中国戦闘機によるレーダー照射事案に関する防衛研究所解説

あくまで「筆者個人の見解」との位置づけながら・・・
PLA特に中国海軍操縦者に根付く行動文化組織文化だと解説
「まんぐーす」的にも最も「腹落ち」する解釈です

防衛省防衛研究所「NIDSコメンタリー」枠で、戦闘機操縦者(飛行隊長経験者)である相田守輝研究所員が、「(中国海軍戦闘機)J-15レーダー照射事案にみる中国軍の組織文化――アンプロフェッショナルな振る舞いはなぜ続くのか?」との論考を12月19日付で発表し、各種メディア上で「(中国による)政治的シグナルや対外示威」と表現されるレーダー照射事案解釈を必ずしも的を得た説明とせず、

過去にも複数回発生している中国海軍機による「危険飛行が、組織内部で共有されてきた文化的規範と制度的慣行によって再生産されている」、「危険を顧みない行動を肯定的に評価する価値観を形成し、それが現場の判断や行動選択に影響を及ぼしてきた」経緯を踏まえつつ、

「長時間のレーダー照射事案は決して異例の現象ではなく、中国軍の文化的慣性が最も分かりやすい形で表出した事例」で、「問題の根源は個々の行為の是非ではなく、それを可能にし、正当化し、時に美化すらする組織文化である」、「国家レベルで形成された考え方が、組織文化を媒介として運用レベルに沈殿した結果と理解」と分析し、

「今後も同様のアンプロフェッショナルな振る舞いを繰り返す可能性は高く、従来のように双方向の危機管理メカニズムだけに依拠する対応では限界が生じつつある」、「組織文化と制度構造が生み出す再発性の高い行動である以上、映像等の証拠の記録、国際社会への可視化、カウンターディスコースの構築、新たな対処基準などを含む中長期的なリスク管理体制を整備していく必要がある」と提言しています

以下では、「まんぐーす」が本事案に関する最も実態に即した解釈と考える、上記を結論とする相田氏の論考から、結論を導き出すために提示された2025年12月6日事例の概要や過去事例と、その背景分析をご紹介します

事案の概要
●2025年12月6日、沖縄本島南東の公海上空の日本の防空識別圏内で、中国空母艦載機から発艦したJ-15戦闘機に、空自F-15戦闘機がスクランブル対応したが、対領空侵犯措置対応過程において、J-15が空自F-15に対し、2度にわたりレーダー照射(FCSによる射撃一歩手前のロックオン)を行う事案が発生し、第1回目は約3分間の断続的に照射、2回目は別のF-15に対して約30分間もの長時間にわたり照射が継続された
●レーダー照射が30分以上続く事例は国際的にも極めて非常識。照射すれば重要な電磁情報が相手に暴露するため、パイロット個人の暴走とみることは現実的ではない。他方、習近平主席が細部まで指示したとも考えにくい。したがって、本事案は政治指導と現場判断の中間にあたる「曖昧な領域」において意思決定されたと捉えるのが妥当であろう

一貫した説明を欠き混乱した中国側の対外対応
●まず12月7日昼、中国海軍報道官は、日本側が中国側の通常訓練を妨害した」と主張し、同日夜、中国国防部も遼寧艦隊の訓練は通常行動であり、訓練を妨害した日本側に問題があるとの解釈で日本に責任転嫁する姿勢を示した。肝心のレーダー照射行為には言及がない反論を実施。
●ところが翌8日になると、国務院外交部報道官が中国側使用は「捜索レーダー」であると説明。軍民を問わず、「捜索レーダー」は航空機が常時使用する一般装備で説明不要であり、あえて「捜索レーダー」と特定することで、日本が抗議している指摘を回避しようとする意図がうかがえた。

●一方、中国軍はレーダー照射の有無・種類について一切触れなかった。結果として、「捜索レーダー」に言及した外交部が、「日本戦闘機の接近が問題だ」と論点を転じる皮肉な構図が浮かび上がり、外交部の不自然な説明が疑念払拭どころか、日本からの指摘を前提とした釈明である印象を国際社会に与えることになった。
●しかし、本事案の核心は、敵対行為へ直結し得るレーダー照射が執拗に30分間も継続された事実にあり、国際的にみても非常識で、軍事組織の矜持から著しく逸脱した振る舞いが行われた点にある。

過去の中国海軍機による危険事案(2001年の海南島EP-3衝突事故を中心に)
●2001年4月1日、米海軍の電子戦哨戒機EP-3が、海南島の南東約100kmの公海上を飛行中、中国海軍J-8戦闘機2機が接近して行動の監視を行っていたが、内1機がEP-3に異常接近して接触し、異常接近したJ-8は大破して南シナ海に墜落し、パイロットの王偉は行方不明となった。米海軍EP-3もプロペラや機体を大きく損傷し、辛うじて中国領内である海南島の陵水軍用空港に緊急着陸
●世界中の操縦者みれば、事故原因がJ-8操縦者の技量未熟によることは映像等からも一目瞭然。プロペラ機EP-3の速度に合わせるため、J-8は失速寸前状態に陥っており、機体を完全に操縦できなくなった状態でEP-3衝突してJ-8だけが墜落しており、あおり運転した車が自損事故を起こすのと同じ構図

