対米念頭、軍事活用を加速
20日付読売新聞は朝刊6面で、「中国版GPS、4年で全世界カバー:軍事活用も」との記事を掲載し、中国版GPSシステム「北斗」に関する初の白書を中国政府が発表し、2018年に巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線や周辺国、2020年前後に全世界をカバーするGPS網を構築すると明らかにしたと報じています
同システムは2012年に中国大陸沿岸の西太平洋地域の限定範囲で運用を開始しましたが、次第にシステムを支える衛星の数を増やし、着実にサービス提供エリアを拡大しています
また、タイやパキスタンなど30か国以上に同システムを利用可能な商品を納入したとも発表し、さらなる拡大を狙っている模様です
20日付読売新聞の記事によれば
●中国による独自GPS開発は軍の統合運用に不可欠で、海洋進出を強める南・東シナ海などで対米国を念頭にした軍事活用を加速するとみられる。
●開発当局者によると、中国は1994年に「北斗」の開発に着手。現在、約5~10メートルの精度で位置情報を提供でき、主にアジア・太平洋地域の30か国以上がサービスを受けている。今後、約60か国が参加する「一帯一路」関係国に対象を広げ、計35基の測位衛星で全世界をカバーする計画だ。
●中国は2020年を目途に初の空母戦闘群の運用を検討中とされ、他国に依存しないGPS網の構築が不可欠である。今後、南および東シナ海での制空・制海権確保のほか、外洋展開の布石として、「真珠の首飾り」戦略を実施するインド洋でのシーレーン防衛などに積極活用するとみられる
●当局者は、現在4万隻以上の中国漁船が「北斗」システムを搭載済みで、位置情報の通知や携帯電話のネット接続が可能と発表。南シナ海などで中国の「主権」を誇示するための大量の漁船団組織などにも活用する可能性がある
16日付NHKのweb記事によれば
●中国政府で「北斗」を管轄する部門の冉承其報道官は16日、記者会見し、「『北斗』はすでに中国の重要なお薦めブランドであり名刺でもある」と述べ、運用から3年余りがたち、パキスタンやタイなどすでに30か国以上にこのシステムを利用できる商品を納入したと発表
●また、冉報道官は「国防に役立っているはずだ」として中国軍でも利用が進んでいるという認識を示したほか、中国沿海部の漁船4万隻余りや、今年1月から3月に中国本土で出荷されたスマートフォンの30%余りで「北斗」を利用できるとしています。
●中国政府は2020年頃に、このサービスを全世界に提供するとしており、その実績を強調することで世界各国での一層の利用拡大を図りたいとの思惑があるものとみられます。
補足:鳥嶋真也さんの解説(2015年4月執筆)
●2012年10月25日に16号機が打ち上げられ、中国は同年12月27日をもって、アジア・太平洋地域を対象にした航法サービス開始を宣言した。測位の精度は実験衛星よりも大きく向上し、民間向けで10m、軍向けには10cmの精度が出せるという。ただ後者は、もしくは前者も、おそらく地上に置かれた基準点など使って補正した際の値だと思われる。
●16機の衛星は軌道配置に少し偏りがあり、中国上空を中心とした経度に偏っている。このことから、中国はいきなり全地球でのサーヴィス展開を狙っていたわけではなく、まず中国国内のみを対象にサーヴィス提供ができるようにし、次にその周辺のみを、という形で、堅実に構築を進めていく方針を採っていたことがわかる
●しかしこの後、北斗の打ち上げはしばらく行われなかった。だが2015年3月30日、全地球規模での展開に向け、第3世代機にあたる「北斗三号」の1号機、正式名称「北斗衛星17号」が打ち上げられた。
●正確には分からないが、「北斗三号」の1号機への搭載機器の性能、特に原子時計の精度は向上している思われる。また、測位の精度については従来の最大10mから、2.5mにまで改善されることが報じられている。
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今後全世界をカバーするため衛星数を更に20基積み上げ、老朽衛星の更新も並行して継続できる資金力があるのか不明ですが、わざわざ「初の白書」を発表し、習近平が宇宙での戦いを制するよう関係者に「檄を飛ばした」とのうわさもあることから、決して過小評価はできないでしょう
2015年3月に「北斗三号」シリーズの打ち上げが始まってからの情報が、ネット上では良く分かりません。
ご存じの方がいらっしゃいましたら、教えてください。
中国と宇宙関連の記事
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「米空母監視衛星打ち上げへ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-10
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「宇宙アセット防御予算8割不足」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-01-1
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「欧州を主戦場に大規模演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-11
「F-15から小型衛星発射試験へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-09
「米空軍のSpace Fenceを学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-28