米空軍が航空機整備員のキャリア大幅見直しへ

現場整備業務の80%は、新兵教育課程で教える一部の業務に集中の実態踏まえ
54の職務区分への配置を止め、新人は全機種対象の共通汎用整備に投入
軍曹昇任時に細部6区分への選択肢提供も、特定機種専従はその後
全キャリアを全機種対象の一般基礎整備業務担当も可

米空軍が検討中の「航空機整備員のキャリア管理基準の見直し案(1月24日付文書)」が、米空軍非公式の下士官用Facebook上に出回り、米空軍が後追いで「実在する本物の公式文書である」と認めた件について、1月27日付米空軍協会web記事が文書漏洩の話は脇に置き、米空軍が2027年導入開始を目指す「キャリア管理基準の見直し案」の概要を紹介していますので取り上げます。まんぐーすは第一印象で、良い方向だと思いました

航空機整備員キャリア管理見直しの背景には、大きくは米空軍がACE(Agile Combat Employment)構想で取り組む、対中国を念頭に置いた航空機の分散配置による作戦運用があり、その実現のため、より少人数で分散展開先での多様な任務(航空機の離着陸支援、燃料や弾薬補給、展開基地防衛、通信、展開基盤維持業務等々)をこなせる空軍兵士の育成ニーズがあります

また航空機整備職域での実態調査で現場実務を分析した結果、整備員が行っている現場業務の80%は、今の同職域新人兵士に基礎技術教育で教えている多様な教育項目の僅か2割に当たる、職務初級者でも可能な各機種に共通する汎用業務(航空機の発進前&着陸後の基礎的支援、燃料補給など)で、これら80%の基礎業務を、新人から高練度のベテランまでが分担実施している実態が明らかになったことが「見直し案」の引き金になったとのことです

2027年導入目指す「新キャリア管理基準」案は
●航空機整備員に指定された新人兵士には、従来のような機種を限定して50種類以上に細分化された職務区分AFSC(Air Force Specialty Code)ではなく、各機種に共通する汎用業務(航空機の発進前&着陸後の支援、燃料補給などなど)を担当するジェネラリストコース職務区分の教育訓練を受け、航空機整備員のキャリアを開始する。そして、特に海外派遣先で需要が多い多様な機種への汎用整備業務への投入を可能とし、現場ニーズに柔軟に対応できる人材確保と多様な現場経験を通じた人材育成を狙う

●新人が多様な機種で汎用業務を経験する上記ジェネラリストコース職務区分で経験を積み、階級「Senior Airman」になり初級軍曹(technical sergeant)への昇任を目指す頃に、それまでと同じく特定機種に限定せずに、以下の航空機整備の6つの分野のどれかを、希望も加味して専門分野として指定する。各整備員は各分野で十分な専門知識を必要とする任務に集中できるよう管理する。文書には「より多くの任務と成長の機会」が与えられると説明されている

6つの分野とは
Avionics and Electrical→航空電子工学と環境・電気専門分野の電気部門全般 
Aerospace Ground Equipment→航空機整備関連の地上設備業務
Advanced Mechanical→燃料、油圧、および飛行ライン側でのエンジン整備全般
Crew Support Systems→射出座席システムと関連電気&環境部門
Fabrication→機体構造の整備、機体金属技術、非破壊検査など
Intermediate-level engines→中間レベルエンジン整備

●上記で説明してきたように、新人兵士から初級軍曹である「Technical Sergeant」までは専門の機種を指定しないが、それ以降の階級では希望と選抜により、特定機種に関する「機首から尾翼まで横断的な機能の専門家」になるルートが用意される。
●特定機種に絞らず、上記6つの分野の現場整備技術の専門家としてキャリアを継続するキャリアのほか、上級軍曹(master sergeantレベル以上)に昇任時点で、現場の整備技術者職務を離れ、組織管理や行政組織運営監督的なリーダーシップ要素の高い職務キャリアを希望して選抜されるルートも設けられる。上級軍曹レベルでは、この2つの配置を柔軟に切り替え、高い専門技術を現場で生かしつつ、組織運用にも貢献するキャリアパスも想定されている

「新キャリア管理基準」案のメリット
●航空機整備員キャリアの早い段階で、最も現場ニーズが高い汎用整備業務に集中投入し、多機種での業務や海外派遣現場を経験させることで多様な能力を持つ人材育成につながる。
●最も頻繁に行われるタスク資格を持つ人材を増やし、キャリアを通じて多機種でその能力を向上させて組織への貢献度を高め、航空基地運用最前線での運用効率性や機敏性を高めることが可能
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記事の概要は以上ですが、現場の航空機整備員の方は、「それぞれのキャリアパスで、実際の勤務地がどこになるか?」、「生活が便利で、子弟教育環境の恵まれた基地での勤務を続けるには、どの道が最適か?」などの視点でも、「新キャリア管理基準」案を評価するのかもしれません

漏洩した1月24日付文書の位置づけや、2027年導入を目指したスケジュールが不明ですが、基本的な考え方は間違っていないと思いますので、今後の動向を見守りたいと思います

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