70周年記念の祝福には程遠く・・・
当たり障りのない分野のテーマで時間を過ごすのか
16日付Defense-Newsは、12月2-3日にロンドンで開催される70周年の節目のNATO首脳回会合についてAaron Mehta副編集長(国防省主任特派員)による「見通し」記事を掲載し、本来なら「世界で最も成功を収めた無血同盟」と一時は称賛されたNATOの功績を振り返り、将来の役割を論じる会議になるはずが、NATOの「葬式」のような雰囲気になりかねないと現状を伝えています
注目の指導者としては、まず前回の同首脳会合で加盟国による負担の分担が不十分だとNATO脱退も示唆したトランプ大統領です。
トランプ大統領は最近の英国ラジオ番組で、「NATOの欧州同盟国は十分な負担をしていない。そんな国が20カ国以上ある。英国は国内総生産(GDP)の2%というNATO目標を満たしている。米国はその2倍(4%)も軍事費を支出しているのに、ドイツは1.2~1.3%しか軍事費を支出していない。ドイツはエネルギーのパイプラインを敷設するためにロシアに巨大な資金を支払っているのに、なぜ米国がドイツをロシアから守らなければならないのか」 と不満を隠そうともしません
次に、NATOに防空を依存していながらロシア製の高性能地対空ミサイルの導入を開始したトルコ大統領が挙げられますが、更に最近の英エコノミスト誌とのインタビューに「NATO加盟国を守るのに、もはや米国に頼ることはできない」、「現在、私たちが経験しているのはNATOの脳死だ」と語り、更に「欧州は絶壁の端に立っており、地政学的なパワーとして戦略的に考え始める必要がある。そうしなければ運命を制御できなくなる」とまで語ったマクロン仏大統領など、不協和音の音源には事欠きません
仏大統領は、米国のイランとの核合意から離脱や中東への姿勢に不信感を強めているのですが、「歴史の悪魔はカオスを引き起こし、死をもたらそうと手ぐすね引いている。歴史は時に不吉な歩みを繰り返す恐れがある」、「今、目を覚まさないと、長期的に見て欧州は消滅するか、少なくとも運命をコントロールできなくなるリスクがかなりある」とまで言及して危機感を訴えているところです
加えて開催国である英国は経費支出の面では優等生ですが、EU離脱を巡るゴタゴタで12月9-12日に総選挙が予定されており、ジョンソン首相の立場は微妙で、発言力にも限界がある状態です、
そんな今回のNATO首脳会議に関し、過去係わったことがある人達は「ロンドンの会議に係わりが無くてうれしい」と正直な気持ちを語り、「揉めることのない議題」が取り上げられるのでは・・・と想像しています
16日付Defense-News記事によれば
●前NATO米国大使であるAlexander Vershbow氏は、「英国とEU諸国の関係を巡って雑音がこだます英総選挙が数日後に控えたロンドンでは、NATO会議で前向きな議論があっても埋没してしまうだろう」と述べ、米NSCの前欧州ロシア部長であるRichard Hooker氏は「会合のタイミングは不幸としか言いようがない。円滑な会議と参加する首脳たちの笑顔が多くみられるとは考えにくい」と語った
●下院軍事委員会のRuben Gallego議員(民主党)は、「NATOの機能不全を示す場となるだろう。そしてその結果として米議会は、米国防省が要求しているNATO活動を支えるEuropean Deterrence Initiativeへの予算確保は一層難しくなる」とコメントし、「ドラマは期待できないし、全てが本当に退屈な会議になるだろう」と述べた
●このように加盟国間の政治的対立が表面化する中、NATO首脳会議での議題は、より議論がまとまりやすい対ロ・対中を意識した戦術的または技術的な協力が選ばれるのではないかと見られている
●前英国NATO大使のEdward Ferguson氏は、「ハイブリッド戦への対抗手段を準備・抑止・防御の視点から増やすため、強靭さを強化し、警報発出を改善するなどの合意を目指すのでは」と述べ
●また、2016年の首脳会議でサイバーを陸海空に加えて4つ目のドメインとすることに同意したように、今回は宇宙を5つ目のドメインとすることに同意する可能性や、NATOとしてどのように人工知能AIに投資していくかを取りまとめたり、「5G」をどの様に安全安心な次世代ネットワークとして活用するかを討議する場にするのではないかと語った
●更にRAND研究所のMarta Kepe研究員は、「軍事機動力:Military mobility」も大きな議題となろうとの見方を示し、特に非軍事部門の役割の重要性についてより理解や議論が進むことを期待していると述べ、軍民の協力強化がNATO-EUや他の枠組みで議論が深まることがを期待するとの考えを示した
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最近のトランプ大統領の「ウクライナ疑惑」を巡る米議会の動きからすると、NATO首脳会議でトランプ大統領は国内向けに強い姿勢を見せる必要があると思われ、欧州加盟国を厳しく非難しつつ負担増を求めていくものと考えられます
一方で英国のEU離脱問題に振り回されている欧州諸国は、移民問題や財政問題で足元が揺らいでいることから、米国との妥協点を簡単に見いだせるとも考えにくく、ロシアやトルコが行動の自由度を高める中で、何ら具体的な策に合意できず、中国に対するNATOとしての姿勢を打ち出すことも難しいのでしょう・・・
せめてクリスマスをNATOの任務で戦地で過ごす兵士たちに、感謝と激励のメッセージくらい出してほしいものです・・・
ドイツ戦闘機議論とNATO
「トーネード後継に核任務絡みでFA-18優位!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-08
「独の戦闘機選定:核任務の扱いが鍵」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-01
「独トーネード90機の後継争い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-28
「独仏中心に欧州連合で第6世代機開発」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-2
「アイスランドにB-2爆撃機」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-30
米トルコ関係
「ロシアがトルコにSU-35売り込み」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-29
「トルコの代わりに米で部品製造」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-08-27
「トルコをF-35計画から除外」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-17
「S-400がトルコに到着」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-14
「米がトルコに最後通牒」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-09
「6月第1週に決断か」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-23
「トルコが米国内不統一を指摘」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-2
「もしトルコが抜けたら?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-21