なぜ、弾道ミサイル対処用のイスラエル軍Arrowシステムが、シリア軍の地対空ミサイル(SA-5)を迎撃することになったのか?
弾道ミサイル防衛の難しさを考える事例に!
19日付記事「情勢緊迫:シリア軍がイスラエル軍機をミサイル迎撃」でご紹介したように、17日早朝、イスラエル軍機がシリア領内に攻撃を加えた後にイスラエルに帰投する際、シリア軍が地対空ミサイルで要撃する事案が発生しました
両国から様々な主張が為されており、真偽のほどは不明ですが、イスラエル軍機はヒズボラに物資を輸送する車列を攻撃し、シリア軍は地対空ミサイルSA-5で迎撃、シリアは1機撃墜主張もイスラエルは被害無しと発表しています。
更にイスラエル軍機の要撃に失敗したSA-5を、イスラエルはBMDシステムArrowで要撃し、1発を仕留めたとイスラエル軍は発表しています。またこれに併せ、イスラエル国内ではエルサレム周辺で空襲警報サイレンが鳴らされ、ヨルダン北部のイスラエル国境付近で落下したArrowの部品が回収されています
おまけとして、本事案の発表に伴い、イスラエルはこれまで「肯定も否定もしていなかった」シリア領内への空爆作戦実施に初めて言及することとなりました。最近数ヶ月の間にも、数回の攻撃が為されていたようですが、この「公表」面でも波及的影響がありそうです
なおSA-5は、1960年代後半から初期型が配備されており、A型からD型まであるが、シリア配備がどの型であるかは不明。最大射程は200~400kmと言われており、この射程距離の長さから現在も多く使用されている模様
以下では、湾岸戦争後初めてではないかと思われるBMDシステムの実戦使用に関し、冒頭の疑問へのイスラエル側の見解を紹介し、あらためて弾道ミサイル防衛の難しさを考えます。
20日付Defense-News記事によれば
●20日、イスラエル空軍高官がArrowミサイルによるシリア軍SA-5迎撃について記者団に語った。そして同高官は、17日のArrow発射が、イスラエルと米国共同開発の同システムにとって、初実戦発射だったと認めた
●別のイスラエル軍幹部は、イスラエル空軍F-15が攻撃終了後に帰還する際、シリア軍は南西の方向に向けてSA-5を発射し、それがイスラエル領内に落下する恐れがあったと説明している
●最初の軍高官は、シリア軍がイスラエル軍機に発射したSA-5が、「弾道飛翔コース、高度、飛翔距離から判断して、Arrow2システムが対象脅威と想定して設計されたスカッドミサイルの様な飛翔だった」と語った
●そして「実際にはスカッドではなかったが、弾道ミサイルの様な飛翔をしたならば、それが最終的に何であろうと、我々には関係がない。数百キログラムの弾頭を搭載したミサイルのような飛翔を探知したなら、国民や都市への脅威として見逃せない」と説明した
●元イスラエル首相で国防相でもあったバラック氏は、イスラエルによるシリア領内への攻撃の「あいまい政策」を維持するためにも、Arrowを発射すべきではなかったと(メディアで)非難しているが、同空軍高官は、迫り来る弾道ミサイルらしき脅威に対し、イスラエル防空部隊が対処をためらうことはなく、17日はその典型的なケースだと反論している
●通常SA-5は目標に命中しなければ、推進ロケット燃焼終了の数秒後、自爆する設計になっているが、何らかの理由で自爆せず、スカッドのような飛翔をしたのではないかと、元イスラエルBMD局長のUzi Rubin氏は見ており、または古いタイプのSA-5で、自爆機構を搭載していなかった可能性もあると語っている
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その他、Arrowシステムにはスカッド等弾道ミサイルのデータが蓄積されており、そのシステムが脅威を判断したのであれば、要撃ミサイルを発射するのが自然だ等の説明がイスラエル軍からなされています。
おそらくイスラエル軍内部には、表に出ない事象や経緯、反省事項がいくつもあるのでしょうが、我々が学ぶとすれば、弾道ミサイル対処とはこれほど困難で混乱に満ちた作戦だということでしょう。
いま北朝鮮の核やミサイル対処を巡り、いろんな議論があるようですが、テレビ局の方によると、この話題になると視聴率が急降下するようです。
金正男の暗殺事件やその手口の話題は「数字」につながっても、核やミサイルは茶の間で受けないようです。こういうのをオストリッチ症候群(ダチョウが穴に顔を突っ込んで現実から目を背けることへの例え)と言うのでしょうか・・・
「情勢緊迫:シリア軍がイスラエル軍機をミサイル迎撃」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-18