米国防省webサイトが「2015 Year In Review」との特設サイトをオープンし、順序を着けるように番号を付けて10大ニュースを振り返っています。
「10大ニュース」に短いコメントを付け、国防長官等の発言を引用する簡単な構成ですが、これを「肴に」、ザックリと昨年を振り返りたいと思います。
一般の読者に皆様には、「Force of the Future」や「Multiyear Budget Deal」や「Tech Outreach」は日本のメディアで取り上げられることが無く、聞き慣れない事項かと思いますが、米国防省的にはとても重要で、同盟国としても頭に置いておく必要がありますので、可能な限り触れてみたいと思います
後半の本日ご紹介は第1位から第5位
1. The Fight Against ISIL
2. Force of the Future
3. Asia-Pacific Rebalance
4. Multiyear Budget Deal
5. European Security
第5位:European Security
●米国防省web表現
→ロシアによるウクライナやシリアにおける不安定化行動は、2015年の米国防省幹部の大きな懸念の一つであった。これへの対応として、米軍はNATO諸国と「Operation Atlantic Resolve」との一連の演習を数多く行った。また「Trident Juncture演習」は過去10年で最大規模の演習となった
→またカーター長官は、欧州を歴訪して米軍の即応部隊プレゼンスを表明し、NATOとの結束を確認しつつサイバー戦への取り組みを促し関連演習への参加を促した。
「黒海NATO演習と露軍反応」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-03
「欧州に米陸軍整備拠点を増設」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-10
「欧州に米陸軍が事前集積」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-16
「対露はVJTF(高即応統合部隊)で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-26
●ロシア軍は強力
—ロシア軍の対シリア戦を分析し、ロシア製レーザー誘導爆弾やGPS誘導爆弾の初使用や、カスピ海艦隊からの巡航ミサイルの発射等、「失われた90年代の遅れ」をロシア空軍が取り戻しつつあり、能力回復ぶりをアピールしたとの分析あり
—米軍が支援するウクライナ軍を通じた情報等から、ロシア軍の電子戦能力を評価し「露軍が出来る1/10の妨害も米軍は出来ない」、「最大の問題は、米軍が数十年も指揮通信が低下した状態で戦ったことがないことだ。妨害を受けた際、どうして良いか判っていない」と現状を厳しく認識
—カーター長官は11月、「最も困惑させられるのは、核保有国の国家指導者に期待される、核兵器の使用に関する戦略的安定性や規範に対するコミットメントに疑問が生じていることだ」と述べ、プーチンが核兵器の使用をちらつかせる発言を警戒
—プーチンは米国の中東正面での動きが緩慢なことを見逃さず、トルコと対立を強め、反面でイラン(高性能SAM売却を推進)、シリア、イラク(大統領と会談し対IS支援・武器提供を約束)、ギリシャにも接近して、中東での勢力を急激に拡大中
「長官の中露対処策講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-13
「露軍は鉄の壁arc of steelを構築中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-07
「露軍の電子戦力は米より強力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「米軍がロシア最新軍事技術分析」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02
第4位:Multiyear Budget Deal
●米国防省web表現
→強制削減の可能性の危機に直面して4年目、国防省は危機がもたらす不透明さと不確かさとの戦いに2015年を通じて対応した。
→2016年度予算として、国防省は「$534.3 billion」と「$51 billion」の海外緊急事態予算を要望した。10月末、議会と政府は、今後2年間の強制削減凍結と暫定予算で合意し、2016年度予算として「$580 billion」とすることにした
「強制削減を巡る攻防」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-27
●2年間の暫定合意の意味
—強制削減がたった2年間だけ回避さられホッとする声が関係者から聞かれるが、F-35、次期爆撃機、空中給油機、戦略原潜、空母や艦艇建造、練習機、救難ヘリ、4世代機延命&改修等々、装備品の老朽化更新は待ったなしで、従来の「枠」に収まらないのは自明。
—2年間だけの「暫定措置」で、長期的な研究開発や将来装備への投資額を見積もれない長期計画だ不可能な現状に変化なし。勇ましい「Third Offset Strategy」や「シリコンバレーとの協力」にも水を差しかねない現状に変化なし
「人材確保・育成策第1弾」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19
「Offset Strategy講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
第3位:Asia-Pacific Rebalance
●米国防省web表現
→カーター長官が12か国以上を訪問し、急激に変化する地域情勢や中国や北朝鮮からの脅威について議論。5月にハリス太平洋軍司令官が就任(母親が日本人)
●リバランスに関する米側の発言等
