意味深で、気になるインタビュー
15日付DODBuzzが、Goldfein米空軍参謀総長へのインタビュー記事を掲載し、操縦者不足と軽攻撃機の導入について同大将の考え方を取り上げています。
トランプ大統領が8日、2018年度の年度当初3か月間を暫定予算(continuing resolution:10月から)で乗り切るとの法案に署名し、少なくとも12月8日までは最低限の予算レベルでのやりくりを米軍は再び強いられることになりました。
米空軍で言えば、中東での対IS作戦が佳境を迎える中、飛行時間の削減による飛行隊即応体制の低下や、演習の削減、次期練習機T-X計画など新たなプロジェクトの凍結等の苦しい制約が課せられます。
予算管理法(BCA)による債務上限枠が撤廃されない限り、議会で党派を超えた議論と妥協が行われない限り、もう5年以上続くこのしばりは解けないのですが、その兆しは全くなく、米国防省や米軍幹部が口をそろえて「装備の維持整備の遅延」や「訓練飛行時間や訓練予算の削減」や「研究開発の停滞」等々を訴えても、むなしく響く今日この頃です
直接の因果案系を証明した報告等はありませんが、最近米海軍で連続するイージス艦と一般船舶との衝突、航空機の墜落や海兵隊水陸両用車での火災事故などなど、何やら組織の最前線に影響が出始めているとも懸念させる事故が頻発しています
そんな環境下に置かれた米空軍参謀総長が、「New Ways of Doing Business」との表現も使いつつ、移動中の航空機内で語った中身は、今後の米軍に共通する方向性を臭わせているような気もします
パイロットの現状と確保
●パイロット不足に関しては、操縦者が勤務期間を延長するよう(pilot retention)にあらゆる策を講じている
●空軍でパイロットになりたいと考える若者を募集することには何の困難もなく、採用予定数を上回る入隊希望者を確保しているが、最大の課題は勤務義務年限に達した操縦者を空軍に引き留めることだ
●米空軍は現在年間1200名の操縦者を要請しているが、2020年代半ばまでには、年間1400名にしたいと考えている
●「pilot retention」を高く維持するために、パイロットの操縦機会を確保し、飛行手当やボーナスを改善し、更に操縦者に「rich experience」を提供してより長く軍で勤務するように動機付ける。(注:この他にも、操縦者を希望任地に長く勤務させるなども)
●「パイロットに操縦席での経験を積ませなければならない」、「そのためにはより多くの操縦席を確保しなければならない」
軽攻撃機の導入に関して
●(なぜ既存の戦力を破棄してまで、新たに能力の劣る兵器を導入するのかとの質問に、)まず初めに、やるべき任務と戦力の適合を吟味し、何が最も需要の多い任務かを考えつつ、他の任務とのバランスを考えている
●将来、米軍は高度な兵器を持たないパートナー国をより訓練しなければならない。米国が同盟国等を持つことは非対称の有利点であり、同盟国等の空軍トップからいつも、F-16やF-35は買えないが、過激派が迫っており、多国籍連合に入れてほしいと言われている
●また米軍の前線指揮官はF-15を持っていたいと願うだろうが、空軍がネットワーク構築を必要とする事とは反している
●軽攻撃機導入が、対テロネットワークにより多くのパートナー国を取り込む道となるのか?・・・との疑問を自身に問いかけている
●8月にかけ、4機種の軽攻撃機を試験したが、あくまでもデモ確認で、何かを決定したわけではない。今後約2か月で検討するが、中央軍空軍の指揮官を務めた経験からすれば、ハードの問題ではなく、ネットワークの問題なのだ。
●また同時に、安価でセンサーも搭載でき、推し進めてきた戦略を遂行する情報共有可能なアセットになりえるか・・・とも問いかけている
●タリバンやアルカイダ、イラクやシリアのIS組織を、各国で対応可能なレベルに抑えることが目的であるが、米空軍が軽攻撃機を導入したとしても、(それら戦力を最終的にパートナー国等に売却するつもりかには言及しなかったが、)コアリションが極めて重要だ
●中東で米国が指導力を発揮しないということではなく、戦いにより多くのパートナーを獲得する狙いがあるのだ
New Ways of Doing Business
●これらの取り組みにより、軍需産業に対し、今後の米空軍が望む、よどみのない「新たな仕事のやり方:New Ways of Doing Business」を示したいと思う。新たな装備を導入して、古いやり方に活用することは避けたいと思う
●そこで米空軍は今後数年でその優先事項をシフトする準備を進めている。どんな選択肢があり、操縦者が飛び続けるために何を望むかを考えながら。操縦流出に歯止めがかけられれば、空軍として発展するチャンスだろう
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参謀総長の発言を細切れに紹介する分かりにくい記事ですが、様々な思惑が見え隠れするインタビューです。
「ネットワーク」との言葉が、軍事的な多国間の協力ネットワークを意味するのか、戦術データリンクを意味するのか微妙な部分があり、その点は注意が必要です
軽攻撃機を将来パートナー国に移管することも選択肢にありそうですし、中東のゴタゴタから退散したい米空軍の願いも見え隠れしています。
また軽攻撃機の選定において、戦術データリンクで情報共有する戦い方が重要判断基準であることも伺えるような気がします
でも、それよりも何よりも、米空軍がパイロットの幸せを最優先にしていることがよくわかります。「飛行の機会を増やし」「操縦者が何を望むかを考え」「給料を上げ」・・・大丈夫でしょうかこの組織は?
それでもって、戦闘機が何機必要なのかの算定基準は、極めてあいまいで恣意的な計算式で求められているのです。多くの場合、現職の操縦者が全員職を失わないような、結果ありきの算定根拠だったりするわけです。
横目で観察するには、興味深い対象物ですが・・・
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