戦闘機命派の織田氏が自滅の今、非戦闘機命派OB出現か?
今ひとつ「殻」を破れていない感は残るが・・・
6月10日付Blogosサイトに、元空将で非パイロットだった小野田治氏が「米国の相殺戦略、日本の相殺戦略」との長文の論文を投稿し、米国による「第3の相殺戦略」を概観しつつ解説し、日本として採るべき施策について提言しています
小野田氏は航空自衛隊を退官後、ハーバード大のフェローを2013年7月から2年間務めており、その間の研究を基に当該論文をまとめたものと思われます。勝手な見方ですが、「東京の郊外より」を大いにご利用ご覧頂いているような気がします
論文ではまず、2014年11月にヘーゲル国防長官(当時)が「第3の相殺戦略」を発表した「DII:Defense Innovation Initiative」文書から、同戦略の背景や基本的考え方を紹介し、雑多な取り組みが進む現状に触れます。
そして、「第3の相殺戦略」の行方と日本への示唆を検討するため、「第1」及び「第2」の相殺戦略を振り返りつつ教訓を読み取り、最近の中国軍事力増強の本質に言及し、日本がなすべき事を4つの視点で訴えています
論文を拝見すると、小野田氏の脅威の変化や相殺戦略への理解は正しくかつ十分で、日本の国防を取り巻く国内事情にも精通している様子が伺えます。
特に、非戦闘機命派OBの宣言かと期待を抱かせる表現・・・「敵地攻撃能力の整備検討が必要・・・F-35の活用も選択肢だが、40機では不十分で、増強には莫大な予算が必要。この点、ミサイルは攻撃手段としては相対的に安価」に注目しました
本日は、小野田氏が「同盟国に大いに示唆を与える」と説明している「第1」及び「第2」の相殺戦略の教訓部分と、日本への提言4つをご紹介します。それ以外の部分も、相殺戦略の全体と現状を把握するのに格好の教材ですので、お若い頭が柔軟な皆様にお勧めします
「第1」及び「第2」の相殺戦略の教訓
●第1に、あらゆる事態に対処可能なバランスの取れた戦略や準備が必要。「第1の相殺戦略」でも、核兵器による大量報復戦略だけでなく、同盟諸国とともに相手の通常戦力使用を抑止し、抑止が敗れた際には迅速的確に対処する準備が必要であり、核戦力はその後ろ盾であると位置付け。
●即ち、こちら側に戦略的な弱点があれば、競争相手は必ずそこを突いてこちら側の優位を相殺しようとするという情勢認識が重要である。
●第2に、地球上の全目標に多様な戦力投射を行う能力は、敵の防衛計画を複雑にし、我の戦略的行動の自由を確保することに貢献する。
●敵のA2ADに対し、その到達範囲外から攻撃能力を持つことが米国の強みで、米国の核攻撃手段の「3本柱」も核抑止の信頼性確保のために不可欠。
●第3に、脅威に対して非対称や革新的な方法で、いつ何処でも打撃を加えることのできる能力が、抑止の信頼性を高めるということ。戦車には戦車で、艦船には艦船で対抗するより、自らの長所を相手の弱点に指向する作戦構想が必要。
●今日の米軍の運用構想では、陸、海、空、サイバー、宇宙という5つの作戦領域のうち、米軍の優越な分野で敵を圧倒し他分野の作戦を有利に展開するとしている。
●第4に、他国との同盟関係やパートナー関係が敵の作戦計画を複雑にし、競争相手に高いコストを強要するということ。欧州、中東、アジアで米国が指向しているのは、より強固な同盟・パートナー関係であり、情報の共有と密接な共同作戦。
●またこれらの準備は、同盟国等に展開する前方展開戦力が、脅威に迅速かつ適切に対処するために益々重要な意味を持つ。
米国の同盟国日本がなすべき事
●第1に、敵の弾道・巡航ミサイル攻撃からインフラや装備等を守ること。イージス艦とペトリオットのみでは量的に飽和的な攻撃に対処できない。多数のミサイル等による集中波状的攻撃から被害を局限する方策、つまり装備等を分散、代替の運用拠点を確保、分散、機動が困難なインフラには十分な防護措置、分散状態からの戦力発揮体制など、強靭な態勢が必要。防御兵器の前に重要機能の分散防護が必要
●自衛隊と米軍基地の相互利用が挙げられている。わが国にはそれ以外に100を越える港湾と約70に及ぶ空港があり、これらを分散、機動、代替運用施設として活用
●役所の縦割りを廃し、発電所、燃料貯蔵施設や弾薬保管施設、装備品等の製造施設などのインフラの保全も不可欠。NSCが省庁の壁を越えて総合的な観点から方策を検討すべき