—最新の装備や兵器はまず一番に当地域に配備されるし、将来、米海軍艦艇の6割は同地域配備となる。また海兵隊は豪州でのローテーション配備を開始しているし、米比は、軍事協力関係の強化に向けた協議を続けている。
—日韓豪比との同盟強化の他に、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ベトナムとの新しい関係強化を含む、南&東南アジアとの関係強化を図る。ASEANやインドとの関係も重要
—前方展開戦力については「当地域の海兵隊については、より分散したモデルを追求し、沖縄に集中したプレゼンスを削減し、豪州、グアム、ハワイ、日本本土に再配置を進めている」と
—海軍は、計画通り4隻の沿岸戦闘艦LCSをシンガポールでローテーション配備するが、現在の2隻態勢を2017年までに4隻態勢にする
—米陸軍は今年の春後半に、旅団戦闘チームが朝鮮半島で初めてのローテーション展開を開始
—地域への精密誘導兵器への投資や、サイバーや宇宙空間での行動の自由を確保する取り組みも
「長官の「中露対処策」講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-13
「2015年アジア安全保障会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-28
「訪日直前のアジア政策講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-07
「国防省3人組が語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-16
●2015年にアジア太平洋リバランスに進展は?
—確認できません。欧州や中東で忙しく、西太平洋での取り組みに手が回らないのでしょう。日本が「安保法制」を通したのは数少ない成果かも知れません
—フィリピンでは米軍のアクセス拡大が裁判に持ち込まれて難航し、ベトナムやインドネシアやシンガポールでも画期的な成果があったとは言い難い現状でしょう
—インドとは長期的な視点で、モディ新政権と協議を開始したのでしょうが、インド側からの要望が空母やジェットエンジンの共同開発や設計ではハードルが高いと言わざるを得ません
アジア安全保障会議での国防長官発言
(中身に進化がないことをご確認ください)
「2015年カーター演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-28
「2014年ヘーゲル演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-27
「2013年ヘーゲル演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-31
「2012年パネッタ演説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-25
「インド国防相と会談」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-12
「シンガポール国防相と」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-09
「長官のベトナム訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-02
第2位:Force of the Future
●米国防省web表現
→2月17日にカーター長官が就任して、これを最優先事項の一つに掲げた。そして3月に初の国内部隊視察の途中で母校の高校に立ち寄り、米国の優秀な若者を米軍や国防省に引き付けるアイディアを語る
→4月には関係部署に本取り組みに関する現制度の見直しや改革案の作成を命じ、11月18日に「改革第1弾」を発表。若者へのインターンシップ魅力化や拡大、リクルート担当幹部の配置、退役後サポートの改革等々が含まれる
「人材確保・育成策第1弾」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19
第1位:The Fight Against ISIL
●米国防省web表現
→10月にカーター長官は対IS戦略を提示。穏健派対ISシリア軍事勢力やヨルダンを支援し、ISILの拠点である「Raqqa」に圧力、アンバール州の「Ramadi」奪還を目指すイラク軍を支援、米軍は機会をとらえてより活発にISIL指導者攻撃を行う
→イラクとクルド軍が、ISILにより圧力をかけられるよう、「specialized expeditionary targeting force」の派遣を計画する
→11月に発生したパリでのテロ事件を受け、同盟国等に対ISIL策強化を促す
「オバマ:シリア政策に変更無し」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17
「ゲーツのシリア対処案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-18
「ペトレイアスのシリア対処案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23
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最後は「息切れ」になりましたが、ざっと見ると2015年はこんな具合でした。
より民間研究者の視点で2015年の世界を見ると、以下のような視点が浮き上がってきます。米国防省の公式見解を見るうえでのご参考にどうぞ!
奥山真司氏のブログより
「グローバルなトレンド5つ」→http://geopoli.exblog.jp/25198136/
—中国の減速
—3つの災難(温暖化、テロ、政治事情で発生の移民難民)
—BRICsという神話の崩壊
—敗者に注意せよ(中国でなくロシアが不安を)
—ゲームを変えたもの(原油価格の下落)