台湾F-16能力向上問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-09
「台湾の巨大な中国監視レーダー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-28
「潜水艦用のハプーン受領」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-08-1
「台湾が兵士2割削減へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-22
岡崎研究所の台湾記事(2015年12月)
同床異夢の中台→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5760?page=1
中台首脳会談の解釈→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5692

タイトルとURLをコピーしました