9日夜、中国国営テレビが中国製のステルス戦闘機と言われる「J-20:殲20」が、運用態勢に入ったと報じました。10日付ロイターがこれを配信し、米軍事メディアもフォローしています。
「運用態勢に入った」以外の詳細に言及はなく、何処で、何機、どんな任務に、などなど判らないことだらけですが、とりあえず、一番詳しく現時点での分析結果を説明している14日付米空軍協会web記事から、米国防省関係者の見立て、推定配備先や現存機数、想定される用途についてご紹介します
14日付米空軍協会web記事によれば
●2014年に低レート製造段階に入ったJ-20を、現時点で、中国は9機から12機のJ-20を保有しているか考えられている。
●エンジンを2基備え、米国製F-22そっくりだと言われる中国Chengdu Aerospace Corp(CAC:成都飛機工業公司)製のJ-20は、8つのプロトタイプで様々な形態の飛行試験を2011年から開始しているが、兵器搭載試験は今も継続している
●2016年11月に広東省珠海(Zhuhai)の航空ショーで初めて2機が飛行する様子を披露した
●中国が定義する「運用態勢に入った」とは、最前線での任務に投入可能との意味ではなく、正式な作戦運用試験が可能になったとの意味で、今後は他の航空機との連携試験や運用コンセプトの検証試験が可能になるとの意味だろう国防省高官は語っている
●別の中国ウォッチャーは、初配備基地は恐らく中国北部中央にある「Dingxin」だろうと考えており、10個以上の新たな格納庫が設置されていることや、垂直尾翼に運用部隊マークを付けたJ-20が確認されていること等を根拠に挙げている(同基地は各種装備品の開発試験基地して知られている)
●J-20はF-22のように、内部弾倉庫に6発の空対空や空対地のレーダー誘導ミサイルを搭載可能と映像等から見られている
●J-20の操縦席前方には、F-22やF-35そっくりの光電照準装置が配置され、機体側面には、F-35の「Distributed Aperture System」のように複数のセンサーが見られ、またAESAレーダーの様な装備で米軍5世代機と同様に電子戦能力や識別能力に優れた構造を持っている
●しかし中国国営メディアもかつて言及しているように、J-20は必ずしも空中戦闘能力を追求した設計にはなっておらず、F-22やF-35と直接的な同類ではない。
●全方位のステルス性能を追求せず、前方からのステルス性を追求していることから、高価値目標(AWACS, aerial tankers, large formations of combat jets,surface targets)に一撃を加え、帰投するような運用構想も考えられる
●J-20運用態勢確立の発表に対し、米空軍は「for security reasons」でコメントを控え、米空軍報道官は「米空軍は他国の航空機の能力については(公には)論じない」としつつ、「米空軍は、第5世代機の長年の使用実績や、複雑な演習や機動展開しての運用経験を通じ、如何なる潜在的な敵にも優位性を維持している」と語っている
10日付Defense-Tech記事によれば
●中国政府は報道を否定しているが、2016年の秋には、J-20がチベット近傍の「Daocheng Yading飛行場」で目撃されたとか、インドとの国境付近に展開した等の報道が流れている
●J-20は長射程と短射程の空対空ミサイルを搭載可能と言われ、米国製F-22と比較されることが多いが、J-20のステルス性はF-22には到底及ばない見られている
●英国Royal United Services研究所のJustin Bronk研究員は、「前方のカナード翼やエンジンの空気取り込み口、胴体下部のスタビライザーなど、全てがレーダー反射面積の削減を妨げている」と分析している
●中国はまた、海外輸出用だとか空母艦載様だとか噂されるより小型のJ-31戦闘機を開発しており、その改良型試作機が昨年12月23日、遼寧省瀋陽で初のテスト飛行を行ったと中国メディアが報じている
再度、J-20関連報道に思うこと
●米国防省が毎年発表する「中国の軍事力」レポートは、中国が高列度の短期戦で地域での紛争に勝利する事を目指しており、そのため弾道・巡航ミサイルで作戦基盤を緒戦で叩き、サイバー戦や宇宙戦や電子戦で米軍が依存するネットワークを寸断麻痺させる事を目指し、着実に力を蓄えていると毎年記述している。
●「中国の軍事力」レポートに限らず、米国の主要シンクタンクもこの様な視点で中国の軍事脅威を捉えており、最近米空軍が取り組んでいる「2030年代の制空検討」においても、速度や機動性と言った空中戦能力よりも、遠方からの活動を意識した航続距離を重視する方向性が示唆されている
●中国のステルス機数は、J-20が運用を開始したとしても10機程度だと思われるが、米軍ステルス機数は中国と同列で比較すれば400機程度の保有と換算できる(F-22を180機、B-2を20機、F-35を200機)
●また海軍艦艇の総トン数は、世界1が米軍だが、世界2位から12位まで合計してやっと米軍と同規模となる。しかも世界2位から12位のうち、2ヶ国以外は全て米国の同盟国か友好国である。更に米海軍が保有する艦艇搭載の精密誘導兵器の数量は、世界2位から14位の合計の2倍以上もあり、中国の立場になれば、通常兵器で米国と正面から戦おうなどとは考えないだろう
●だから当時のゲーツ国防長官は、「米国に敵対しようとする国は、戦闘機VS戦闘機、艦艇VS艦艇などの通常兵器競争を米国に仕掛けて、破産する道を選ぶだろうか?」と、2009年のフォーリン・アフェアーズ誌に掲載された論文「A Balanced Strategy」で喝破し、脅威認識を改めるよう米国防関係者に訴えた。
●この様に曇りのない目で中国脅威を分析した結果が、上で紹介した米国防省が毎年発表する「中国の軍事力」レポートとなって公開されているのだ。
●J-20がどのような運用思想の基に活用されるのか想像の域を出ないが、日本の戦闘機命派が期待しているような空中戦能力を追求しているとは考えにくく、高価値航空目標攻撃や突破型戦闘爆撃機的な役割を狙っていると考えるのが自然だろう
●今後この「J-20」をどのように日本の戦闘機命派が評価するかは、彼らの脅威認識の「リトマス試験紙」となり得る。
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チベットやインド国境付近で「J-20」が目撃されたとの報道には興味をそそられますが、それ以上に申し上げることはありません。生暖かく見守るだけです・・・。
J-20関連の過去記事
「改良版J-20エアショーで飛行」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02
「大幅改良J-20が初飛行」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-20
「IISS:J-20は大した事ない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-08
「映像と評価中国ステルス機J-20」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-30
中国軍作戦機の話題
「改良版J-31初飛行」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27
「ロシアからSu-35輸入開始か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-10
「南シナ海で米中大型機が異常接近」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-12
「最新H-6爆撃機の演習映像」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-01-04-1
論文「A Balanced Strategy」
→http://www.comw.org/qdr/fulltext/0901gates.pdf
→https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2009-01-01/balanced-strategy
関連の記事
「Balanced Strategyを振り返る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-27
「戦闘機や艦艇に囚われている」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-09
「2016中国の軍事力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17