7日、1年間をかけて将来戦闘機を含む「Air Superiority 2030」検討を行ってきた米空軍幹部が米空軍協会で講演し、「第6世代戦闘機」との呼び名は相応しくない、多様なシステムの中の一構成装備だ、航続性能や搭載量がより求められる等と語りました
一方で、速度や機動性には「依然として価値がある」との「生暖か」な表現で言及するにとどめ、各種分析の結果が、従来の戦闘機と同方向のF-22後継機との単純な発想ではなく、脅威や戦場環境全体を踏まえた方向を示しているようです
この方向は、昨年CSBAが発表した現有戦闘機後継のイメージに近いような気がしますし、ノースロップグラマンの検討方向とも共通項があるように思います。
細部は不明ですが、今後様々な形で米空軍関係者が言及するでしょうから、とりあえずご紹介しておきます
7日付米空軍協会web記事によれば
●7日、米空軍協会主催の朝食講演会で米空軍の戦略計画部長Mike Holmes中将は、2030年代の航空優勢や制空獲得のために1年間をかけて行ってきた「Air Superiority 2030」検討の結果について言及した。
●同中将は、近い将来、現在の米空軍レベルに達する敵対者に先んじるためには、濃密にネットワーク化され宇宙アセットも活用する「システム群の中のシステム:system of systems」との位置づけで各装備を考える必要があると語った
●そしてその中では、F-22の後継装備は鍵となるアセットではないだろうとも同中将は表現した。
●またHolmes中将と同検討を取りまとめたAlex Grynkewich大佐は、次の航空機に言及する際には、現存戦闘機の後継機を連想させる「第6世代」との呼称は相応しくないとも述べた
●次の航空機は膨大なシステム群の一つの要素にすぎず、つまり、安価で使捨て無人機の群れ、強化された突破力あるスタンドオフ攻撃能力、システム連接を支える宇宙アセット、航法や目標照準機能、最新技術の既存装備への注入等の広範なシステムの1要素となろう
●更に突っ込んでGrynkewich大佐は、検討の結果、長距離航続能力や大きな搭載能力が次のアセットの鍵となるだろうと述べ、B-21(次期爆撃機LRS-B)のようなイメージも選択肢の一つになると語った
●同大佐は、速度や機動性についても、2030年代の空での戦いで「以前価値がある:still have value」事が検討で明らかになったと語った
大型と小型の「弾薬庫航空機」を
●Grynkewich大佐はまた、「Air Superiority 2030」検討における「弾薬庫航空機:arsenal planes」に関する検討状況について言及し、「・・・2030」においては航続距離・ペイロード・残存性・目標照準の手段等の観点から、どのような戦力構成が最適化を検討したと述べた
●そして、大型の「弾薬庫航空機」は残存性が低いので長射程兵器で遠方からの戦いを想定し、小型「弾薬庫航空機」はF-22やF-35に追加弾薬を提供して敵防空網内で戦うイメージを持っていると語った
●同大佐は、今後数年をかけ、国防省内に迅速な戦力化や装備化を遂行するために設置された「Strategic Capabilities Office」が中心となり、プロトタイプや実験でコンセプトを検証していくと説明した
5月末までに結論を固める
●Holmes中将は「system of systems」の考え方による新しい航空優勢へのアプローチによる新能力体制を、早ければ2025年にもスタートしたいと語った。
●そのためには、20年以上かけて非常に高い要求性能を追い続けたあげく、完成したときには「時代遅れ」にならないよう、何が可能かを見極め、多様な一連のオプションを追求したい
●ただしこの目標時限が「かなり野心的」である事は認め、一連のプロトタイプや試験が順調であることが前提で、更に結果が国防省や空軍リーダーにも認められることが必要だと述べた
●背景には、2023-2025年にかけては、次期練習機、JSTARS後継機、B-21爆撃機等の導入時期で、更にF-35とKC-46の生産がピークに達する時期でもあるからである
●また同中将は、今後数週間以内に軍需産業関係者を集めたイベントを開催し、現実的な装備化に向けたアイディアや協力をお願いしたいと語った
●Grynkewich大佐は、5月末までに結論を固め、「2019 Program Objective Memoranda」における選択肢に加えたいとの考えを明らかにした
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「システム群の中のシステム: system of systems」との表現は、これまで繰り返し米空軍幹部が使用していた言葉ですが、「長距離航続能力や大きな搭載能力」を重視するとの具体的言葉が米空軍幹部から出たのは、まんぐーすが知る限り初めてです
以下では、冒頭紹介のCSBAレポートやノースロップグラマン社の考え方を基礎に、本米空軍検討を推察してみました。
●中国等を相手に想定した場合、相手近傍の航空基地は精密誘導兵器で破壊されるだろうから、長い航続距離が航空アセットには必要。また、空対空や地対空ミサイルの性能が向上し、次期戦闘機(不適切な表現だそうですが)が機動性や運動性能を多少高めても意味はあまりなく、航続距離を優先した方が適当
●高度化し同時多数攻撃使用が予期される敵の空対空や地対空ミサイルから自己防御するためには、電力がある限り何回でも使用でき、光速で対処可能なレーザー兵器の搭載が必要なため、搭載量確保が重要。
●最前線の敵情報をネットワークで入手し、遠方から攻撃可能な体制を目指す方向にあることから、小型の戦闘機タイプより、敵に応じた多様な兵器を多数搭載できた方が効率的。そこで爆撃機B-21型のイメージも候補となり得る
もちろんこの先どうなるか判りません。大型機タイプが導入されると、戦闘機パイロット数が減少したり、職を失うことにつながるため、強烈な職域防衛意識が働き、山のように従来型戦闘機必要論が生み出されるのでしょう
航空自衛隊など、この点は得意分野でしょう。過去数十年、戦闘機の飛行隊数とパイロットの身分保障にだけ全力を上げてきた組織ですから
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防衛省が平成22年(2010年)公表の6世代機イメージ
(空中戦を想定し、搭載量や航続距離を重視していない点で根本が違うような印象)
→http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/08/25a_02.pdf
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