9月21日、Work国防副長官が米空軍協会の航空宇宙&サイバー総会最終日に登場し、「第3の相殺戦略」のポイントを再徹底すると共に、「技術革新面」でない「組織運用改革面」での最初の実例として米空軍主導の多機関共同の宇宙作戦センター(JICSpOC)を高く評価すると共に、陸海軍の取り組みを紹介しつつ米空軍に要望事項を示して一層の努力を要望しました。
「陸海軍の取り組みを紹介」する場面では、具体的に陸海軍幹部の論文を紹介してその革新的なアイディアを讃える扱いをしており、Work副長官的には米空軍の取り組みを「今ひとつ」と感じているような印象を受けます。
空軍への要望に「センサーと兵器等をマルチドメインで結ぶ指揮統制グリッドへの新アイディア」と表現しており、新空軍参謀総長が最近打ち出した重視事項の一つと一致しており、震源がWork副長官主導の「第3の相殺戦略」であることを伺わせます
また、最近とても「淡泊な」米国防省webサイトが、本講演をかなりしっかり紹介しており、米空軍へのメッセージとして重要な位置づけを示しています
まず、なぜ何のために何を「第3の相殺戦略」を
●「第3の相殺戦略」に取り組む3つの理由は、まず、米軍は大部分の戦力を米国内に保有しているが、将来大規模紛争が生起しそうな地域に大規模戦力の集積は困難で、緒戦では潜在的な敵が時間と空間と戦力数で優位に立つ可能性が高いこと
●2つ目に、潜在敵対者も過去には保有していなかった米軍に近いレベルの誘導兵器を保有するようになってきていること
●3つ目に、敵対者は米軍が「第2の相殺戦略」の結果として、ネットワークや宇宙アセットに依存していることを良く把握し、多額の投資でサイバーや電子戦や宇宙兵器を準備して対ネットワーク戦能力を高めている点である
国防省高官がこぞってJICSpOCを高く評価
●コロラド州のSchriever空軍基地にある「JICSpOC」は、米戦略コマンド、国家偵察室(NRO)、空軍宇宙コマンド、米空軍研究所ARRL、情報コミュニティー、宇宙関連情報提供企業が協力して運用する形態で、2015年10月に正式運用を開始した。
●JICSpOCは統合戦力がよって立つ宇宙世界での戦場管理の指揮統制を担う様に設計されているが、このような指揮所をかつて保有したことはなく、組織形態面で「第3の相殺戦略」を最初に体現したものである
●宇宙コミュニティーの関係者を融合し、非常に重要な宇宙システムを運用するのがJICSpOCである。そしてJICSpOCが自らに課す課題は、GPSシステムが脅威を受けた際、どのようにその運用法を変えて行くかを考え行動することである
科学評議会の議論を踏まえた技術重点5つ
●全般には、戦場ネットワークの能力&耐性改善のため、人工知能や自立化の活用、統合戦力が統合の協力的「human-machine」戦場ネットワークの力をより活用し、作戦遂行能力の優位さを確保する事で通常戦力による抑止力強化を狙う
●5つの鍵となる技術分野
・Learning machines
恐らく、ディープラーニングのような手法を指し、戦場の状況を人間を介さず装備やシステムに学ばせ「AI」等の洗練に活用する技術
・Human-machine collaboration
人間がより迅速に正しく必要な意志決定が可能なようなビジュアル化を含むコンピュータとの接点技術
・Assisted human operations
全ての操縦者、地上&海上兵士を戦場ネットワークに組み込む技術
・Human-machine combat teaming
有人装備と無人装備の有機的なチームとしての運用とその技術
・Network-enabled autonomous weapons
高度な学習機能を備えたC3Iネットワークに全ての自律的兵器を連接する技術
陸軍と海軍は新コンセプトを生みつつあるぞ
●米陸軍教育訓練コマンドの副司令官H.R. McMaster中将は、「concept of multidomain battle」を提唱し、ドメインをまたぐ統合戦力共同の作戦行動により、複数のドメインで敵に対して優位を確保できる「temporary windows」をひねり出すことが可能で、米軍統合戦力が主導権を掴んで拡大する事につながると論じている
●米海軍は、全ての任務空間に於いて行動の自由を確保するため、2015年3月に「A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower」との公開ブリーフィングを発表し、電磁スペクトラム(EMS)で軍事的優位を獲得する行動を示している
●このアプローチで米海軍は、電磁波発射への理解と管制による電子スペクトラム支配を重要な行動と位置付け、融合された戦力投射に活用することを提示している
米空軍にはこの分野を極めて欲しい
●米空軍が自然な形で「第3の相殺戦略」推進し、統合戦力に貢献できることとして具体的に以下の検討を要望する
●我々は、センサーと兵器等を、マルチドメインでマルチ機能で、かつ多国間で結ぶ指揮統制グリッドへの新アイディアを必要としている。
●米空軍には、連合の航空作戦センターの概念を拡大発展させ、統合の学習C3Iネットワーク面で、全ドメインで、複数の機能をまたぎ、同盟国等も交え、時には地域もまたいだ作戦が可能なアイディアを生み出して欲しい
●これらは全て、統合戦力での戦いをもう一度変革させる潜在的可能性を秘めている
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「5つの鍵」や「第3の相殺戦略」の背景はこれまでもご紹介してきましたが、米空軍への具体的な要望や、陸海軍の具体的なコンセプトへの言及は初めてのような気がします。
陸軍中将の論文や海軍のブリーフィング資料は未確認ですが、陸上自衛隊の研究本部や海上自衛隊幹部学校の分析紹介を期待致しましょう。
もう少し具体的事例を交えて説明できれば良いのですが、まぁ・・・ぼちぼち明らかになるでしょう・・・。
Multidomain battleの解説記事
→http://warontherocks.com/2016/09/multi-domain-battle-a-new-concept-for-land-forces/
A Cooperative Strategy・・Seapower関連のリンク
→https://www.uscg.mil/seniorleadership/DOCS/CS21R_Final.pdf#search=’A+Cooperative+Strategy+for+21st+Century+Seapower’
→http://www.navy.mil/local/maritime/
米空軍新参謀総長の重視事項
「3つの重視事項」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-13
「迅速にピクチャー共有を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-21
Work副長官と「第3の相殺戦略」
「相殺戦略を如何に次期政権に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
「宇宙とOffset Strategy」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-01
「空軍研究所で関連研究確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-07
「CNASでの講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-15
「11月のレーガン財団講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15
「9月のRUSI講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-12
「Three-Play Combatを前線で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09
関連の記事
「慶応神保氏の解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26
「CNASが官僚の壁を指摘」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-02