東京から上海を攻撃可能な長射程砲構想だったが
他開発案件との重複回避や費用対効果の観点から
2021年3月から外部有識者評価待ち開発中断中
5月23日付Defense-Newsは、米陸軍が2019年1月に開発中と明らかにしていた射程1000nmの大砲「SLRC:Strategic Long-Range Cannon」プログラムについて、米陸軍報道官から「米議会からの指示や予算の最適分配や装備開発の重複を避けるため、開発中断を決断した」との連絡を受けたと報じました
この東京から上海の目標を攻撃可能な射程1000nmの大砲SLRC開発は、中国A2AD網の範囲拡大を受け、米陸軍の遠方攻撃能力強化のため当時のエスパー陸軍長官が明らかにしたものです。
ただ発表当時においてもMcConville米陸軍参謀総長は、「SLRCが開発成功すれば、(極超音速兵器のように)1発何億もせず、1発4-5000万円程度に収まると考えられる。コストがポイントで、そこが気になっている。コストが課題だ。陸軍は革新を追求しているが、段階ごとに成果を確認し、目標が達成できなければ進めない」と、費用対効果のトレードオフに着目していると語っていたところです
その後2021年の3月に米陸軍は、2021年中に外部有識者がまとめる予定だった「National Academy of Sciences report」におけるSLRCの実現可能性等に関する分析評価を待って、SLRC開発の継続を判断するとし、開発を一時中断すると発表しました。
ただ、2020年9月開始の「National Academy・・・」関連会議は、2021年1月に5回目の検討会議を行った後は動きがなく、2021年中予定だったレポートも発表されていない状態が続いていたようです
米陸軍は重視する長射程兵器開発において、SLRC以外にも2023年部隊配備を狙って4つのプロジェクト(Extended Range Cannon Artillery (ERCA)、Long-Range Hypersonic Weapon (LRHW),、Mid-Range anti-ship Missile (MRC) 、Precision Strike Missile (PrSM))を走らせており、米議会からも2022年度予算議論の過程でSLRCは中止すべきと勧告を受けていたところでした
また5月16日の週の下院予算関連委員会でも、米陸軍省の開発担当次官が、「装備品開発の重複」と「コスト予想」を踏まえてSLRC開発を中止すると証言していた模様です
5月23日付Defense-News記事によれば陸軍報道官は
(20日付の文書でDefense-Newsに回答)
●潜在的な装備の重複を避け、装備近代化に税金を効率的に使用すべきとの観点から、科学技術面からの検討で実現可能との判断が出た場合でも、当該装備の製造や調達や部隊編成に数千億円を投じる必要が生じるSLRCを中止することを決定した
●当初SLRCに予算配分されていた予算については、陸軍開発担当次官室との調整を経て、他の継続する科学技術開発プロジェクトに再配分する
●科学技術開発フェーズ段階では、必要総コストの詳細な見積もりまでは行わないが、SLRC計画を陸軍長官が中止判断するに必要なコスト見積もりは行われている
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米陸軍はSLRCの基礎技術調査や技術開発や関連試験に、2021年度に約75億円を使用した後、2022年以降は投資していないとのことです
2019年10月に、当時のMcConville米陸軍参謀総長による「(極超音速兵器のように)1発何億もせず、1発4-5000万円程度に収まると考えられる。コストがポイント」との発言から類推すれば、1発4-5000万円程度に収まらなかったのかなぁ・・・・と邪推いたしております
または、1発4-5000万円程度に収まったとしても、米陸軍予算全体のやりくりから、開発継続が困難になったものと推測いたします。これまでに開発&確認された技術が、いつかどこかで再利用されることを祈念しつつ・・・
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「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15
「射程1000nmの砲開発」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26-1
「海兵隊も2つの長射程ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06