●しかし当時の中国江沢民指導部は、J-8の自損事故とは認めず、米国を激しく非難し、墜落死した操縦者「王偉」を「烈士」として英雄化する。記念碑を建てて学校教育にも取り入れられ、「危険を恐れぬ勇敢な殉国者」として国家的記憶に固定化していった。危険な飛行が「勇敢さ」や「愛国的実践」や「対外闘争精神」として肯定評価される価値観が形成され、結果として、中国海軍操縦者に危険飛行を避けるより、奨励する行動文化を形成した
●この行動文化は、操縦者養成の中国軍教範でも強調されているように、朝鮮戦争期から中国軍全体に流れるに「犠牲を恐れず」、「死を恐れず」といった価値観と相まって、中国軍パイロットの矜持として組み込まれていった。

EP-3事件以降も繰り返される中国海軍機による危険飛行
●例えば、2014年7月には海南島の217kmの国際空域で、J-11戦闘機が米海軍P-8哨戒機の上下左右をバレルロール機動で翼端間隔が6~15mとの衝突すれすれで何度も通過して威嚇する事案が発生。
●2022~25年にかけては、中国海軍戦闘機が、豪州軍P-8の前方に意図的にチャフを散布してP-8エンジントラブルを誘発する恐れのある極めて悪質な嫌がらせ事案や、異常接近事案が複数発生している。また、2023年にはカナダ軍CP-140哨戒機に対する異常接近事案も同様に確認されている。

相田守輝研究所員の主張
●時期、場所は異なるも、中国海軍機の危険飛行の性質が驚くほど一致しているのは、中国海軍機の振る舞いが組織内部に根付いた文化的・制度的メカニズムに支えられていることを示している。
●こうした事案発生の度に、中国による対外示威活動だと説明され、「政治的シグナル」として解釈解説されるが、危険飛行が「正しい行動」される文化的な慣性が、中国海軍操縦者に根付いていることが主要因と見るべきである。英雄物語となった王偉の殉職、死をも恐れぬ精神の強調が、組織内の暗黙の価値観と結びつき、中国海軍の行動様式を形成している。

●更に、制度要因も危険な行動様式を助長している。様々な展開先で広範囲に活動する中国海軍航空部隊では、艦隊指揮系統と航空戦力指揮と中国軍戦区指揮の3つの指揮系統が交錯し、抽象化された各系統の命令が交戦規定(ROE)の明確化を困難にしている可能性がある。この状況では、現場部隊は好戦的行動を採用する傾向にあるだろう。
●また過去の危険飛行で処分された記録はほぼ無く、対外的強硬姿勢が評価される暗黙の慣例となってきた可能性が高く、危険飛行が組織内で報われる逆転インセンティブ構造が生まれている。この構造こそが、中国海軍航空部隊でアンプロフェッショナルな危険飛行を再生産してきた根幹である。
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相田氏は、防衛研究所員としての立場から、また引用可能な情報の範囲から、言葉を選んだ慎重な書き出しで論考を始め、控えめな用語で提言を行っていますが、自身も飛行隊長として部下を率い、対領空侵犯措置に当たっていた様々な思いが頭をよぎったのでしょう。論考の随所により強い思いがあふれ出ている様に思います。

対領空侵犯措置を最前線で任されている航空自衛隊の戦闘機パイロットが(地上で空自パイロットと連携する指揮所管制官と共に)、正常な思考回路を持たない中国パイロットを相手に、他国の同種任務を担う操縦者に比し、きわめて不十分で限定的な権限規定の基で任務遂行を迫られている現状を、もっと率直に表現し、早急な関連規定などソフト面での改善を訴えたかったのだと思います。

また、メディアやYouTube上で視聴率やアクセス数稼ぎに「したり顔」で語る自称専門家に、中国軍が中央からの統制が効いた組織ではなく、何をやらかすかわからない制御不能な側面を持ったグループの集合体であることを、強く訴えたかったのだと推察しております

でも今回の「レーダー照射(Rock-on)」は、中国側にとって如何にもタイミングが悪く、中国経済崩壊の中で日本との微妙な関係維持が必要な時期でもあることから、「薛剣(せつ けん)」大阪総領事のその後に見られるように、当該海軍操縦者が単純に英雄扱いされない可能性もあり、今後の動向を注視したいと思います。

相田守輝研究所員の論考
「空母福建のEMALS と操縦者育成の課題」→https://holylandtokyo.com/2025/10/23/12952/

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