2019年も昨年を上回るペース
米空軍部隊は1日任務を中断して自殺防止対策日に
7月末、米国防省の「Defense Suicide Prevention Office」が2001年から公表している米軍兵士の年間自殺者数統計レポートをまとめ、昨年2018年の自殺者数が、過去最悪だった2012年の321名を超え、325名を記録する残念な事態となっていることを明らかにしました
米軍兵士の総数は、中東での対テロ作戦等からの撤収もあり、ここ5年間くらいは減少していますが、分母が減る中で自殺者数が過去最悪を記録する危機的な状況で、国防省も頭を痛めています
また今年2019年に入っても状況悪化の傾向が続き、2019年第一四半期の自殺者数は既に90名と、昨年の同期間の81名を上回っており、単純計算すると年間360名との数字が重くのしかかっています
4軍別で見て見ると、昨年は2017年より米空軍を除く全ての軍種で自殺者が増加しており、唯一減少した米空軍でも2019年に入って自殺者が急増しており、今年7月末時点で既に昨年1年間の数を超えるペースとなっているようで、このままのペースだとここ数年の3倍弱になる恐れが出ているようです
1日、そんな危機的な状況を前に、Goldfein空軍参謀総長とWright米空軍最先任上級軍曹が、全ての米空軍部隊が45日以内に丸一日通常業務を停止し、自殺予防を考える日にするよう指示を出し、自殺防止の再スタートを切る決意を全部隊に発しています
1日付military.com記事によれば
●2018年の米軍兵士の自殺者数は、2001年統計公表以降の最高値を記録し325名となった。内訳は陸軍139名、海軍68名、海兵隊58名、空軍60名であり、総数で前年を40名も上回った。昨年との比較では、空軍のみが昨年の63名から若干減少し、他は増加している
●また今年2019年に入っても状況悪化の傾向が続き、2019年第一四半期の自殺者数は既に90名と、昨年同期間の81名を上回っている。
●2018年自殺者の内訳では、男性が95%、また白人兵士が81%を占め、海外派兵経験者は57%を占めている
●自殺者の約半数は、メンタル面での問題を抱えていたことを部隊が把握していた兵士で、また自殺者の半数は、自殺する前90日以内に軍内の何らかの医療・メンタル・相談窓口等と接触を持っていた
●今年初め、関係する国防省高官は具体的な数値に言及はしなかったが、「自殺数の増減をより正確に把握するためには、兵士総数当たりの自殺者数把握がより重要だと考えるが、その統計値は破滅的で受け入れがたい傾向を示している」と言及していた
●米国社会全体でも自殺数は増加しており、1999年との比較で33%も増加しており、10歳から34歳の死因の第2位が自殺となってる
●自殺者の比率を把握する兵士10万人当たりの自殺者数値は、2017年で21.9名で、2016年の21.5名と、一般社会の同年齢層の17.4名よりは高くなっている。ちなみに米軍関連で最も自殺率が高いのは州兵で、29.1名となっている
別の1日付military.com記事によれば米空軍では
●米空軍の2018年の自殺者数は60名と、2017年の63名から若干減少したが、2019年に入り急増しており、今年7月時点で既に78名が自殺しており、昨年同時期の48名より30名も多く、このままのペースだと年間150-160名を自殺で失う過去最悪となりそうである
●そこで米空軍は1日、Goldfein空軍参謀総長とWright米空軍最先任上級軍曹が、全ての米空軍部隊が45日以内に丸一日通常業務を停止し、自殺予防を考える日にするよう指示を出し、自殺防止の再スタートを切る決意を全部隊に向け発信した
●参謀総長は各級指揮官にレターを出し、「いったい米空軍で何が起こっているのだ。希望を失った者に、希望を見出してもらおう」と呼びかけ、この微妙で難しい問題に対応するためには、個々の事象に応じた個人的なアプローチが欠かせないと訴えている
●そして「自殺は予兆を発する者が行うこともあるが、なんの前触れもなく発生することも多い」とその特徴に触れつつ、自殺予防を考える日を契機として、恒常業務を停止して行う「自殺予防を考える日を通じて、自身の問題として、より個人的な部分に寄り添うように取り組んでほしい」と訴えた
●Wright米空軍最先任上級軍曹はビデオ映像で下士官たちに対し、「我々は仲間を、敵と戦て失うよりも多く自殺で失っている」と語り開け、「米空軍が皆さんに自殺防止のために何をやりなさいと指示することはない。どのようになるかを示すこともない。皆さんの部隊で何が必要かは皆さんが一番分かっているだろう」、「自殺について考えることが一つの一番の答えだろう。良い選択肢を与えてあげてほしい。良い方向に導いてほしい」と訴えた
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なかなかシンプルに増加の要因を特定するのは難しいようですが、米国社会全体で自殺者数が増加していることは事実なようです。
まんぐーすの邪推ですが、経済好調の米国社会にあって、またイラク・アフガン戦争による負傷兵の悲惨な状況が軍のイメージを低下させ募集が難しくなり、米軍に入隊する若者の質が低下し、入隊時点でメンタル面に問題を抱える者までリクルートしてしまっている現実があるような気がします。
もちろん、海外派兵を含む出張の期間の長期化(家族との接触低下)、予算不足からくる部隊活動の質と士気の低下、部隊の士気に関心がなさそうな最高指揮官(トランプ)、社会と軍隊の分離進行などなど、様々な背景があると思いますが、インプットの質がカギのような気がしますし、そうなると早急な改善は容易ではありません
それにしても、イラク戦争やその後の混乱期、またアフガンに本格介入し、部隊に負荷がかかっていた2000年代よりも自殺者が多いとは深刻です・・・
ちなみに、日本の全年齢層合計の2018年10万人当たりの自殺者数は、男性23.2人、女性10.1人でした。統計の存在する1900年以降で最悪は2003年で、自殺者総数34400人、10万人当たりで男性40.0人、女性14.5人です
米軍と自殺者問題
「2018年は自殺者数最悪ペース」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-02-09-1
「米空軍死者の一番は自殺」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-12-1
「米海軍の自殺を語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-11-20
「国防省の自殺防止会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-25
「陸軍も6年連続自殺増」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-14