米の対中国新作戦は「Joint Air-Sea Battle」

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2010QDR2.JPG1日に発表されたQDR(4年ごとの国防見直し)には、今現在の戦いへの重点指向が強く示されていますが、不透明な中国の軍事力増強に対する懸念や備えが、Holylandが予想していたよりも遙かに強く打ち出されました。経済回復優先で対中国はもっとソフト路線かと思っていたのですが・・・。
もちろん、イラン、北朝鮮、またヒズボラなどの非国家対象も十分に意識された内容になっていますが、中国が対話や人権・民主主義と言った西側の主要な価値観に全く馴染まない国家であることが、遅まきながらオバマ政権内に認識され始めたのでしょうか・・・
以下では、HolylandがQDR本文内の対中国戦略を記述した部分と考える部分を紹介します
その部分は、QDRの4つの大項目の一つである「Rebalabcing the Force」の中の小項目、「Deter and Defeat Aggression in Anti-Access Environments」の部分(QDR本文 P31~34)で、「Joint air-sea battle concept」もそこに含まれます。
無論、この部分は対イラン・北朝鮮・ロシアにも適応されるでしょうが、「anti-access(拒否能力・戦略)」と言えば、元々は中国軍の東シナ海付近での最近の活動を指す用語であり、QDRでは広く一般用語として使われているようですが、どう見ても中国を意識した部分です。
なおQDRでは「anti-access(拒否能力・戦略)」を、「ある領域に他諸国がpower projectすることを拒否し、それにより、拒否した者が当該領域を侵略又は不安定化することを可能にすること」と定義しています。
ちなみに、「Deter and Defeat Aggression・・・」の中身は、昨年来ゲーツ長官等が中国に言及した内容と一致しています。予習のためゲーツ長官の中国関連発言は・・・
gatessnt.jpg中国のような軍備増強している国を考える際・・・(中略)我々の機動を妨げ選択肢を狭める能力には懸念をもつべきであろう。彼らのサイバー戦、対衛星・対空・対艦兵器、弾道ミサイルへの投資は、米軍の主要なプロジェクション能力と同盟国の支援能力を脅かす。特に前線海外基地と空母機動部隊に対して顕著である。またそれらへの投資は、足の短い戦闘機の有効性を殺ぎ、どのような形であれ遠方攻撃能力の重要性を増す。」(09年9月の演説)
中国の投資に対応して、米国は、見通し線外からの攻撃力やBMD配備に重点を置き、また短距離システムから次世代爆撃機のような長距離システムへのシフトを求められるだろう
(フォーリンアフェアーズ誌論文)・・・・・
以上のような流れを踏まえつつ、以下の8項目のパーツから構成される「Deter and Defeat Aggression in Anti-Access Environments」を概観したいと思います。
1●Develop a joint air-sea battle concept
対中国の新作戦コンセプト(Holylandの推定)と考えられる概念を、空軍と海軍アセットを中心に開発中。洗練された拒否能力を持つ敵対者に対抗するため、空軍と海軍の持つ、陸海空宇宙サイバー全ての領域にわたる能力を使用するコンセプトであり、米国の行動の自由を確保し、今後の能力開発の指針となるもの。
第4次中東戦争を教訓に米陸軍を中心に構築され、湾岸戦争で実戦使用された、空軍が陸軍が連携して敵の後続部隊、司令部、兵站、通信等を(縦深作戦)deep operation で攻撃する運用概念である「Air-Land battle」(A.トフラーの「第3の波」の冒頭でも紹介されている)を思い起こさせるネーミング。
「Joint Air-Sea Battle」と「Air-Land battle」との関連性は不明であるが、なつかしの「Air-Land battle」については
 → http://www.mclaw.jp/01division/jt_txt_air.html 参照
2●Expand future long-range strike capabilities
n-ucas2.jpgn-ucas.jpg今後20~30年のパワープロジェクションを考える検討が進行中。その中には、バージニア級潜水艦の長距離攻撃能力、米空母に搭載可能な無人機N-UCAS(写真左)の偵察・攻撃力、空軍の爆撃機後継に関する生存性を有する長距離偵察攻撃力、海空軍共同の新型巡航ミサイルの検討等が含まれる。
3●Exploit advantages in subsurface(水中) operations
多様な任務が可能な無人潜水艦への開発投資増加
4●Increase the resiliency of U.S. forward posture and base infrastructure
(ここは日本への資金負担要求が予想されます)特定地域の基地の弾力性・回復力(resiliency:敵攻撃に耐える力)を強化。同盟国と協議し、分析結果を踏まえ施策に予算を付ける。施設の強化、複数化、分散化、対諜報、積極防空など。長距離ISRと攻撃能力により補完される。
5●Assure access to space and the use of space assets
在宇宙アセットの重要性に鑑み、また相互の利益のため、国際協力や企業協力を得て、宇宙活用の能力向上と脆弱性克服に取り組む。緊急増強や緊急再構築能力も重視。
6●Enhance the robustness of key C4ISR capabilities
C4ISR能力の強健化。戦時の緊要な支援能力として、強健で使える空中地表のC4ISR能力が必要。特に堅強に防御された空域での作戦を支援する空中ISR機、空中通信中継のための妨害に強い衛星や長期滞空機のオプションを開発中。
7●Defeat enemy sensor and engagement systems
MALD.jpg敵の高等な偵察、防空、攻撃能力に対抗するため、特定の電子攻撃(Electric Attack)能力への投資増 左図はMALD(無人電子戦飛翔体)
8●Enhance the presence and responsiveness of U.S. forces abroad
同盟国との協議により、抑止効果の高い費用対効果に優れた海軍艦艇の前方展開等の選択肢を検討。
上記のほとんどが中国対応を主体に考えられたものとHolylandは考えます。8●は少し中東湾岸・イラン・海賊のイメージもありますが・・・。しかし、このような方向へ米軍が舵を切ると、日本は同盟国として何をすればいいんでしょう?
田母神.jpg「戦闘機の有効性が低下する」と考える米国に対し、「(米国がニッチな能力しかないために生産をうち切ったF-22を)のどから手が出るほど欲しい」と言った時点で、米国側からはピントはずれ・・・と思われたことでしょう。
勿論、米軍の負担の一部を果たすのだ!、又は基本的には自力で防衛だ!との勇ましさも必要でしょうが、ますます多様化する脅威の中で、べらぼうに高い戦闘機だけを優先する理由が問われるところです。

在日米軍基地施設だけ堅牢にして、自分の基地はプレハブですか・・・。戦闘機だけ最新でパイロットが喜び、飛び上がったら誰とも通信出来ないなんて・・・。よく考える必要がありそうです。「Joint Air-Sea Battle」はフォローが必要です。
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(付録)
中国の手口については、米空軍情報部長も昨年9月のインタビューの中で・・・
deptula_da3.jpg「あらゆる分野で我々の自由を制限しようとする脅威が現れつつある」、「相手が盗み、コピーし、学び、模倣品を作ることにより力を着けつつある」と説明しています。具体的手段の例として、「我のコンピュータシステムに敵が裏口となる部品を組み込み、その裏口から情報を得ている」とサイバー戦の現状を憂慮しています。(中略)それらの結果「デジタル技術を活用した相手は容易に防御網をネットワーク化でき、典型的な防御拠点(ノード)一カ所を攻撃しても相手の防御能力を麻痺させることが困難になっている」と問題提起しています。
この空軍中将の発言に「中国」との具体的な表現はありませんが、強く中国を意識した発言であることは皆様にもおわかりいただけると思います。

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