米軍事メディアの「心神」への視線

「心神」は無駄遣いで、他の国防投資を犠牲にして日本を弱体化
shinshin2.jpg14日付Defense-Newsが、防衛省が開発して初飛行間近な技術実証機「心神」に関し、日本在住Paul Kallender-Umezu氏の記事を掲載しています。
当然、同記事の見方には、米国軍需産業を意識した姿勢もありましょうし、米国中心の「上から目線」意識も感じられますが、それもまた世界の一般的見方であることも否定できません
最近「MRJ初飛行」や「ゼロ戦復活飛行」などが話題になり、芸能界や若者にまで「日の丸航空機」への夢や思いを語る人が増えているようですが、世界の空軍や軍需産業を見ている専門家の目に、どのように映っているかを垣間見たいと思います
国産戦闘機の話題になると、米国からの外圧に屈した「F-2開発の悲劇」や、国内軍需産業の苦境の視点を軸足に論じる方も多く、特に1990年代前半の「日米貿易摩擦」を働き盛りで過ごした方々の「臥薪嘗胆」の思いは消しがたいものあるようです
しかし、日本の置かれている状況を冷静に見れば、「戦闘機だけに夢を見る」ことが良いのか・・・よく考える必要があると思います
F-15能力向上が最も論理的なシナリオだ
Aboulafia3.jpg●航空自衛隊は僅か42機のF-35購入を決定しているだけで、相互運用性に欠けるF-2やF-15に支えられている状況である。予算上の制約から、今年も僅か6機のF-35購入予算を積み、残り僅かでF-2能力向上を11機行うだけである
●航空コンサルタント企業の専門家Richard Aboulafia氏は、航空自衛隊戦闘機のオプションには、F-35追加購入、F-15の能力向上、または最新F-15の追加購入が考えられるが、当面42機のF-35へ優先投資されることを踏まえれば、最新F-15の追加購入は予算的にあり得ないと語った
●今後数十年間、F-15が空自の中心戦力である事は確かで、その搭載量や行動範囲等も考えれば、F-15能力向上を優先的に考えることになろう、と同氏は述べている
Ganyard.jpg●別のコンサルタント企業社長Steven Ganyard氏(元国務省次官補代理、海兵隊大佐)は、既に巨額の投資をF-35に行っていることからすれば、近い将来でのF-35追加購入は予算的に難しいだろうし、F-2の重要性は日本航空軍需産業の基盤維持のためだけにあると喝破した
●またGanyard氏も、F-15機体の耐用年数が十分なことも考慮し、F-15能力向上が最も論理的なシナリオだと示唆している
●日本への脅威は中国戦闘機ではなく、南九州までを簡単に攻撃可能な中国の弾道や巡航ミサイルである。低空を侵攻しレーダー探知が困難な大量の巡航ミサイル対処のため、F-35とAESAレーダー装備F-15の組み合わせが重要だ。これに併せて、移動式「rail guns」を南西諸島に配備する事も重要だろうと同氏は語った
日本は米国と共同でF-15アップグレード計画を推進し、経費やリスクをシェアして相互運用性を増し、米、豪、イスラエル、シンガポール等で5世代機と「4世代機+」の融合運用空軍国を形成してはどうかと主張した
「心神」に関する厳しい評価
●専門家は、日本は国際競争力の無いF-2やC-2やP-1への投資を辞め、自国だけでは製造が難しく、かつ世界レベルのアセットに資本投入先を再試行すべきだと主張している
Okumura.jpg●明治大学国際総合研究所の奥村準・客員研究員(元経済産業省の官僚)は「心神」に疑問を呈し、米国や欧州諸国が経費節約効果のある共同開発に興味し、購入する可能性のある航空機か?と疑問を投げかけ、単に貧乏人の2番煎じのおもちゃにすぎないと評価している
●前出のAboulafia氏は、「心神」は多額の資金を国防強化から奪い、訳の分からない機体に振り向けるものだと評価している
●Ganyard氏は、輸出を狙った高い目標を掲げないなら、「心神」は自国技術開発への自己賛美や実用とは別の威光を体現したものとなるだろうと表現している。また「心神」は「貧乏人の・・・」にすぎず、無駄遣いで国家を脆弱にするものだと語った
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単純に「もっとF-35を購入せよ」との主張であれば無視したのですが、諸情勢を踏まえ、「F-15能力向上」を提案していることから、ご紹介に値すると思いました。
Ganyard JMSDF.jpgちなみに、Aboulafia氏もGanyard氏も本分野では著名な専門家で、Ganyard氏は防衛省・海上自衛隊とも交流があります
色々ご意見はありましょうが、「心神」が飛んで万歳三唱で終わっては、あまりにもむなしいからです・・・
少なくとも、脅威の変化や経費面を考慮しない軍需産業維持のみの一本気な議論、「F-2国産開発頓挫の怨念」や「日米貿易摩擦の悪夢」忘れるな論、現政権の右側に旗を立てたいがための主要装備国産化論などよりは、議論のスタート地点になると考えます
もちろんそれ以前の論点として、旧来の「とりあえず戦闘機に投資」が多様な事態にも一番有効との論と戦わなければなりませんし、対外的な戦闘機の機数維持論理に「自縄自縛」状態の「固い頭」との戦いも避けて通れません。
こんな戦いには、「元経済産業省の官僚」研究員ではありませんが、自衛隊OBや「おたく」だけでなく、有能で国家安全保障に関する健全な視点を持った広範な分野の有識者が、参加して欲しいものです。。
「東京の郊外より・・・」もその一助になれば・・・と考えております
日本は戦闘機と心中するのか?
「悲劇:日本でF-35組立開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「悲劇:F-3開発の動き」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16

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