核兵器関連のトランプ発言&ツイート
12月22日と23日
「世界の核兵器情勢を踏まえれば、核戦力を大幅に強化拡大する必要がある」
「核兵器の軍拡競争だ」「米国は対抗する国全てを圧倒するであろう」
1月27日の大統領令
「国防長官にNPR(Nuclear Posture Review)を命じる。米国の核抑止力が、最新で強固で柔軟性に富み、強靭で即応態勢に有り、21世紀の脅威を適切に抑止し、同盟国に信頼されるモノであるような態勢を検討させる」
8日付Defense-Newsが、上記のトランプ大統領指示等を受け、米国の核兵器やその体制が今後どのように変化する可能性があるのか、NPR検討をマティス国防長官らがどのように進めるのか等々について、様々な専門家の見解を紹介しています
現時点で断定的に言える材料は無いが、そんなに劇的な変化が可能とも思えない一方で、不拡散態勢や核実験禁止条約に手を付ける可能性も否定できないし、ご覧の通りのトランプ大統領なので注視する必要がある・・・と言った雰囲気です
ただし、前回2010年のオバマ政権時のNPRが基本としていた「3つのNO」、つまり、「新たな弾頭、新たな能力、新たな任務は追及しない:no new warheads, capabilities, and missions」方針は、北朝鮮やイランやパキスタン等の動向からしても議論すべき・・・との雰囲気はあるようです
前回のNPR発表は、3回に亘る発表延期の末、オバマ大統領誕生から1年3ヶ月も経過後に行われており、脅威の変化や核拡散の中で抑止全体を議論する困難な作業で、オバマ時代からの大転換を臭わせるトランプ政権下での作業を考えると、時間がかかる可能性も大です。実際、NPR検討を命じる大統領令も、特に期限を設けていません。
長い記事なので、いろんな視点を少しずつ、何時ものように独断と偏見で「つまみ食い」紹介を試みます。
8日付Defense-News記事によれば
●NPRを命じる大統領令は、マティス国防長官に大きな裁量の余地を残しており、誰がどのように何時まで等の点に関し、特段指定していない。従って大統領は国防長官に任せたのだと見る専門家もいる
●どのような変革が予期されるかについては種々の意見はあるが、オバマ政権時代に方向付けられているB-21爆撃機、次期戦略原潜、ICBM後継設計に大きな変更は無いだろうと多くの専門家や関係者は見て居る。
●トランプ政権は全ての既定政策を吟味するだろうが、現在国防省内で検討されている新たな指揮統制システムや核搭載巡航ミサイルは、色々と話題を呼ぶ可能性がある
●また、オバマ前政権が核兵器の削減を追求していた方向とは異なり、脅威の状況から、「抑止の重要性や優先度」をより重視する方向に向かう可能性を、トランプ政権の安保関係スタッフは示唆しているようだ
●まだ多くの関連スタッフが埋まっていないことから予測が難しいとしつつも、新政権は不拡散態勢よりも抑止と戦力近代化を重視し、「ブッシュ政権時のように、実現可能性が薄くても、あくまで理想の強固な核戦力態勢を目標に掲げる可能性が、マティス&Work体制にはあり得る」との見方もある
●別の専門家は、オバマ政権時の核戦力近代化計画を前倒し推進する方向を予測し、核弾頭近代化を担うNNSAへの予算増額を優先するのではと指摘している。具体的には、現在5種類の戦術核を2種類(W80-4 and the B61-12)に更新集約し、5種類の戦略核ミサイル弾頭を3つ(IW-1, IW-2, and IW-3)に集約する計画の加速である
●昨年12月に国防科学評議会がまとめたレポートを基礎に、新たな核兵器オプションを新大統領に提示する可能性も指摘されている。2010年NPRの「3つのNO」方針から離れ、より威力の小さな核兵器や運搬手段をオプションとする構想が含まれる可能性がある
抑止概念の再検討や不拡散や核実験条約も議論に
●7日の記者会見でGoldfein空軍参謀総長は、「全てのオプションをオープンに検討する準備がある」「弾頭数や威力の議論も問題ない」「国防省が現在構想している核兵器近代化計画の継続が議論の主対象になるだろう」と述べたが、更に続けて
●「一方で、21世紀の抑止についてより幅の広い議論を期待したい。宇宙やサイバードに戦域が拡大し、世界共通の公共財が目標になり得る時代における、抑止のあり方や核抑止の関わり方にまで議論の幅を広げる必要があろう」と語った
●前回のNPRに国防省の担当次官補代理として関わったHersman氏は、実務上の論点として、ペンタゴン以外の外部有識者を何処まで関与させるかを論点としてあげている。多くの意見を聞くことでプラスもあるが、議論を複雑にして集約に時間を要すると注意喚起している。
●NPRの完成時期については、トランプ大統領から具体的な指示が無いと国防省関係者も認めている。議会から早期の検討を求められるかも知れないし、2018年度予算案に反映させるためなら早期のとりまとめが必要となろう
●別の観点として、核兵器の不拡散には超党派で支持が強く、これを新政権が無視することは難しいだろうが、国際環境を踏まえ、駆け引きの材料になる可能性は否定できない
