8月末、RAND研究所が4つ将来シナリオを前提として必要航空戦力量を分析し、「Is the USAF Flying Force Large Enough?」とのレポートにまとめて発表しました。
結論として平時の「飛行禁止ゾーン維持」から朝鮮・ベトナム戦争パターンまで、全ての将来シナリオで航空戦力が不足し、単に戦力の派遣期間を延長するような措置では対応できないし、長期的に犠牲が多いと結論付ています
RAND研究所はもともと米軍や国防省の研究請負が中心の機関で、本レポートも米空軍の戦略計画部署からの委託で行われたものですので、米空軍戦力が潤沢で無駄に規模が大きいなど等の結論には決してならない性格のものと理解すべきですが、その性格を念頭に置いて参考にしたいものです
折しも、トランプ政権によるNSSやNDSを受け、各種戦略文書や見積もり見直し発表の時期を迎える中、秋には米空軍が「戦闘機ロードマップ」を発表する予定となっており、これら政策文書を後押しする御用シンクタンクの分析資料との位置づけ頭に置いておきましょう
分析対象とした4つの将来シナリオ
・朝鮮やベトナム戦争のような長引く地域紛争
・湾岸戦争のような短期の地域紛争
・コソボや中東での平時「no-fly zone設置」のような任務
・中東で進行中の対テロ紛争
シナリオ分析の結果概要
●4シナリオ全てで航空戦力不足が明らかに。例えば、特に不足するのがC3ISR?/BM機で、特殊作戦機とともに、長期地域紛争では需要の半分も満たせないとの結果に。また輸送機と攻撃機も2/3を満たすのが精一杯と分析
●平時の「no-fly zones」任務でも、ISR、特殊作戦機、給油機、爆撃機、攻撃機に需給がひっ迫するとの結論に。総じて全てのシナリオで需要の80%を満たすことができる航空アセットはなかった
●特に平時の「no-fly zones」任務における需要の多さは驚きで、最も負担が大きい任務と分析されている。長期にわたる任務で交代派遣が続く事から、輸送機のみが94%の任務充足レベルで、他の機種は大きな規模で不足が生じることが明らかに
●また、紛争継続が1年以上を長期継続任務とすると、長期継続任務は飛躍的に米空軍への負担を増加させる。そして1946年以降、米軍は46個の長期継続紛争に関与してきたが、冷戦後は特にその期間が長くなる傾向にある
研究レポートの提言
●米軍や国防省は、本研究が用いた歴史的な経験に基づいたシミュレーションを活用する必要があり、その結果を基礎に長期計画や戦力造成を行うべき。特に平時の任務による戦力所要と、そのために犠牲になる訓練や次の紛争への備えの影響を考慮すべきである
●また、長期に及ぶ海外作戦任務の影響を、データに基づきしっかり分析把握すべきである。そして米空軍幹部はその結果を、国防省、議会、メディアや国民に伝えて制作や投資への理解を求めるべきである
●ただ注意すべきは、海外派遣を伸ばすことによって改善を求めてはならない点である。海外派遣と母基地滞在期間を1:1比率にしても、任務達成率が一時的に29%から42%に上昇するだけで、中長期で見れば継続性がなく、兵士や家族への負担が大きく、大きな代償を払うことになることを忘れてはならない
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多少の誇張があるかもしれませんが、平時の「no-fly zones」任務が極めて大きな負担になることは頭に置いておくべきでしょう。
イラクの南部と北部に設定された平時の「no-fly zones」を設定する、「northern watch」や「southern watch」作戦の膨大な負担がトラウマとなり、シリアへの「no-fly zones」設置が見送られているとも考えられます
レポート細部にご興味のある方は以下を
→https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR2500.html
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「中国の核抑止の変化」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-19
「台湾よ戦闘機を減らせ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-07
「女性特殊部隊兵士の重要性」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-28
「RAND:米中軍を10分野で比較」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-18