17日、米国防省が「軍需産業能力レポート:Industrial Capabilities report」を公表し、一般には足元で好調といわれる米軍需産業界を取り巻く将来的な課題についてまとめています。
毎年公表されるレポートだそうですが、これまで「東京の郊外より・・・」で取り上げた覚えがないのですが、今回Defense-Newsが取り上げて紹介してくれているのでご紹介します
今は何とかやっているが、現在の見え始めている兆候が続けばとんでもない事になるとの指摘が広範な分野でなされており、また予算を増やしただけでは解決が困難そうな課題も多くなっています。
現物を見ていないのでちょっと舌足らずな説明になりますが、何となく雰囲気を感じていただければ・・・と思います
22日付Defense-News記事によれば
●米国防省の軍需産業基盤政策室が発表した同レポートは、2017年の米国軍需産業は他産業やを上回る好調な業績だが、長期的に見ると「健全性、限定的なイノベーション、国際競争力の低下など」の多様な課題を抱えていると指摘している
●そして最大の課題が同産業界の人材状況だと指摘し、45歳以下の実動世代が全体の39%と高齢化が進み、将来を担う25~34歳の従業員の理系分野学位保有率が僅か1.5%と極めて低いことを挙げている
●言い換えれば、航空宇宙や軍需産業界は、今必要とされている質の高い労働者不足に直面し、同時に現状を支えている老齢労働者が退職した後を埋める必要がある、「能力、姿勢、経験、関心」を備えた若者が不足する状態にある
●米国防省のリーダーたちと軍需産業界は、2017年に本課題に対応する協議を開始したが、早急な解決は容易ではない
課題をドメイン別にみてみると
●航空宇宙部門は、将来の航空機設計デザインに必要なスキルの維持継承が最大の課題である。
●特に、海外の限定的な企業への依存増加や、予算面での不安定さから来る下請けメーカーの経営危機や流出が大きな懸念である
●地上車両部門は、過去10年間のイノベーション欠如から業界が沈滞ムードにあり、全ての新型車両開発がコスト、スケジュール、性能発揮面で課題を抱えている
●その結果として、世界の戦闘車両メーカーの着実な追い上げを許す事になっており、新たな車両開発が不足する中、この業界内でのイノベーションを妨げている
●艦艇建造部門は、安定した受注が続いているが、産業基盤部分は小規模な業界に受注が集中しており、何かがあればたちまち大きな問題となる
●米国防省は、継続的にこの業界をモニターし、受注の安定等を図る必要がある
●宇宙部門は、商用民間需要に依存をますます強めており、非軍事分野への投資集中が進んでいる。軍事分野はこの恩恵を受けているが、軍事分野でしか使用しない部品等の生産基盤が心もとない状態になっている
●この分野へのタイムリーな投資を継続しないと、国家安全保障関連の衛星打ち上げなどがリスクを抱える恐れがある
●全部門に共通の課題として、他業界よりも平均7年も老朽化が進んでいる産業インフラの老朽化問題も大きな懸念である。例えば海軍の艦艇修理ドックで最近修理業務の遅延が頻発しているが、これは修理インフラの老朽化による故障によるところが大きい
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レポートは、若手の専門技能保持者や研究者の軍需産業界への関心は低くなく、評価も悪くないと記してるようですが、実際の採用には苦労しているようです。
このあたりの背景が不明ですが、軍需産業にありがちな、官僚的な鈍重な意思決定や、失敗を恐れる組織文化など、今時の若者を吸い寄せられないオーラが出ているのかもしれません
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