モサドのイラン防空兵器破壊工作の工作員採用

モサドはイスラエル人ではなくイラン政権に反感を持つ者を訓練し派遣
約70名を14組に分け、攻撃前夜に各担当目標近傍に
金銭報酬だけでなく医療や留学機会提供が効果的

8月7日付DefenseOneが、ニュースサイト「ProPublica」に掲載された記事「6月13日のイラン攻撃の内幕:モサドは如何にイラン政権に反感を持つ者を秘密裏に採用し、国内から攻撃させたか」を了解のもと転載し、イスラエル空軍がイラン核施設攻撃を開始する直前に、イスラエル諜報工作機関モサドの工作員が、イスラエル空軍攻撃の障害となるイランの防空兵器を、秘密裏に持ち込んだミサイルやドローンを使用し、

地上から破壊した作戦に関し、モサドの現役(同作戦を遂行したイラン政権に反感を持つ者のイラン人モサド工作員を含む)とOB工作員約10名に匿名を前提に取材した「内幕」を、イスラエルによる対イラン秘密工作の歴史的経緯を含めた長文の記事で紹介しています。

本日はその中から「まんぐーすの好み」で、対イランでのイスラエル人の工作員活用から大きく方向転換し、モサドがイラン国内やイランから海外亡命したイラン政権に反感を持つ人々を、モサド工作員に採用し訓練する様子に関する部分を紹介したいと思います

記事は6月13日のモサド工作員による攻撃が、4~6名で構成された14組のチーム総勢約70名(全てイラン政権に反感を持つイラン人や周辺国人)で遂行されたと紹介し、イラン政権に反感を持つ者からモサド工作員に採用され、作戦遂行の5カ月前から第3国で訓練を受けた後、他のメンバーと共に作戦前日にイラン国外から各攻撃目標近傍に派遣された人物の証言を中心に、工作員の活動を紹介しています

●シャロン首相に指名され、2002年~11年までモサド長官を務めたMeir Daganは、イランの人口9千万人の約4割が少数民族(アラブ人、アゼルバイジャン人、バルーチ人、クルド人など)で構成され、イラン政権に強い不満を持つ者が多い点に着目し、従来のイスラエル国籍工作員活用から、イラン国内や国外に亡命した反体制派を工作員として活用する方針に舵を切った

●今次の作戦に参加した工作員一人「ST」は、イラン郊外で生まれ育ったが、治安取り締まり民兵部隊に逮捕され、最終的に釈放されたものの、電気ショック等々の厳しい拷問を受け、イラン政権に強い憎悪の念を抱いていた若者で、海外の親戚がモサドに「ST」を紹介してモサドと接触が始まった人物

●「ST」はモサドからの依頼に、何かあった場合にはイスラエルが彼の家族の面倒を見ることを約束することだけを条件に工作員依頼を引き受け、「ST」はイラン国外でイスラエル専門家から数ヶ月間訓練を受けた。攻撃開始直前、「ST」は彼のチーム仲間と共にイランに戻り、イスラエル史上最大規模かつ最も複雑な軍事作戦の一つに加わった。

●一般にモサドと対イラン工作員候補の最初の面談は、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャンといったイラン人が比較的入国しやすい近隣諸国や、イラン人がビザを入手しやすいタイやインドで実施される
●候補者は、個人履歴や家族環境に関する詳細な質問票記入が求められ、心理学者がマジックミラー越しに観察する中での一連の面談や「ポリグラフ嘘発見機」検査官による尋問を受ける。工作員は活動開始後も定期的に再検査や面接を受け、「ポリグラフ嘘発見機」検査も繰り返される

●工作員は徹底的訓練を受け、イラン秘密警察等から疑念を持たれないように、何処でどんな服を買い、どんな車に乗り、報酬として受け取った金品をどのようにどこに預けるか等々まで詳細に指示される
●工作員がモサドの協力する動機は、究極的には人の憎しみ、愛、依存、復讐といった感情だが、工作員志願者の動機が何らかの具体的な利益によって支えられている場合、それは必ず役に立つとモサド関係者は証言している。また直接的な金品による報酬ではなく、何らかの間接的な支援がより効果的であることも多い

