あれっ・・対中国の表現が少し柔らかに・・
中国に変化を見たのか、対ISや対露優先のためか・・・
13日、米国防省が議会に提出する恒例の通称「中国の軍事力」、正式「Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2016」を発表しました。
例年90ページ程度ですが、今年は150ページを超え、約60ページほど付属資料や両国軍関係の基礎となる覚え書き等の公式文書が参考資料として追加添付された形となっています
毎年同様、報告書冒頭のサマリーからご紹介するのですが、2~3ページのエッセンスの書き方が大きく変わりました。
従来は、軍備近代化の目的は「高列度紛争に短期間で勝利」であり、台湾が主方向ながら東や南シナ海にも広がりつつあると明記し、具体的には弾道・巡航ミサイルを増強強化、サイバー戦や宇宙戦や電子戦に注力、高性能航空機、統合防空、情報作戦、着上陸・空挺作戦等の改善も・・との表現が大きな柱にありました。
もちろん今回も、「short-duration, high-intensity regional conflicts」能力追求など従来の記述は引き継がれていますし、ミサイル&サイバー等々の能力強化や米国等の介入を阻止しようとする拒否能力強化の方向も指摘しています。また南シナ海での高い緊張感を苦にしない利害追求の姿勢にも警戒感を示しています
しかし、「長期的な中国軍の軍近代化は、全般に渡る組織改革発表で、新たなフェーズに入った」で始まるサマリー冒頭から、何となく雰囲気が違うんです。例えば・・
●中国軍組織改革の目的は、まず中国共産党の軍へのコントロールを強化すること、次に統合作戦能力を強化すること・・・
●中国指導者は、軍強化、外交や経済的影響力強化を地域での地位と国際影響力に活用しようとしている。そして軍近代化を習近平の「中国の夢」実現やグレートパワーとなるために不可欠なものと考えている・・・
●しかし中国はまた、米国との直接的で明確な紛争を避けようとしている。中国指導者は、紛争や地域の不安定化が中国共産党の正当性を支える継続的な経済発展を妨げることを理解している
●短期的に中国は、武力紛争に至らない「coercive tactics」を執り、領有主張のため艦船を投入したりして、紛争に至らない敷居を計算して行動するだろう
●長期的には、敵対者の戦力投射を抑止して撃退し、米国のような介入者に対抗する能力開発に焦点を当てる。中国軍の近代化は、米軍事の中核技術の優位性を殺ぐ能力構築に向けられる
また中国指導層の軍への問題意識を記述
●中国軍近代化は問題に直面しており、習近平は「腐敗」などに注力している。2012年以降、40名以上の軍高官(退役後の人物も含む)が摘発されている
●更に習近平が軍に示したスローガン「戦い、そして勝利せよ」は、30年以上実戦を経験していない軍指導部と中国軍の能力に対する国家指導者達の懸念を示唆している
もう一つ朝鮮半島も対象範囲に
●中国軍は引き続き台湾海峡での潜在的な戦いへの備えを準備の焦点に据えているが、追加的任務として、例えば、東シナ海や南シナ海や朝鮮半島での不測緊急事態への対応も重要性を増しつつある
このほか、米国防省の対中姿勢についても、中国との軍事関係強化に継続的に取り組んでいくこと、中国に国際規範やルールを尊重するように働きかけていくこと、中国と誤解や誤認識や不意遭遇的な事案防止のために努力することを、より丁寧にしっかり記述しているような気がします
対ISや対露を優先したいためのソフト姿勢か?
経済急減速の中国に変化を感じているのか?
