CSIS:露のウへのミサイル攻撃を総括分析

ロシアの失敗を将来の戦いで期待すべきではないし
ウクライナ経済の復興は極めて厳しいが
防空&ミサイル防衛システムと分散運用の効果確認

CSIS Williams.jpg5月11日付Defense-Newsが、CSISのミサイル防衛プロジェクト副責任者であるIan Williams研究員の寄稿を掲載し、ロシアによるウクライナ侵略当初からの巡航ミサイルや無人機による攻撃は、ロシア軍ミサイル部隊等の低パフォーマンスや、目標情報の入手分析や情報伝達能力の低さにより、ウクライナの指揮統制能力や防空能力を破砕するに至らないままミサイル等を消費し、低調になりつつあるとの指摘を紹介しています

この間、ロシアミサイル部隊や無人機攻撃部隊は、攻撃目標重点をウクライナ軍からウクライナのエネルギーインフラに移し電力供給網等に打撃を与えたが、春に現地を訪問して確認した限りでは最低限の電力網は維持されており、また西側の支援も得たウクライナ防空能力向上により、弾薬不足は影を落としているものの、2022年春のミサイル撃墜率10%程度から、同年年末には5割程度になり、最近では7-8割にまで向上していると同研究員は指摘しています

CSIS Williams2.jpg同研究員は、このロシア軍のミサイル攻撃作戦事例は、ロシア軍の自軍への過信やウクライナ軍能力過小評価が重なったケースであり、将来のミサイル防衛を考える上では注意を要するものの、ミサイル攻撃に不可欠な敵目標の継続的かつ迅速な把握、指揮統制系統維持の重要性、更に防御側の分散、機動、隠蔽、カモフラージュなどの基本的な自軍防御努力の重要性が改めて確認されていると主張しています

同研究員は5月5日に本件に関する約70ページのレポート「Putin’s Missile War」を発表しており、Defense-Newsへの寄港はその概要の概要ですが、細部の作戦状況に関する情報入手が難しい中で、公開情報や現地調査を踏まえ、将来の軍事作戦の中核になるミサイル攻撃や無人機攻撃についてアプローチを試みるもので貴重であり、概要の概要を更につまみ食いしてご紹介しておきます

5月11日付Defense-News記事によれば
Williams CSIS.jpg●2022年2月以来、ロシア軍は数千発のミサイルや片道無人機よるウクライナ攻撃を行っており、これによりウクライナ国民や社会インフラは大きな損害を受け、戦後のウクライナ経済回復は大変厳しく、海外からの大きな支援を持ってして長期間を要することになろう
●しかし軍事的にロシア軍は戦略目標を達したとは言えず、作戦の細部は依然不明部分が多いが、ロシア軍の作戦遂行能力の低さ(ミサイル部隊等の低能力や、目標情報の入手分析や情報伝達能力の低さ)とウクライナ軍の西側支援を活用した粘り強い戦いにより、ウクライナは指揮統制系統を維持し、ウクライナ国民の士気は大きな低下を見せていない。またウクライナの兵站能力も、低下はしているがロシアの狙いほどはダメージを受けていない

CSIS Williams3.jpg●このようなロシア軍の状況は、湾岸戦争やイラク戦争時の米主導多国籍軍による巡航ミサイルや精密誘導兵器を巧みに使用した作戦結果と対照的で、イラク国家指導層とイラク軍の指揮系統を絶ち、イラク防空能力を短期間で破砕して航空優勢を獲得した戦史とは対極の結果となっている
●現在のロシア軍は既にミサイル在庫が大幅に減少し、ウクライナへの攻撃数は減少しており、国内で新規に製造した少数のミサイル等で時折攻撃を再開する程度にまで攻撃は低下している。逆にウクライナは世界的な防空兵器弾薬枯渇に直面してはいるが、西側からの防空兵器提供を受け、ロシア側ミサイルの迎撃率を飛躍的に(前述のように)向上させている

Russia cruise3.jpg●言い換えればロシアは、自らがウクライナ侵略後にウクライナ内で確立したかったA2AD網構築に失敗し、逆に西側の支援を受けたウクライナ軍のA2AD網に阻止され、被害が拡大している状況にも見える
●ロシア側の失敗の原因は、侵略の目標目的達成に必要な作戦規模を低く見積もりすぎていたこと、ロシア軍の能力を過信していたこと、特にウクライナ軍の機動・分散による部隊配備の変化を迅速に捕え、攻撃サイクルに反映する仕組みの機能不全が際立った印象がある

Russia cruise5.jpg●ロシアによるウクライナ侵攻で観察された事象が、他の地域で今後再現されるとの前提を置くべきではないが、巡航ミサイル等による攻撃は非常に危険だが、完全に阻止不可能ではないことをウクライナは示したと言える。
●高性能の防空システムと指揮統制システムを訓練した兵士に運用させ、ローテクではあるが重要な装備の分散、機動展開による位置秘匿、装備品のカモフラージュによる隠蔽、おとりによる敵監視網情報網のかく乱などを組み合わせる事で、防空&ミサイル防衛システムを機能させ、被害を緩和することが可能なことを示したとは言える
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「戦った経験がない」中国軍とウクライナでのロシア軍を比較することは困難ですが、通常兵器での西側との対峙を事実上あきらめ、核戦力による抑止や対応に軸足を移しつつあったロシア軍と、台湾有事を例に考えれば、通常兵器でも十二分に米軍に対応可能なレベルの中国軍の現状での違いは明らかだと思います

Russia cruise4.jpgCSISのIan Williams研究員ご指摘のように、「高性能の防空システムと指揮統制システムを訓練した兵士に運用させ、ローテクではあるが重要な装備の分散、機動展開による位置秘匿、装備品のカモフラージュによる隠蔽、おとりによる敵監視網情報網のかく乱などを組み合わせる事」の重要性を再確認しておきましょう。

そして、日本の環境で有事に機能しそうもない戦闘機に過剰投資している日本の現状への警鐘と理解しておけば良いと思います

CSISのレポート「Putin’s Missile War」紹介ページ
https://www.csis.org/analysis/putins-missile-war

ウクライナでの戦いに学ぶ
「初の対無人機の防空消耗戦に直面するウ」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「SpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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