●「間接的な支援」で代表的なものは、「親族等に対する医療の提供」と「外国での高等教育機会の提供」で、「医療提供」はモサドの代表的勧誘手段である。モサドは複数の国の医師や診療所と繋がりを持ち、手術や様々な治療法の手配は、パレスチナ過激派ハマスやヒズボラへの潜入にも活用されている。医療提供支援はWebサイトやSNSでも発信されており、それら接触も工作員介入につながっている
●「海外での教育機会提供」では、イラン国民が質の高い教育へのアクセスを切望していることをモサドが把握しており、欧米の大学や寄宿舎付き中学高校への入学は、特に魅力的な勧誘手段となっている

●ただ、様々な工作員勧誘策や報酬提供が重要な一方で、工作員候補とモサド側工作員担当者との個人的人間関係や「信頼感」が最も重要とされている点は、この種の要員維持の古来から変わらぬ原点とされている。多くの場合モサド担当者は、親密な家族、心理学者、精神的指導者、時には子守役といった役割全てを務めつつ、工作員を任務遂行に導いていく

そのほかのモサド工作による対イラン作戦
●イランに反感を持つイラン人や周辺国人工作員養成とは別に、イラン国内に攻撃兵器やドローンを持ちこむため、モサドはイラン周辺国でイランとの密輸で生計を立てている7か国の密輸業者や各国諜報機関等と接触を持ち、イラン国境検問所を合法的に問題なく通過可能なトラック輸送ダミー会社を活用するなど、「装備のイラン持ち込み持ち出しは比較的容易」と関係者が証言する体制を構築していた

●またイラン防空拠点を攻撃した工作員以外にも、イランの核科学者11人の生活パターンと寝室を含む居場所に関する詳細な情報を収集した工作員も存在し、その情報を基にイスラエル空軍機が6月13日の早朝に精密誘導兵器を発射して11人全員を殺害している。
●更に、工作員はイラン軍中枢部が使用する通信システムへの侵入にも一役を担い、イスラエル空軍攻撃の初期段階で、イラン軍最高指導者たちに偽のメッセージを送信し、彼らを地下防空壕会議室での架空の会合に誘いだした後、地下壕を精密誘導兵器で攻撃して軍主要部隊の参謀長3名を含む20名を殺害している
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工作員のリクルートと養成と言う、一般的に興味をそそる側面からアプローチしましたが、安価なドローンや安価な兵器で、敵地奥深くの敵の拠点を容易に攻撃でき、しかも敵に甚大な損害を与えることが可能だということを、ウクライナの「蜘蛛の巣作戦」と共に、世界に知らしめたイスラエルの「Rising Lion作戦」の一端をご紹介しました。

会員制のニュースサイト「ProPublica」掲載記事は、8月7日付DefenseOneに全文公開されており、長文ですが読みやすい記事ですので、

上記の「つまみ食い紹介 by まんぐーす」ではなく、モサドの最近数十年の究極目標であった「イラン核開発阻止」への各種工作の様々な経緯や失敗を含む歴史も含め、ぜひ全文をご確認ください。

イスラエルの対イラン作戦
「6月12日のモサド工作員奇襲」→https://holylandtokyo.com/2025/06/23/11962/

米軍のイラン核施設攻撃の関連
「15年かけた執念の作戦」→https://holylandtokyo.com/2025/06/30/12041/
「国防長官と統参議長の速報会見」→https://holylandtokyo.com/2025/06/23/11980/
「巡航ミサイルはSSGN潜水艦から」→https://holylandtokyo.com/2025/07/01/12008/
「米国防省報道官会見」→https://holylandtokyo.com/2025/07/07/12091/

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