22日、トルコ国防相が紆余曲折を続ける長射程防空&ミサイル防衛システム選定について、ロシア製の「S-400」が最も選定される可能性が高い(closest option)と言及し、2013年から続く米国、中国、ロシア、ドイツ、フランス、イタリアと関連企業を巻き込んだゴタゴタに、新たな動きを示唆しています。
この選定は2013年に中国製に一端決定したものの、実質トルコの防空を担っている米国やNATOシステムと連接できない等の問題から米国等が猛反発し、2015年11月にはトルコ政府が中国製の選択決定破棄を発表して国産開発の方向を示唆しました。
しかし昨年10月、トルコ大統領とプーチン大統領の会談で、2013年当時は高価格を理由に排除したロシア製の選定への参加をトルコ側が再度要請し、今日に至っていました
まぁ考えてみれば、純粋に防空能力や軍事作戦運用の比較と言うよりも、政治レベルの外交カード(又はリトマス試験紙)になっている感がある同ミサイル選定です。
対ISやトルコの治安悪化を巡り、米露の駆け引きが活発になり、トランプ政権の対露姿勢に関心が集まる昨今ですので、その「指標」の一つとしてご紹介しておきます
22日付Defense-News記事によれば
●22日、トルコのFikri Isik国防相は、トルコとロシアの間で行われている長射程防空&ミサイル防衛システム「S-400」の交渉について、「かなり進展した」と語った
●更に同国防相は「S-400が最も選定される可能性が高い(closest option)」と述べる一方で用心深く、「明日契約を結ぶような段階にあるわけではない」とも説明した
●そして同国防相は、トルコはトルコの防空のため、防空&ミサイル防衛システムを国産する事を優先しているとも語っている
●折しも、米独伊が共同開発したパトリオットミサイルの後継となるMEADS(Medium Extended Air Defense System)の売却に関し、約4400億円とも言われるシステムのトルコ仕様へのカスタマイズ等について、トルコとの交渉が4月から始まっている時である。
●2013年に中国CPMIEC製のシステムを約3600億円で調達すると決定した際、トルコはロシア製を「法外に高価格:exorbitantly expensive」と評して選定から排除していた
トルコ長射程防空システム選定の紆余曲折・・・
●2013年9月
トルコ政府は中国CPMIEC製のシステムを約3600億円で調達すると決定
(この選定においてロシア製は「価格が倍以上」として不採用になった。他にはPatriotを提案の「レイセオン&ロッキード」と、SAMP-1を提案の「European Eurosam」(仏と伊)が参戦していた)
以後、米国やNATOが、中国製システムと既存の西側防空システムは情報保護の観点から連接不可能で、作戦運用上で極めて非効率で問題ありと強く抗議
●2015年11月
トルコ政府が中国製を選択した決定の破棄を発表し、国産開発の方向を示唆し具体的関係企業2社に言及
一方で発表後も、米企業チームと欧州チームとも並行して選定協議を継続していた
●2016年10月
10日付Defense-News記事がトルコ外交筋の情報として報ずるところによれば、2016年10月イスタンブールで開催された世界エネルギー会議に出席したプーチン大統領とトルコのエルドワン大統領が会談し、トルコがロシアにミサイル機種選定に参加するよう招待した模様
なお、仮にロシア製を選択した場合、中国製と同様に、既存の西側防空システムとの連接は不可能となる
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トルコが準国営の2企業「Aselsan and Roketsan」への技術移転要求のため様々な動きを見せているのか、米国や欧州諸国とロシアを天秤にかけて価格交渉を有利に進めようとしているのか、トランプ政権の出方を探るための威力偵察なのか不明ですが、何処の国もしたたかにやっていますねぇ・・・
最終的に国の安全保障上の最大の担保は、健全なバランス感覚を伴う情勢認識力や判断力を持つ国民の存在なのですが、国防への研究協力を拒否する大学の存在や、重箱の隅をつついて揚げ足取りしかやらない民進党など、まだまだ改善の余地がありありのようです・・・
トルコ防空システム選定のゴタゴタ
「SAM選定で露に最接近」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-12
「中国製決定を破棄」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-16
「トルコ大統領訪中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-30-2
「NATOと連接しない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-20
「4度目の延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-04
「トルコが中国企業と交渉開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-27
米国とトルコ関係の関連
「対ISで露とトルコが共同作戦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-22
「トルコがF-35追加購入へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-01-1
「駐トルコに家族帯同禁止や特別手当」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-17
「将軍の4割以上を排除」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-11
「トルコで反米活動激化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-31
米露関係を考える素資料記事
「露最大の軍事企業CEOが語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-21
「露がINF条約違反の巡航ミサイル?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15
「対IS作戦で米露の主張対立」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-24
「対ISで露とトルコが共同作戦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-22