●同様に、核抑止や核開発の専門家の間では、ケリー前国務長官らが再強調していた核実験禁止条約の効力を疑問視し、同条約の存在意義を再評価すべきとの意見も聞かれる
●一方で、核非拡散の諸国間には、米国が核兵器使用の原則を堅持しない可能性への懸念が広がりつつアリ、2010年NPRの「3つのNO」変更は、不必要に不安定化を招いてコストが増すだけで無く、主要な同盟国を含む国内国外の分断を招く恐れがある
●トランプ大統領が核ボタンを保持していることだけでも懸念の材料となっている中、更に恐れや懸念を大きくする可能性があると、NPR検討を心配する声もある
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通常戦力の増強どころか、維持費の捻出にも苦労している米軍部隊の現状を何回かご紹介してきましたが、核兵器に関わる「忘れられた・無視され続けた」現場の状況は、更に輪をかけて厳しいのが現状です。
この対策には、今後20年間、毎年約2兆円の追加予算が必要とWork副長官が見積もっており、その捻出だけでも容易ではありません。
ですから、トランプ氏の「核兵器増強」ツイート等が、「大山鳴動してネズミ一匹」で収束する可能性も大なのですが、それでは再び現場の士気は「ウナギ下がり」が予想され、反動が懸念されます。
「不拡散の見直し」は日本や韓国に核武装を・・・とのトランプ発言を受けた話題でしょうが、2017年に入ってから一度も耳にしませんので、スルーして良いかと思います
ところで空軍参謀総長が言及している「抑止全般の再検討が必要」との問題認識は、日本の関係者にも注目してもらいたいモノです。
何時までも、実質的に効果の薄い対領空侵犯措置だけに「陶酔」し、脆弱性が増すばかりの「戦闘機部隊だけ命」思考では、日本の抑止力向上は図れません。
戦闘機の存在による抑止効果が「ウナギ下がり」である事を良く認識し、抗たん性のある戦力構成への投資シフトや、脆弱なサイバーや電子戦、はたまた宇宙アセット代替確保等々への投資を、真剣に議論すべき時を既に迎えているはずです
前回のNPR(核態勢見直し:Nuclear Posture Review)
「2010年NPR発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07
「NPR発表3回目の延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-02
「バイデンが大幅核削減を公言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-19
米新政権の国防予算を考える
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
空自OBが対領空侵犯措置の効果を疑問視
「対領侵中心の体制見直しを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
戦術核兵器とF-35記事など
「戦術核改修に1兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-20
「F-35戦術核不要論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
「欧州はF-35核搭載型を強く要望」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-22
「F-35核搭載は2020年代半ば」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-23-1
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
ICBM後継に関する記事
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
オハイオ級SSBNの後継艦計画関連
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13
米軍「核の傘」で内部崩壊
「屋根崩壊:核兵器関連施設の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-23
「核戦力維持に10兆円?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-09
「国防長官が現場視察」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-11-18
「特別チームで核部隊調査へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-27
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
「米核運用部隊の暗部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-29