国防長官を無視:米海軍が艦艇増強プラン発表

予算確保に、4軍の仁義なき戦いが始まるのか・・・
Mabus.jpg14日、米海軍が「FSA:Force Structure Assessment」との形で必要艦艇数の見積もりを発表し、2014年に発表のFSAで示した308隻を47隻上回る、355隻が必要だとの主張を展開しました。
このFSAは、通常2月の予算案議会提出後に、予算案の背景説明資料の位置づけで公表されるもので、数年ごとに出されており、前回は2014年でした。
今回は12月に前倒して「増強案」を打ち出したのですが、これは明確にトランプ氏の選挙中の主張「350隻に増強する」に便乗したものであり、同時に艦艇増強案を厳しく非難して抑制姿勢を明確にしているカーター国防長官への宣戦布告(又は無視宣言)です
カーター長官とメイバス海軍長官の対立はトランプ当選後表面化しており、現在国防省内で取りまとめ中の2018年度予算案議論に置いても、カーター長官が艦艇予算を抑えるよう事前指示を出していたのに堂々と2兆円増の挑戦的案を出し、メディアが「激突」の見出しで報じたところです
予算の現状については、先日Work副長官の解説を取り上げ、「現状規模維持だけで年10兆円の予算増が必要」「規模拡大に前にやるべき事が山積」との現状をご紹介したところですが、米海軍は次期政権を見据え、なりふり構わぬ予算獲得に出始めました
2014年FSAからの47隻増強内訳は、大型戦闘艦艇16隻、攻撃型原潜18隻、空母1隻、強襲揚陸艦4隻、補給艦等8隻です。
なお、この355隻体制はあくまで「必要最低限レベル」であって「希望の理想レベル」ではなく、世界に展開する部隊指揮官の要求に応える理想レベルは「653隻体制」だそうです
米海軍の現状について不案内なまんぐーすですので、現状の勉強も兼ね、47隻増強案を16日付米海軍協会web記事でご紹介します。
大型戦闘艦艇を16隻増強
Aegis3.jpg●中国の対艦ミサイルの高度化&高速化を受け、防空&ミサイル防衛を担う大型ミサイル巡洋艦(イージス艦)の増強が、ミサイル防衛と空母戦闘群の防衛のために不可欠で、現状88隻から16隻増強を要望
現状の見積もりは、1個空母戦闘群に5隻の大型戦闘艦を配備し、対潜水艦戦闘、艦艇防御、弾道ミサイル防衛に従事させる計画だが、中国軍の脅威を想定した最新の戦闘シュミレーションでは、1個空母群の防御に7~8隻が必要との見積もりが出ている
●一方で今回の見積もりでは、大型戦闘艦をどのように組み合わせて運用するのか不明確で、Aegis Combat Systemsを「baseline-9」に近代化改修する計画との関係も不明確である
●また、巡洋艦を近代化するのか、新規巡洋艦を導入するのか、2年に1隻ペースの2つの工廠の造船能力で、現在のアーレイバーク級イージス艦の建造ペースを上げるのか等々の具体的計画も不明である
攻撃型原潜を18隻増強
Virginia-class submarine2.jpg現在48隻体制の攻撃型潜水艦だが、中国やロシアの潜水艦活動の活発化と性能向上を受け、太平洋軍や欧州軍からの派遣要求の60%程度にしか答えられていない現状であり、事態改善のため3割強の増強を目指す18隻増強案となっている
攻撃原潜は、想定される紛争の初期段階で最も重要な海軍アセットと考えられ、製造を開始しているバージニア級の能力向上計画も練られている
理想的には80隻以上の攻撃原潜が必要との見積もりもあるが、2カ所のみの潜水艦造船所の状況や、新型戦略原潜コロンブス級の生産開始もあり、実現可能性がない。
●それでも18隻増強により、空母戦闘群の実戦的訓練支援や、中国やロシアのプレゼンスに対抗するため大きく貢献するだろう
なお戦略原潜は、現在のオハイオ級14隻体制を、今後新型のコロンブス級で12隻体制する方針に変化はない
空母は1隻増強
Ford-Class-Carrier.jpg現在米海軍の空母は一時的に10隻体制に落ちており、数年後に試験を終える新型フォード級空母の1番艦が投入されて11隻体制に復帰する。今回のFSAでは、更に1隻増強して12隻体制を目指している
現在の10隻体制では、空母の定期修理と前線派遣ニーズのバランスを取ることが難しく、派遣期間の延長や不十分な派遣準備訓練の負担とリスクを負う形に陥っている
●しかし完全にはニーズに応えられず、空母プレゼンスの「まだら状態」を招いている。例えば、この夏には地中海とフィリピン近郊に各2隻の空母を派遣できたが、現在は地中海に1隻だけで、太平洋地域は空白となっている
部隊への負担とリスクを取り除き、計画的で安定した空母派遣を実現するため、12隻体制が必要である。ただしこのためには、1カ所しかない空母建造造船所が、現在の5年で1隻建造体制から、4年に1隻建造体制に変化対応する必要がある
強襲揚陸艦等を4隻増強
USS-Makin-Island.jpg現在34隻体制を目標としている強襲揚陸艦(実際は31隻のみ保有)は、4隻増強して38隻体制を追求すると今回のFSAは要望
●現在海兵隊の特別編成空地タスクフォースは、アフリカと中東と南米に展開しており、揚陸艦がないとこれら部隊はオスプレイとKC-130に輸送を頼るしかない。また、展開先の国に部隊展開基地の新設や諸支援を要請する必要があり、各種の負担が増す
●また現状では、日本を拠点とする第3海兵師団は全く揚陸艦を保有しておらず、所要の訓練や同盟国への緊急事態支援の支障となっている
●このような現状を改善するため、航空機搭載艦と輸送艦と装備修理機能艦をうまく組み合わせて増強する必要がある
沿岸戦闘艦LCSは元計画の52隻を目指す
LCSIndep2.JPG●沿岸戦闘艦LCS(Littoral Combat Ship)は、元々52隻体制を目指していたが、2015年12月にカーター国防長官が40隻に削減して他の兵器に予算を回すよう指示している
●しかし今回のFSAは、カーター長官指示を無視し、元々の52隻体制を目指す必要があると主張している
●カーター長官の40隻指示以降、海軍は国防省や議会と隻数挽回を狙って対立しているが、その間にもLCSに大きなエンジントラブルが発生するなど、今後も様々に議論を呼ぶ艦首である
●また、LCSはドロドロの機種選定の結果、2艦首が同時採用される異例の建造が続いており、ロッキードの「Freedom級」とAustal USの「Independence級」の一方を建造中断する議論も沈静化していない
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No-Zingi.jpgその他、各種艦艇を47隻増加させる計画であることから、これらを支援する各種補給艦6隻と指揮統制艦2隻の追加を要求しています。
長々とご紹介しましたが、トランプ氏の当選を受け、現在の国防長官の指示を完全に無視した艦艇増強計画を打ち出した、米海軍の姿勢が注目ポイントです
まぁ・・・各軍種の予算獲得を巡る「仁義無き戦い」が始まったと言うことでしょう。政権交代とはこういう事なんでしょうか・・・。いつものように、なま暖かく見守るだけですが・・
「規模の維持だけで年10兆円増加必要」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
米海軍の装備もグダグダですが・・・
「ズムウォルト級ミサイル駆逐艦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-22
「沿岸戦闘艦LCSがF-35化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-09
「空母建造費の削減検討に30億円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-07
「次期SSBN基礎技術要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
「攻撃潜水艦SSNの将来」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-28
「あと25年SLBMを延命!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13

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