12日付Defense-Newsが、昨年9月23日に地上でのエンジン始動時に火災を起こしたF-35A型機の事故調査報告書(2017年5月9日付文書)を独自に入手し、その概要を報じています。
なお、同報告書が今後公表される予定だったのか、そのまま内部資料になる予定だったのかについて記事は触れていません。
記事によれば火災事故原因は、機体やエンジンの不具合ではなく、強い背風(追い風)でエンジン始動時にエンジン回転数が上がらないまま、つまり燃料が十分消費されないままエンジンへの燃料供給量が増え、エンジン外部にまで炎が広がったためとなっています
パイロットが頭、クビ、顔に「跡が残るやけど:sustained burns」を負い、内部兵器格納庫の扉が開いていたこともアリ、機体尾部の表面2/3を焼き、特に機体中央部の焼けが激しかった火災で、修理費用は未確定ながら少なくとも19億円と見積もられています。
これだけの規模の火災でありながら、火災直後の飛行停止措置もなく、原因はリスクが指摘されていた天候(背風)と人的要因で、機体設計には大きな問題はなく、パイロットへリスク再教育とチェックリストの見直し程度で事故対策を完了しようとしています
記事には、エンジン計器に異常や警報ランプ点灯等があったのかどうか言及がありませんが、何となく「ごまかし」「もみ消し」「事を荒立てず」の姿勢が見え隠れしているような気がしてなりません
12日付Defense-News記事によれば
●5月9日付の米空軍の事故調査委員会(AIB:accident investigation board)の報告書によれば、強い背風で高温のエンジン排気がエンジン内に押し返され、エンジンの回転トルクや回転速度が上昇せず、F135エンジンが燃料供給を加速度的に増加させたことが火災の原因である
●報告書では、「エンジン回転数が上がらない中で燃料供給が増え続けたため、炎をエンジン内に止められなかった。エンジンの排気口から溢れた炎は、背風により押し返され、機体表面に沿って急激に広がった」と表現している
●この火災事故は、ほとんどF-35訓練や運用に影響を与えていない。火災事故発生直後から、米空軍は事故原因が機体設計の問題ではなく背風と人的要因だと考え、F-35A型の飛行停止は考えないと明らかにしていた。
●また国防省F-35計画室も、同事故を受けての機体改修等を発表していない
●事故調査委員会(AIB)報告書は、エンジンを始め機体システムは設計通り作動したと記述しており、操縦者への教育面でこの様な事故防止のために為すべき事があったはずだと述べている
●例えば、米空軍は背風がエンジンに問題を起こす可能性がある事をエンジン始動時のチェックリストに含めておらず、操縦者も本事案に関連する訓練や教育を受けていない。従って操縦者は当事案が発生した時、何ら問題発生の兆候を感じていない
●報告書はまた、背風に関する問題は事前に認識されていたにも関わらず、関連文書にキチンと表現されておらず、操縦者間には曖昧な認識のみがあった。この曖昧な認識が背風時のエンジン始動に対する不十分な訓練につながっていると指摘している
●調査責任者の大佐は、F-35は高度に自動化されていることから、操縦者の間に基本事項に対する「慢心」「油断」を生んだのではないかと指摘し、「エンジン始動はほとんど自動化され、グリーン表示の間は問題なしとの感覚が操縦者を支配している」と懸念を示している
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パイロットの知人によれば、ジェット機には機首毎に程度の差はあれ、背風時のエンジン始動には注意すべきとの認識が操縦者の間にはあるようです。
なので、当日の風の強さにもよりますが、なるべく背風にならないように機体を並べてエンジンを始動させるようです
だったら何でこんな火災が・・・と思わずにはいられませんが、これ以上「邪推」すると益々性格が歪みそうなので止めときます。これを契機に、本報告書が公開され、部外の専門家が突っ込むことを期待しつつ・・・
最後に、この火災事故が発生した同じ日に、航空自衛隊用F-35の1番機のお披露目式典(ロールアウト式)が行われていたと言う「縁起の悪さ」を、無理矢理思い出して頂きましょう。
2016年9月23日の火災事故記事
「日本用1番機の式典日に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-24
2014年6月の火災事案
「火災メカニズム」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-04
「当面の対処と設計変更」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-29
「問題は軽易ではない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-08