対中国作戦の輸送力不足補填に「Liberty Lifter」構想
どの軍種が運用を担うか不透明なまま
ビーチに接岸して荷下ろし構想で
2028年初頭の初飛行目指し2社から1社に
C-17級の搭載力と「地面効果」低空飛行可な機体
エンジン8基とかの巨大機体です
5月9日、米国防省の研究機関DARPAが(対中国を想定して)提案募集し、2023年2月に2社に候補を絞り込んでいた海面離着陸とビーチ接岸可能な大型輸送機(Liberty Lifter Seaplane Wing-in-Ground Effect)について、「Phase 1」契約(10億円程度)で1年半の検討で煮詰めた技術成熟や機体設計やデモ機製造の計画を審査し、「General Atomics」と「(ボーイング傘下の)Aurora Flight Sciences」の候補2社から、Aurora社を継続検討契約対象とすることを発表しました。
今後は約15億円程度の「Phase 2」契約に進んで更に機体設計や細部仕様を煮詰め、その後搭載量C-130程度のデモ機製造を行い、最終的には搭載量がC-130の約4倍のC-17輸送機レベルの機体として、米軍の「どこかの軍種」と連携し、2025年には設計審査を終え、2027年末から28年初の初飛行に向け開発を進める予定になっているようです
まず大型水上離着陸輸送機(通称Liberty Lifter)とは
●(細部要求レベル未確定も、報道によれば、)対中国作戦での西太平洋上の分散拠点への輸送力強化策を狙いとした、海面離着陸可能でビーチ接岸して荷下ろし可能な、全く新タイプの革新的な輸送機で、C-17輸送機並みの搭載量100トン程度(M1戦車69トン、フル装備空挺兵士100名、担架上の患者34名)を追求
●荒れた海での運用も目指し、小型ボートの運用限界である「sea state 3(波高4 feet)」より厳しい、「sea state 4(波高8 feet)」で離着水可能で、補給艦から戦闘艦への海上補給が困難になる「sea state 5(波高13 feet)」でも海上活動が可能なレベルを追求
またこのLiberty Lifter構想は、以前ご紹介したMC-130米空軍特殊作戦機用に水上離着陸可能なフロートを開発するプロジェクトや、GPS誘導JDAMを艦艇攻撃用に改良するプロジェクトと同じ流れで、対中国作戦を想定し、従来空軍が活用してきた作戦能力を、海と島々で構成される西太平洋戦域で活用するための検討(adapt traditionally air-related capabilities to a maritime environment)の一つだ・・・、とも報道では紹介されているようです
今回Aurora Flight Sciences案の方向が採用されましたが、DARPA担当責任者は、「我々は効率的に革新的なものを生み出そうとしており、攻めた厳しいスケジュールや技術目標を掲げ、迅速に戦力化することを追求しているが、General Atomics案はこのような野心的な目標レベルに到達しなかった」との極めてストレートな表現の声明で選定結果を説明しています
ちなみに2社の提案概要(概念図も参照)は・・・、
Aurora Flight Sciences社の提案
・単胴、高位置翼、幅広い水平尾翼
・8つのターボプロップエンジン
・機体尾部に開いて貨物積み下ろし
・Gibbs & Cox社&ReconCraft社と設計協力
General Atomics社の提案
・海上での安定を2つの胴体と翼で確保
・12基のターボシャフトエンジン
・機体前方が開いて貨物積み下ろし
・Maritime Applied Physics社と設計協力
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2023年2月に候補2社との「Phase 1」契約が発表された際に、DARPAが検討の進捗をみて「少なくと一つの軍種とチームを組んで」と微妙な表現で説明していたように、運用担当軍種が海か空かぼんやりした、つまり、陸上飛行場が母基地になるのか、湖や海に面した港が母基地になるのかが判然としない、今後大いに議論が紛糾しそうな輸送アセットです。
また、機体が完成したとしても、目的地での荷下ろしや陸揚げ後の輸送運用などが相当に難しい印象の機体で、「革新」を追求と言われても、現時点では実際の運用の担い手も判然としない「実行可能性」が「?」なアセットのような気がしてなりません。裏を返せば、対中国作戦がそれほど兵站面、つまり物資輸送面で難しい問題を抱えており、あらゆるアイディアを試行錯誤で試している段階だ・・・とも見ることができます
Liberty Lifter Seaplane Wing-in-Ground Effec構想
「国防省が大型水上離着陸機の候補2社発表」→https://holylandtokyo.com/2023/02/15/4268/
Liberty Lifter構想と同じ流れの検討
「艦艇攻撃用に改良のGPS誘導JDAM試験」→https://holylandtokyo.com/2022/05/13/3219/
「対中国にC-130用水上着陸フロート開発」→https://holylandtokyo.com/2021/10/13/2296/
西太平洋では兵站確保が重要
「ウのアジア太平洋への教訓は兵站支援」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「ウは世界初の防空兵器の消耗戦に」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「台湾は非対称戦術を」→https://holylandtokyo.com/2023/01/16/4160/