●第2に、米国の取り組みへの我が国の科学技術力の活用。米国防省の研究開発費は防衛省の64倍で格段の格差だが、日本の強みは民間の技術力。日米双方にとってWIN-WINとなる方策が必要で、一方的な技術流出、富の流出にならぬよう、新たな防衛装備3原則の下で、政府も関与し日米企業によるジョイント・ベンチャー構築が有望
●日米の弾道ミサイル防衛用のミサイル共同開発は、防衛省の下で民間企業力も活用して行われているが、さらに広範な分野で、日本の競争力向上を狙いつつ、産官学の力を結集する必要
●第3に、日米及びパートナー国を交えた共同のウォーゲーム等を通じて相互の認識を深め、作戦運用、装備・技術に関する画期的なアイデアを生む協力態勢を構築すること。特にアジア地域では、遠距離を克服して迅速な攻撃を可能にすることが米軍の大きな課題の一つであり、アジア地域での様々なシナリオを検討し、共同対処を研究することが双方に必要不可欠
●米軍と自衛隊のみ参加のゲームでは不十分。政府全体、産学、NGO等を含めたものに拡大することが必要。
●第4に、敵地攻撃能力の整備を検討する必要。米国と協力しつつも独自性の高い懲罰的な手段を追求することが必要で、露や中国のA2AD網を突破可能な射程1000km単位のミサイル攻撃能力と、それを可能にするISR能力や指揮統制能力が必要である。
●F-35の活用も選択肢だが、40機では不十分で、増強には莫大な予算が必要。この点、ミサイルは攻撃手段としては相対的に安価。日本はBMDの努力を継続しつつも、中距離ミサイル開発に予算を投じて戦略的な見地からバランスの取れた抑止力を強化すべき
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小野田氏の空自現役時代の専門はエレクトロニクスで、現在は、㈱東芝インフラシステムソリューション社顧問です。
ですから、日本の軍需産業に対する思いは強く、論文にもそのあたりへの見識と懸念と提言に力が入っています
「非戦闘機命派OB出現か?」とのキャッチを付けましたが、未だ軍需産業に所属している身分も有り、突っ込みはまだまだ不十分と言わざるを得ません
例えば、「戦車には戦車で、艦船には艦船で対抗するより」と記しているが、ここには当然「戦闘機には戦闘機」との考え方にも否定的な表現があるはずが、なぜか存在しない。明確に戦闘機命派の影響や配慮が感じられ、笑えます!!!
上記でも述べたように、脅威認識や米国の努力方向をこれだけ正しく把握・認識しているなら、また「敵攻撃からの被害極限」を第1に主張するなら、なぜもう一歩踏み込んで「戦闘機への一点集中投資は見直せ!」とか「陸上自衛隊の実員規模を削減して装備や施設強化に配分」とか、主張しないのでしょうか?
例のJBpress投稿事案で、「田母神」化の道を進みそうな「織田邦男」とともに、戦闘機命派が地盤沈下するのでは・・・とぼんやり眺めているのですが、そんなタイミングで見つけた「非パイロットOB論文」でした。
小野田氏に続く「非パイロットOB」から、戦闘機命派への「2の矢」「3の矢」となる論考や意見発表が期待されます!
戦闘機命派と非戦闘機命派空自OBの激突
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「広中雅之は対領空侵効果に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
第3の相殺戦略:Third Offset Strategy関連
「焦点の一つレーザーの現状と課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-24
「次期政権と相殺戦力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
「宇宙とOffset Strategy」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-01
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15
「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12
「Three-Play Combatを前線で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09
「空軍研究所で関連研究確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-07