あちこちのサイトで既に引用されていますが、月刊誌VOICE8月号の巻頭言での伊藤元重(東大大学院教授)による指摘は、当然といえば当然ながら、かなりインパクト有りました。
伊藤先生曰く・・「日本の家計部門の貯蓄率が急速に低くなっていることを知っているだろうか。・・・・1990年代の初めには15%もあった日本の家計部門の貯蓄率は、2007年には3%前後まで下がっている。大変な下がりようである。米国の家計部門の貯蓄率が低いということがよく話題になるが、場合によっては日本の貯蓄率のほうが米国よりも低くなる可能性もありう・・・」と
理由として同教授は・・「その要因はいろいろあるだろうが、もっとも説得的な理由は少子高齢化の進行である。人口のなかに占める高齢者の割合が増えるほど、経済全体の家計部門の貯蓄率は低くなる傾向になる。一般的に、人びとは現役時代に貯蓄して老後の生活資金を蓄え、引退してからはそれを切り崩して生活資金に充てていく。その結果、現役世代の貯蓄率は高くなるが、高齢世帯の多くは貯蓄率がマイナスとなるのだ。」
「いま日本でいわれているのは、多くの高齢者が貯蓄に励みすぎ、消費が少ないことが日本の内需不振を招いているということだ。国民がもっと積極的に消費を行なえば、日本経済もこれだけ輸出に頼る必要がない、という思いをもっている人は多いはずだ。」
しかし
「こうした経済の見方は、これまでの日本経済の姿、あるいは現在の状況を理解するうえでは基本的に正しいだろう。しかし、足下で家計の貯蓄率が急速に下がっていることは、「過剰貯蓄国日本」の姿が急変していることを示唆している。日本も特殊な国ではない。ほかの多くの先進国と同じように、高齢化が進んでいけば貯蓄力は急速に衰えていくのだ。若いときにはたくさん稼いで貯蓄に回し、年をとったらその貯蓄を崩して消費に回していく」
「不況の時代には、皆が安心して国公債を保有する。それがいちばん安心だからだ。株や不動産や資源へ回る投資も少ない。しかし景気が回復してくれば、資金も国公債から、よりリターンの高い株や不動産などへシフトしていくだろう。こうした動きが、国公債市場に大きな打撃を与える可能性も否定できない」
そして同教授は、今後もっとも懸念されることとして、これまで個人貯蓄で財政赤字を埋め合わせる国債を引き受けてきた構図が崩れ、財政問題が顕在化し、国際価格低下による資産価値低下や円安の進行などを挙げています。お題目のように「少子高齢化」を唱えているうちに、足下で起こっている恐ろしい現実を見落としていたようで、暗い気持ちになりました。
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