新政権特有の遅れで5月初めに正式公表見込みも
リベラル派削減派とタカ派増強派の双方が反発姿勢
10日付Defense-Newsは前日のブルームバーグ報道等を基に専門家の意見も交え、国防省の2022年度予算(今年10月1日から)案の額が、2021年度予算705 billionに対し、704~708 billion(約75兆円)の横ばいレベルで煮詰められており、物価上場分を考えると実質的には2%程度の削減になろうと紹介しています
そして、実質の削減部分は、装備品の調達や研究開発分野の削減でカバーされるだろうとの推測を紹介し、この分野の2021年度予算額247 billionや、トランプ政権時の2022年度要求案243billionより少ない、227 billion(約25兆円)程度になるだろうと報じています
通常は今頃の時期に公開される次年度政府予算案ですが、政権交代時は遅れるのが通例で、5月初めになるのではと言われていますが、コロナの影響で国内に直面する米国内では、民主党リベラル派が国防費大幅削減を訴え、議会で勢力が拮抗する共和党サイドが2-3%の増額を強く要求する激論の中、バイデン政権は国防費の削減はとりあえず避けるシグナルを米議会に出しているようで、落としどころを探っている印象です
ただし、国防省の予算編成実務を掌握するKathleen Hicks国防副長官は、就任時に海軍艦艇建造計画や核兵器の近代化などのカギとなる分野に集中してレビューすると発言しており、「装備品の調達や研究開発分野の削減」が関連部分に影響するとも考えられます
また、3月3日にバイデン大統領が「当面の国家安全保障戦略ガイダンス:Interim National Security Strategic Guidance」を発表し、その中で「不要なレガシー装備や兵器システム重視の姿勢からシフトし、将来の軍事や国家安全保障上の優位を確保するための最新技術や能力への投資に資源を投入する方向に変える。最新技術導入における、開発、試験、調達、部隊配備等のプロセスの円滑化を図る」とも述べており、この方針に沿った予算案が出てくると予想されます
10日付Defense-News記事によれば
●専門家の一人は「バイデン政権が米議会に、国防費の削減は望まないとのシグナルを出していたラインと一致しており、諸般の情勢を考慮すれば妥当でポジティブな数字だと理解すべきだろう。リベラル派とタカ派の双方から反対の声が上がるだろうが、恐らく落ち着きどころとして妥当な数字だ」とコメントしている
●装備調達や研究開発費が前年より削減と見積もった別の専門家は、「国防省は、次期戦略原潜コロンビア級、B-21爆撃機、次期ICBM、F-35量産、陸軍近代化計画など主要装備品の調達額を増額要求するだろうが、研究開発費と合わせて、(新政権は)この部分で削減を見出すだろう」と述べている
●10日に発表したレポートでリベラル系シンクタンクCPAは、国防予算を700 billionに抑え、F-35調達抑制やフォード級空母予算削減などを要求している。8日にブリッキングスで講演したAdam Smith下院軍事委員長も「3-5%増を要求する根拠が理解できない」、「過去20年間の国防調達は完全な大惨事レベルにでたらめだ」、「中国の軍事増強を前に大騒ぎするだけでなく、中国抑止のトータルなアプローチが必要だ」と訴えていたところである
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共和党関係者が国防省幹部が毎年3-5%増額を主張してバイデン大統領にレターを送る一方で、Smith下院軍事委員長(民主党)のように「F-35への投資は金をどぶに捨てるようなもの」と厳しく批判し、併せてフォード級空母への投資削減等々を訴えるなど、論争は過熱しています
記事が予想している5月初めの2022年度米国政府予算案公表までに、米国の経済状況や国際情勢の動きで当然上記数字の動きもあるでしょうが、現時点での落ち着きどころの数字はこのレベルだということです
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