RAND:台湾よ戦闘機を削減しSAMを増やせ!

RAND「台湾よ戦闘機を削減しSAMを増やせ」
RAND Taiwan.jpg5日付Defense-News記事が、RAND研究所が発表した台湾防空戦力のあるべき姿を研究したレポート「Air Defense Options for Taiwan」の概要を紹介し、結論として、現在約330機保有している各種戦闘機を50機程度まで削減し、浮いた国防予算で地対空ミサイルを増強すべきだと主張している模様です
分析は、4つの防空体制オプションを、3つの紛争段階で検証する形を取っており、グレーゾーン事態から侵略事態までを通じた総合的な場の設定で「あるべき体制」を検討しています
膨大な170ページのレポートに目を等したわけではなく、細部に触れていないDefense-News記事を通じてのRANDレポートのご紹介ですが、中国軍のミサイル戦力は圧倒的で、経済情勢から国防予算が横ばい状態である事や、最新戦闘機を追い求める台湾空軍の伝統にも触れており、日本の戦闘機命派に見せたいレポートですのでご紹介します
全般情勢の認識
RAND Taiwan4.jpg●台湾の経済情勢や政治情勢も有り、国防予算は横ばい状態が続いており、強力な戦闘機部隊と防空ミサイル部隊の両方を追求するには難しい状況にある
毎年1.2兆円程度の台湾国防費に於いて、現状の戦闘機部隊を維持するだけでも今後20年間で2.5兆円必要で、米国が許可したF-16の能力向上には別に3800億円が必要である
●また潜水艦の建造など、海軍にも重要事業が待ち構えている
中国の急速な軍備増強と、南シナ海や東シナ海での横暴とも言える領土領域主張と実効支配の動きが続いており、周辺情勢は緊迫度を高めつつある
●台湾では、親中的な馬政権から民進党政権に政権が移行し、民進党が現状維持を党方針としているものの、若い世代には中国へのアレルギー感があり、中国側に焦りが出る可能性も否定できない
中国が増強する経空脅威(一例)
RAND Taiwan5.jpgJ-11Bの能力向上で、高性能空対空ミサイルPL-15やAESAレーダーを装備する事は大きな潮目の変化。またロシア製のSu-35戦闘機や、台湾全土を射程距離内に置くS-400防空ミサイルの導入もある
無人攻撃機や、中国が独自開発するステルス戦闘機と言われるJ-20やJ-31の存在
●台湾正面に1000発以上配備されている短距離弾道ミサイルやDF-21D(空母キラー)やDF-26(グアムキラー)などの中距離弾道ミサイル。更に多様な巡航ミサイルやYJ-91対レーダーミサイルや対衛星兵器にも力を入れている
●また台湾軍に対するスパイ活動も活発で、台湾軍のC4Iや防空システムに関するスパイ活動が摘発されているが、氷山の一角と見られている
比較評価された防空体制オプション4つ
現状の戦闘機328機体制(能力向上型F-16、台湾国産戦闘機IDFs、Mirage 2000-5s)
能力向上型F-16(約140機)のみ戦闘機を維持し、他は廃止。パトリオットを4個部隊と21個防空ミサイル部隊(IFPC-2)を増強
現戦闘機を全て廃棄し、垂直離着陸型のF-35を57機導入
能力向上型F-16を50機のみ維持し、他機は破棄。SAM部隊を重視し、パトリオットを13個部隊と40個防空ミサイル部隊(IFPC-2)を増強
上記オプションを検証する3つの事態
中国による台湾海上封鎖に伴い、双方が航空優勢を巡り、限定的な遭遇戦的な空対空の戦闘を行い、双方に限定的な損耗が出る。
主要な台湾国防能力を排除するため、台湾本土に対するより激しい攻撃が行われる。
台湾本島への侵攻シナリオ。侵攻阻止のための作戦を支援するため、防空ミサイル部隊を活用
RANDによる分析結果
RAND Taiwan2.jpg結論として能力向上型F-16を50機のみ維持し、他機は破棄。SAM部隊を重視し、パトリオットを13個部隊と40個防空ミサイル部隊(IFPC-2)を増強」を推奨
IFPC-2は米国の「Indirect Fire Protection Capability-2」で、防空ミサイルに空対空ミサイルのAIM-9XやAIM-120を活用したシステム。1個部隊には発射機4両が所属し、1両に付き15発の防空ミサイルを搭載。パトリオットシステムと指揮統制装置を共有可能
●移動可能な車両搭載型の防空ミサイルシステムを推奨。固定式レーダーの脆弱性も強く指摘
台湾空軍は継続してF-35Bの売却を米国に求めているが、米中関係や最新型F-16への能力向上を拒否した米国の姿勢からすれば、F-35Bの導入可能性は極めて低い。海外に垂直離着陸型F-35をいつ提供するかも不透明
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レポート現物(重い:172ページ)
→http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR1000/RR1051/RAND_RR1051.pdf#search=’RAND+Air+Defense+Options+for+Taiwan%3A+An+Assessment+of+Relative+Costs+and+Operational+Benefits’
RAND Taiwan3.jpg細かな分析については触れていませんが、戦闘機への投資を削減し、予算を残存性の高い防空ミサイル部隊に振り向けた方が、トータルで国防への投資が有効活用できるとRANDのレポートを主張しているようです。
先日、「5日間で中国軍の攻撃に日本は屈する」とのRANDの研究を、戦闘機命派の航空自衛隊OBが非難する様子をご紹介しましたが、同空自OBなら、日本は南北に細長く、露中鮮の3正面対処を迫られるから戦闘機はタップリ必要だとか主張するのでしょう
でも本RANDレポートが主張するのは、中国軍が初動のミサイル攻撃で航空基地や管制レーダーを破壊する脅威の実態を踏まえ、青天井の国防予算が期待できないならどのような投資配分が最も抑止力を高めることに効果的かです
極めて冷静で実践的な議論で有り、日本に欠けている視点です
これまで口を酸っぱくして繰り返してきたので疲れましたが、極めて穏当な素直な結論だと思いますし、日本にも当てはまる部分が大変多いレポートだと思います
分析の前提や細部の解釈に拘らず、大きな視点でその指摘を見つめたいものです
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