21日、米上院議員がマティス国防長官に書簡を送付し、ますます複雑になる多様なミサイル脅威と関連する新たな技術への投資を判断するためにも、取りまとめが遅れに遅れているミサイル防衛見直し(MDR:Missile Defense Review)作成を急ぐよう要求しました。
元々MDRは、トランプ政権の国家安全保障戦略NSSや国家防衛戦略NDSが発表されたことを受け、2017年末までには取りまとめると国防省が述べていたものであり、8か月発表が遅れているものです
そもそもMDRは従来BMDR(弾道ミサイル防衛見直し)と呼ばれていたものですが、弾道ミサイルだけでなく、最近は高度な巡航ミサイルや超超音速兵器の開発が進んで大きな脅威となってきたため、弾道ミサイル防衛に限定せず、広くミサイル対処を考えようと「ballistic」との限定用語を取り除くことにすると今年3月に国防省が明らかにしていました。
当初はその概念拡大も一つの理由に発表を先延ばししていたのですが、5月13日に国防省報道官が「数週間後に発表する」、「国防長官が最終確認中」と発言した後、何の音沙汰もなく、今日に至っているものです。
北朝鮮騒ぎを取り上げるまでもなく、中国やロシア、更にイランなどに急速に拡散するミサイル技術とその脅威(イエメンからサウジにミサイルが撃ち込まれる時代です!)を受け、また前述の巡航や超超音速Mの開発拡散も受け、トランプ政権の軍事政策の大きな宿題の一つがMDRと言われて久しく、多くの国防省や米軍幹部が、「その課題についてはMDRの中で検討しているので今はコメントできない」等の問題先送りに利用してきたのがMDRです
最近では、宇宙にMD用のアセットをとの主張も強まっており、ますます予算厳しき中で取りまとめが困難になりつつあるのは関係者周知の事実ですが、あまりにも「音沙汰無し」なので、Edward Markey 上院議員(D-Mass.)もしびれを切らしたというところでしょう
24日付米空軍協会web記事によれば
●Markey上院議員はレターの中で、敵対的な国がミサイル能力を強化して進化を見せる中、米国もミサイル防衛への投資が急増しており、更に新たに注目すべき技術革新があり、また宇宙ドメインで優位性が重要になりつつあると情勢を分析している
●そしてこのような時代にこそ、国防省はミサイル防衛を取り巻く情勢と基本的考え方を整理したMDR(ミサイル防衛見直し)を早急に取りまとめるべきだと上院議員はレターで訴えている
●更に同上院議員は、最近国防省関係者から米国ミサイル防衛政策を大幅に変更することもやぶさかではなく、宇宙配備のアセットでのミサイル防衛用迎撃システムに前向きともとれる発言が出ていることからも、考え方を早期にまとめてほしいと主張している
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米国内での最近のミサイル防衛関連の議論の流れは、以下の記事で退役陸軍中将が表現しているように思います
「米ミサイル防衛の目指す道」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12
ミサイル技術の進歩拡散の中、圧倒的に攻撃側優位な方向に更に傾いており、どこまでミサイル迎撃に投資すべきかは、極めて難しい課題です。
米国防省内でも、MDRにどのような内容を盛り込むかについて、激論が交わされているのかもしれません。強力な推進者が戦略担当次官補に就任したということですが・・・
関連の記事
「米ミサイル防衛の目指す道」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12
「MD協力推進者が戦略担当次官補に」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-1
「BMDRはMDRに変更し春発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-24-1
「超超音速ミサイルに防御無し」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-21-1
「2倍のICBM防衛ミサイルが必要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-18-1
「宇宙配備のミサイル防衛センサーが必要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-31
「露の巡航ミサイルへの防御無し」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-06