米国東部時間の14日正午過ぎに打ち上げられたSpace-X社のDragonロケットに、国際宇宙ステーションに届けられる約3トンの補給物資と共に、米陸軍初の偵察衛星「Kestrel Eye 2M」が搭載されていました。
この小型衛星は小型冷蔵庫ほどの大きさで、分解能が1.5m程度と「並み」の性能しかなく、低高度軌道でわずか1年間しか活動できない控えめなものですが、直接前線兵士が活用できる点で、また従来の「多機能・高価・代替がない」から、「単純・安価・数で勝負」へ発想を転換するチャレンジングな偵察衛星です
同打ち上げの目的である国際宇宙ステーション日本モジュールへの「Airlock」任務(ドッキングして物資補給か?)が終わってから、10月頃に宇宙に放出されて実験を開始する「奥ゆかしさ」にも魅力を感じ、SNS上での情報も交えご紹介します
14日付Defense-News記事等によれば
●米陸軍の宇宙ミサイル防衛コマンド(SMDC)と戦略コマンド技術センターが取り組んできた偵察衛星「Kestrel Eye」計画は、第1段階の開発が2008年ころから始まったが、その際は衛星打ち上げには至らなかった
●しかし2012年に始まった第2弾計画は、今回の偵察衛星「Kestrel Eye 2M」 打ち上げにつながった
●同開発責任者のChip Hardy氏によれば、この小型低コスト光学偵察衛星の試作機は、緊要な地上作戦を遂行する前線兵士に直接低高度衛星から画像情報を提供することを狙いとしたものである
●同計画の最終目的は、前線兵士が直接衛星に情報要求を送信し、衛星が同一周回においてその要求に対応するシステムだが、今回の試作機はアラバマ州ハンツビルのSMDC拠点とハワイの太平洋軍拠点にデータを送信する
●Hardy氏は、「ハイビジョンTVのような画像は得られないが、戦術的に有用な解像度な情報が得られる」、「高精度画質が狙いではなく、任務遂行直前の前線部隊がリアルタイムで求める情報が手元に得られる仕組み」と狙いを説明している
●試験衛星は低高度に1年間滞在し、太平洋軍の行う様々な任務を試験的に支援するが、将来的にはより高高度で長期間在空することを狙っている
米陸軍作成の「Kestrel Eye」宣伝チラシによれば
●衛星1機の価格を2億円以下に
●「Kestrel Eye」は従来の衛星と比較して小型で圧倒的に低価格なので、大量に投入可能であり、絶え間ないプレゼンスが維持可能
●一回の打ち上げ失敗の影響が、システム全体の損失につながらない
ツイッター上での専門家の皆さんのコメント
「tetsu」さん
今夜打上げられるドラゴン補給船に相乗りする「Kestrel Eye 2M」
米陸軍が偵察衛星を初めて保有することになる。分解能1.5m、今回の実証機が成功すれば30機の打上げを予定し前線部隊へ衛星写真を迅速に提供する計画
「Kazuto Suzuki」 さん
陸軍が衛星を保有するというのも大事な点だが、それ以上に、米軍が小型衛星に軸足を移し始めたこと、SpaceXを使ったことが大きな変化だろう。陸軍がやり始めたのは、過去のしがらみがないのでやりやすかったという側面もある
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識者の皆さんのコメントにあるように、安価な打ち上げが可能なSpaceXを使ったこと、米軍が小型衛星に軸足を移し始めたこと、米陸軍が偵察衛星を初めて保有する米陸軍だから出来たとの見方、などは重要な指摘です
また、米空軍に支配されている宇宙アセットや宇宙アセット情報が、陸軍や海兵隊の最前線に迅速に届かないとの不満も背景にあるのでしょう。このあたりにも、米空軍から宇宙軍独立案が議会から提出される背景があるのでしょう
また「クロスドメイン」な戦いが叫ばれる背景には、地上部隊の最前線に衛星情報を!・・・との声もあるのでしょう。試験機の成功を祈ります。
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