JASSMの更なる射程延伸版「XR」契約

JASSM、JASSM-ER、対艦版LRASMに続く「XR」
防衛省が2018年度予算で要求したJASSMの話です
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13日付米空軍協会web記事は、米空軍が昨年からロッキードに検討を依頼していた長射程空対地ミサイルJASSMの更なる射程延伸バージョンについて、約55億円の本格開発契約を結んだと伝えています
契約は、開発と試験を2023年8月末までに完了するとしていますが、現在米空軍が保有する約2000発以上のJASSM-ER(Extended Range:JASSMから射程延伸型ERに改修済み)のうち、何発を更なる射程延伸型「XR:Extreme Range」に改修するか等の細部には言及していないようです
また、具体的にどの程度射程を延伸するのかについても契約は言及していません
JASSM-ER6.jpgJASSMは「Joint Air-to-Surface Standoff Missile」の略で、航空機から発射して地上目標を攻撃するステルス性を持つ空対地ミサイルで、初期型のJASSMが射程200nm(360km)、後に改良され現在米空軍が保有するJASSM-ERは射程540nm(1000km)です。つまり射程延伸型JASSM-ERはちょうど、第一列島線上空から中国沿岸部を攻撃できる射程のミサイルということになります
従って、JASSM-ERより更に射程を延伸すると言うことは、中国のA2AD能力向上に伴い、第一列島線より更に東方の離れた位置からでないと、中国大陸に向けたASMは発射できないとの判断に米空軍が至ったとも解釈できます。(もちろん、より中国大陸の奥深くを攻撃可能にしたい・・・との思いもありましょうが・・・)
13日付米空軍協会web記事によれば
JASSM3.jpg●JASSMシリーズは、初期型のJASSMが「AGM-158A」、射程延伸版のJASSM-ERが「AGM-158B」、そして空対艦ミサイルのLRASM(Long-Range Anti-Ship Missile)が「 AGM-158C」との型式名になっているが、今回の「XR」はまだ正式に「AGM-158D」とは決まっていない
●ロッキード社報道官は、翼の設計変更による空力効率改善による射程延伸のほか、各種防御性を高めた新GPSユニットを「XR」は備えることになると説明するにとどめた
●また契約は、必要な設計、開発、融合、テストと検証を段階的に進め、全てのプログラム設計と工学的活動を行うと述べている
過去記事からJAASMの概要ご紹介
JASSM-ER4.jpgJASSMは1995年から開発が始まり、実験の失敗等で紆余曲折はあったが2001年に初期量産を開始。敵防空網の射程外から発射され、強固な構造を持つバンカーや、ミサイル発射機などの攻撃を行う目的を持つ空中発射ミサイル。対艦ミサイル版のLRASMもある
●低コストの開発を念頭に、画像赤外線センサーは陸軍の対戦車ミサイル「ジャベリン」から、ターボジェット・エンジンは対艦ミサイル「ハープーン」からと、既存部品を多用している
●航空機から投下されると翼を展開、ターボジェットを始動する。途中、INSとGPSにより誘導され、レーダーに見つかりにくい低空を速度マック0.8で飛行する。
●目標に接近すると画像赤外線センサーにより目標を識別、急上昇してから70度の角度で急降下、突入破壊する。命中精度CEPは約3m
●中央部分の弾頭はタングステン製454kgの貫通モード、または爆風・破片モードを選択可能な多機能弾頭で、貫通力はBLU-109Bと同等とされる
地下施設や強固な施設には貫通モードで、ミサイル発射機やレーダー施設に対しては上空で爆発して爆風と破片を放出する
JASSM-ER9.jpg搭載可能な航空機は、B-2、B-1、B-52H爆撃機、F-15E、F-16戦闘爆撃機など多様
●「JASSM-ER」と「JASSM」の違いは、より大きな燃料タンクと効率の良いエンジンの搭載で射程距離が2.5倍の575マイル(約925km)に延伸したこと。またGPS妨害に対抗できる機能を付加したこと。更にデータリンクを追加装備したことである。
●「JASSM-ER」と「JASSM」は7割が共通部品で構成されており、製造コストの低減に貢献している。
●米空軍は2020年台の製造終了までに、2,400発のJASSM(1発約1億円)と、3,000発のJASSM-ER(1発約1.6億円)を購入予定
2017年12月25日付記事等によれば 
JASSM-ER8.jpgLockheed Martin社のJAASM計画責任者Jason Denney氏は、「A2AD脅威環境で操縦者の生存性を向上させる新たなデザインを開発している」、「我が社の顧客の皆さんは、証明済みのJAASM性能を信頼頂いているが、前線部隊に更なる能力向上型を提供できることを楽しみにしている」と語った
●ロシア製のS-300やS-400と言った高性能地対空ミサイルSAMが登場して世界に拡散する中、これら兵器を使用するA2ADにより、第4世代機の能力発揮できるエリアが制限されつつある
●配備が始まったばかりのF-35や、配備開始が2020年代半ば以降になる次期爆撃機B-21はステルス性も活用して強固な敵防空網を突破できるかも知れないが、しばらくは米軍航空戦力の多数派であるF-15EやF-16C、海軍のFA-18はそうはいかない

●低空を高速で飛行可能なB-1B爆撃機も、JASSMとJASSM-ERの両方が搭載可能だが、強固に防御された敵防空網の突破能力には限界がある
●なお、JASSM-ERの能力を確認した米海軍は、JASSMを対艦ミサイル用に改良することにDARPAと共に着手しており、LRASM(Long Range Anti-Ship Missile:AGM-158C)としてB-1には2018年から、FA-18には2019年から搭載開始される予定である
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北朝鮮絡みで、米軍が韓国展開部隊にJAASMを配備すると発表して大きな話題となりました。
JASSM-ER3.jpgまた昨年11月末、米国がポーランドにJAASM(又はER型)70発を、関連装備を含め僅か200億円で提供すると発表して注目を集めています。
何とお得な投資でしょう・・・戦闘機1機が100億円以上するとか、近代化改修だけで1機100億だとか・・・。よく考えたいものです
JASSM関連の記事
「更なる射程延伸開発契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-09
「ポーランドに70発輸出承認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-30
「B-52をJASSM搭載に改良」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-13
「JASSM-ERを本格生産へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17-1
「空中発射巡航ミサイルの後継」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-12-1
「JASSM-ER最終試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-10-1
LRASM関連の記事
「LRASM開発状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-17-1
「米軍は対艦ミサイル開発に力点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-18
「ASB検討室の重視10項」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04
「LRASMの試験開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-23
「新対艦ミサイルLRASM」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19

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