6月25日付 NIDSコメンタリーに掲載
実務的な課題に焦点を当てた論考
広義には他にも色々ありそうな気がするが
6月25日付 防衛研究所NIDSコメンタリーが、福島康仁主任研究官による『「商業宇宙戦争」の時代における防衛組織の課題』との簡明な論考を掲載し、ロシア・ウクライナ戦争を通じ急速に注目を浴びる商用宇宙サービスの軍事利用に関する(日本に限らず世界の)国防(防衛)組織としての課題を2つの視点から示し、その課題への対応として(世界の国防組織が)「少なくとも」取り組むべき事項を2つの側面から紹介していますので、ご紹介いたします
米軍が各種宇宙システムを情報面で広く活用したことから、1991年の湾岸戦争が「初の宇宙戦争」と呼ばれることを受け、「商業宇宙能力が実際に重要な役割を果たしている最初の戦争」として2022年2月からのロシア・ウクライナ戦争を「初の商業宇宙戦争(commercial space war)」とその筋では呼ぶようですが、
本論考で「国防組織(防衛組織)としての課題」や「国防(防衛)組織として少なくとも取り組むべき事項」と議論の範囲を限定しているように、「宇宙」や「民間企業の軍事作戦協力」との、日本ではいまだに極めてデリーケートであろう話題を考えるにあたり、議論の焦点を明確に絞っていることがポイントであり、「商業宇宙戦争」との言葉にぼんやりと興味を持って読まれた方には、少し肩透かし感があるかもしれません。
でも限られた紙面の中で、広義の「課題」を議論して発散するより、実務面で必要な視点に絞って「商業宇宙戦争」を見ることは大切なことだと思いますので、推定約40歳の福島康仁さんの論考をご紹介いたします
露・ウ戦争が初の「商業宇宙戦争」になった背景
●2010年代後半から商業地球観測衛星数が急速に増加し、高分解能光学画像から高頻度光学画像、合成開口レーダ画像に至るまで多様な画像を入手できる環境が整った。
●例えば、米国のプラネット社(2010年創業)運用の約200機の小型光学地球観測衛星群や、フィンランドのアイサイ社(2012年創業)運用の型合成開口レーダ衛星群。また、今や「ウ軍」の指揮統制に不可欠な米スペースX社(2002年創業)の高速衛星通信サービス「スターリンク」は、試験的サービスが最初に米加で始まったのは2020年後半
「商業宇宙戦争」時代の国防(防衛)組織の課題2つ
●企業のイノベーションを如何に効果的に活用するか
→宇宙関連技術革新が国家から企業に移行する傾向が顕著な中、民間の技術革新を官の国防組織がどれだけ迅速に取り込めるかが軍事優劣に大きな影響
→例えば米国は、米宇宙軍は宇宙開発局が「fast follower」を標榜し、2年毎の新しい衛星群打ち上げに着手し、衛星の軌道離脱などに商業サービス活用も検討。また軍内商業宇宙室が有事に商業サービスを迅速&&安定的に利用可能な契約枠組み(Commercial Augmentation Space Reserve)の創設準備も
→更に、2024年4月発表の米国防省「商業宇宙統合戦略」(CSIS)は省全体の意識改革を促し、商業宇宙サービス全体を補助的でなく、不可欠なものとする決意が示され、同時に初発表の米宇宙軍「商業宇宙戦略」(CSS)でも、同盟国に加え企業サービスを統合した能力構築推進を掲げている
→先進的商業サービスへのアクセスレベルは国により様々も、米国とその同盟国は、同盟国や友好国サービスが利用可能な場合が多い。それ以外の国家で注目は、2010年代後半から中国民間企業が宇宙サービスを急拡大している点で、露ウ戦争に関与していた民間軍事会社ワグネルが、中国の新興宇宙企業から光学及びレーダー衛星画像を購入&利用していたとされる
●商用システムへの妨害に如何に備え対応するか
→商業システムへの依存度が増すに従い、敵にとって防衛組織が利用する商業宇宙システムは、より重要な攻撃目標になる
→例えばイラクでは2004-5年から米軍使用の商用衛星通信への妨害が確認され始め、2020年以降も妨害源特定作戦が継続されており、妨害が当該区域で常態化している模様。露ウ戦争でも、米ヴァイアサット社の静止衛星通信網へのサイバー攻撃や、スペースX社のスターリンクもサイバー攻撃や電波妨害を受けている模様で、商業システムへの妨害は前提として想定しておくべきものとなっている
防衛組織に「少なくとも」必要な取り組み2つ
●官民の多様なシステムを継ぎ目なく使用可能に
→防衛組織が宇宙システムを自ら構築することに増して、商用サービスをどれだけ効果的に利用可能がカギになる
→例えば、ビックデータである衛星画像データを迅速に処理する人工知能使用ソフト(既にウ軍使用)や、官民の衛星間で大容量データを迅速に共有可能な光通信網、官民様々な複数宇宙システムに対応可能な利用者端末の導入などがこれに該当する
→防衛省もこうした観点から、専用通信衛星と商業通信衛星などに対応したマルチバンド受信機の整備を始めている
●妨害対処の課題への官民連携と国際連携
→日本では2022年12月の「国家安全保障戦略」で、宇宙安全保障関連取り組みの1つとして「不測の事態における政府の意思決定に関する体制」構築が明記され、官民情報共有の枠組みとして2023年に設置された「宇宙システム安定性強化に関する官民協議会」が鍵となる役割を果たすことを期待されている。
→この際の留意点として、当該国の防衛組織が利用する商用サービス提供元が「自国企業とは限らない」点があり、外国企業との間でも妨害を前提とした情報共有や対応を検討しておく必要がある
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冒頭で失礼にも、「商業宇宙戦争」との言葉にぼんやりと興味を持って読まれた方には、少し肩透かし感があるかも・・・と書いてしまいましたが、実態として日本があまりにも遅れているため、とりあえず進むべき方向を論考として大まかに示すしかない状態なことも、なんとなく伝わってきました
もちろん米宇宙軍においても、「商用サービスをもっと迅速に活用できるように枠組みの変革を!」との強い現場の声が、素早く政策に反映されているわけではなく、米議会などから「本当に民間企業を有事に頼って良いのか?」「企業所属の民間人が軍事作戦における重要判断に関与することにならないか? なって良いのか?」等々の根本的な疑問の声も上がっており、「商業宇宙戦争」の広義の「課題」はとてつもなく大きなものだと再認識しておく必要もありましょう
宇宙分野での企業との連携
「国際&企業協力強化に規格設定を」→https://holylandtokyo.com/2024/05/13/5833/
「国防省有志が迅速民間活用要求」→https://holylandtokyo.com/2022/09/16/3609/
「補給方式異なる2企業と並行連携」→https://holylandtokyo.com/2024/02/20/5554/
「衛星の緊急打ち上げ技術開発」→https://holylandtokyo.com/2024/03/12/5622/
「衛星が地上局との Link-16 通信試験」→https://holylandtokyo.com/2023/11/30/5311/
「海上打ち上げ企業選定」→https://holylandtokyo.com/2024/06/14/5964/