Patriotミサイルの復活と継続発展見通し

「ウ」以前は後継検討が始まっていたが
今や欧州・アジア・中東で関心急増
ミサイルの生産体制も2倍強へ

Patriot 2.jpg4月9日付Defense-Newsが、冷戦期に米陸軍に導入され、2010年代には後継システム開発も検討されていたパトリオット防空ミサイルシステムが、2014年の露によるウクライナ侵略を契機に東欧諸国を中心に注目を集めだし、米陸軍もペトリ後継検討の方針を見直し、更に2022年2月のロシアの本格侵攻後の着実な撃墜実績により、アジアや中東諸国を含む世界中から迎撃ミサイルやシステム全体への発注が急増し、システム担当レイセオン社も迎撃ミサイル担当ロッキード社が生産体制を強化している様子を取り上げています

Patriot 5.jpg冷戦期に導入が開始されたパトリオット防空システムは、1990年代の湾岸戦争と2003年のイラク戦争で本格的な実戦を経験することになりますが、湾岸戦争ではイラク軍がサウジ領内の米軍展開拠点に向け発射したスカッドミサイル迎撃に失敗して米兵28名死亡につながったり、イラク戦争では3回の有軍誤射で英軍トーネード1機を撃墜して2名を死亡させる事案等も経験しました

Patriot 3.jpgそれでも米軍の主力防空ミサイルシステムとして世界から注目され、1個中隊がミサイル4発搭載発射機8両、レーダー搭載車両1台、指揮統制装置車両1台と発電機で構成されるセットが、米軍以外で日本を含む18か国に約160中隊分(米陸軍は上記以外に約90個中隊)提供され世界中に普及し、ウクライナではロシアの極超音速兵器Kinzhalの迎撃、距離100nmでのSU-34戦闘機や距離130nmでの巡航ミサイル迎撃成功等の成果を上げ、評価が高まっているところです

米陸軍内での後継検討はPatriot発展形態へ
IBCS.jpg●米陸軍はパトリオットの2つの課題「柔軟な指揮統制(防空システムとの連接運用の限界)」と「レーダー覆域の限定(前方120度範囲のみの捜索能力)」を改善すべく後継システム開発を検討していたが、関連技術の進歩や予算状況、2014年の露によるウクライナ侵略を受けての世界からのパトリオット需要の高まりもあり、
●パトリオット課題の改善も念頭に置きつつ、個々のシステム構成品を順次更新し、最終的にパトリオットとは別の特性を持つ他の防空システムも含めた「Integrated Air and Missile Defense」システムとして発展させていく方針へ変更を決定

●パトリオットの課題「柔軟な指揮統制(防空システムとの連接運用の限界)」に関しては、多様なセンサーや迎撃ミサイル等発射装置を連接して統制可能なNorthrop Grumman製の「IBCS:Integrated Battle Command System」を導入決定し、2023年からフル生産体制に入っている

LTAMDS.jpg●「レーダー覆域の限定(前方120度範囲のみの捜索能力)」問題に関しては、レイセオン製の360度監視追尾可能な新型センサーLTAMDS(Lower Tier Air and Missile Defense Sensor)のデモ機テストを現在実施中で、既に4回の実弾迎撃試験に成功している

●更なるパトリオットの能力向上のために、米国防省は2024-28年度間に当初2500億円の投資を予定していたが、追加で3400億円を同期間に投資する方針を最近明らかにし、極めて優先度の高い装備との表現で予算の重要性を説明している。また「Integrated Air and Missile Defense」システムとしては2025年度予算案に約900億円を計上している。

米国以外での人気急上昇と企業のフル生産
Patriot.jpg●現在米国以外で18か国がパトリオット使用国だと説明したが、2014年の露によるウクライナ侵略後だけでも、ルーマニア、ポーランド、スウェーデンが導入を決定し、2022年2月の露のウクライナ侵略以降は、スイスが追加で5中隊分セットを追加発注し、ルーマニアとドイツも追加導入を決定している。更にスロバキアが新規導入検討を表明し、国名非公開で2国が導入交渉中と報じられている

●中心企業のレイセオンは、年間12中隊分セットの生産設備フル稼働で対応しており、ミサイル製造を担当するロッキードは、米国防省や関係国の強い要望を受け、最新型PAC3-MSE(Missile Segment Enhancement)の2018年時点での製造能力年間300発を、2023年12月までに年間500発レベルに増強し、2027年までに650発体制を構築すべく取り組んでいる

●同盟国等から米陸軍のパトリオット部隊展開要請も増加しているが、米軍部隊への負担増や機材の維持整備上の限界ギリギリの運用を続けていることから、米軍や国防省は、同盟国等自身による能力強化を推奨しており、装備導入への問い合わせも増えつつある
/////////////////////////////////////////

Patriot 6.jpg安価な無人機や巡航ミサイルの急速な普及拡散により、西側諸国は防空コストの急増と弾薬不足に苦悩する新たな時代を迎えていますが、とりあえずレイセオン(RTX)とロッキードの該当部門は好調だということです

レーザー兵器を含むエネルギー防御兵器の完成と配備や、サイバーや電子戦との融合による将来の防御能力向上に期待いたしましょう

パトリオット関連の記事
「PAC-3を艦艇VLSから発射試験へ」→https://holylandtokyo.com/2024/01/25/5487/
「米陸軍がPAC-3部隊増強へ」→https://holylandtokyo.com/2023/09/04/4932/
「世界初の無人機等の防空兵器消耗戦」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「THAADに最新型PAC-3連接」→https://holylandtokyo.com/2022/03/18/2820/

世界の安保・軍事情報を伝えたい ブログ「東京の郊外より」支援の会
米国を中心とした世界の軍事メディアが報じている、世界の標準的な安全保障情報や軍事情報をご紹介するブログ「東京の郊外より・・・」を支援するファンクラブです。ご支援お願いいたします。
ブログサポーターご紹介ページ
お支援下さっている皆様、ありがとうございます!そのお気持ちで元気100倍です!!!●赤ちょうちんサポーターの皆様(3000円/月)●ランチサポーターの皆様(1000円/月)mecha_mecha様kenj0126様●カフェサポーターの皆様(...
タイトルとURLをコピーしました