●個人的な感想として、「対ISや対露を優先せざるをえない現実」と「経済急減速の中国に変化」の両方から、今回の報告書のスタイル変更が導かれたのではないかと思います。米国との協議や交渉の裏の場面で中国の「軟化」が見られるとも考えにくいですが
●金曜日に、東アジア担当の次官補代理がロープロファイル会見で発表する「刺激したくないスタイル」はここ数年の傾向ながら、米国防省web記事は協力強化の追求姿勢に半分以上を裂いています
●弱腰と指摘されないように、中身をちらちら見ると、新装備の導入や開発状況はきちんとフォローしていますし、台湾との有事を想定した軍備整備分析にひとつの章を割り当てるなど、中国軍事力の実態把握は丁寧に行われています
●軍の組織改革や南シナ海の埋め立て基地の状況も写真入りで丁寧に説明され、第2章に「Understanding China’s Strategy」を設けて習近平の考え方にアプローチも試みており、決して警戒感を緩めたわけではないとの姿勢を見せています
さて・・この報告書スタイルの変化をどう見るべきでしょうか。
ちらちらつまみ食いで見ただけですが、「違和感」とは言わないまでも、「その心は?」と質問してみたいです。
専門家の皆さんはどのようにご覧になるのでしょうか? 内外のメディアはどのように報じるのでしょうか?
軍事装備面での注目点などは、気が向いたら、いつか追記したいと思います
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14日付「海国防衛ジャーナル」はいつもの様に
判りやすく、短節に、同レポートから各軍種ごとの兵器動向を紹介
→http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50768010.html
南シナ海人工島
●2014年までに埋め立てを終えた4つの人工島は、インフラ整備の最終的な段階に入り、通信・監視、兵站システムも建設した。
●残りの3つの人工島にはより大規模な拠点があり、2015年10月までに埋め立て作業が終わり、インフラ建設段階へ移行しつつある。
●3つの人工島それぞれに約3,000mの滑走路を持つ飛行場があり、現在、大規模な港にくわえてその他通信・監視、兵站システムを建設中
ロケット軍
●DF-16、DF-21C/DをCJ-10が補完する(筆者注:弾道ミサイルと巡航ミサイルの補完関係に触れたのは初めて)。
●DF-26が配備されれば、地上目標に対する精密攻撃を担い、アジア太平洋地域の戦略的抑止力となる。
●DF-26は、中国にとって初めての戦域目標に対する核精密攻撃戦力となる。
●DF-21D対艦弾道ミサイル(ASBM)の射程は1,500km(筆者注:2015年までは1,700km(900nm)と表記)。
●ICBMは約75~100発(筆者注:2015年の50~60発から増加)。
海 軍
●潜水艦の近代化も主要課題のひとつであり、攻撃原潜×5、弾道ミサイル原潜×4、通常潜×53を持つ。2020年までに、69~78隻の潜水艦を配備する。
●商級SSNは、VLSにYJ-18対艦ミサイルを搭載する。
●JL-2 SLBMの射程は7,200km(筆者注:2015年までは7,400km)。2016年のうちにSSBNによる初の核抑止パトロールが実施されるだろう(筆者注:2015年版には2015年中に開始すると記載)。
●096型SSBNは、JL-2、JL-3を搭載予定。
空軍&海軍航空隊
●2015年にJ-20の5号機と6号機が試験飛行開始。
●H-6爆撃機の最新型であるH-6Kは精密誘導巡航ミサイルのキャリアーとして、グアムに対する長距離スタンドオフ攻撃をもつ。2015年、H-6Kが西太平洋へ進出し、長距離演習を実施。
●すべてのH-6型(H-6H、H-6M、H-6K、H-6G)は、ウェポンベイに重力爆弾、精密誘導爆弾、機雷を搭載できる。
●H-6Uは国産戦闘機に空中給油が可能だが、現時点で空中給油試験を行っていない。
核抑止
●ICBM、SLBMの開発だけでなく、戦略抑止能力を持つ爆撃機の開発も継続している。
●長距離ステルス戦略爆撃機を開発するという意図を持っているとされる。
●中国は「核の三本柱」を確立していくのだろう。
2016年報告書の現物
→http://www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2016%20China%20Military%20Power%20Report.pdf
過去の米国防省「中国軍事力」レポート
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1
中国軍関連の記事
「習近平がPLAの組織改革発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-27
「驚異の対艦ミサイルYJ-18」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-30
「仰天:DF-26も空母キラー?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04
「10分野で米軍と中国軍を比較」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-18
「中国陸軍の取り組みと課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-11
「空母監視衛星打ち上げへ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-10
「中国安全保障レポート2016」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
「東アジア戦略概観2016」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25