後継機開発とスティンガー増産との兼ね合いが悩み
選定・試用・修正経て2027年に製造開始
無人機対処重視で関連兵器やレーザー兵器に関心の中
4月7日付Defense-Newsが、世界各国がウクライナ支援のため多数提供している大活躍中の携帯型対空ミサイルStingerについて、米陸軍が延命措置も行いつつ計画通りに企業に情報要求書RFIを最近発出し、後継選定作業を本格開始したと報じています
Stingerミサイルは1981年から使用されている兵器で、米陸軍は約5900セットの同兵器を有効活用すべく、2019年度予算から内臓半導体や経年劣化する部材を交換等する延命措置を開始しており、2022年6月には終了する予定になっていますが、後継機種選定計画を2022年度予算案に盛り込んで今次発出したRFIの準備を進めていたところです
Stingerは、主目標を低空低速飛行のヘリや対地攻撃機、低空飛行中の戦闘機や輸送機や巡航ミサイルなどとする赤外線追尾方式の兵器で、射程も数km範囲の限定的能力の兵器で、ウクライナ情勢緊迫からストライカー戦闘車両への搭載改修も急遽行われていますが、米軍の考える「大国との本格紛争」想定では、重視されている兵器ではありません
米陸軍など地上部隊にとっては、近年急速に発展し、安価なため様々な国が開発し導入している「無人機」対策が一番大きな課題と認識され、そのためのレーザー兵器や電子妨害装置、飛行場や市街地でも使用可能な非破壊性の捕獲ネットなど様々な「新兵器」アイディアを評価している段階で、正直なところウクライナ事案でStingerに急に注目が集まっていることに困惑もありましょう
実際議会からは、ウクライナの要請で縮小傾向にあったStinger製造ラインの拡大投資を始めたばかりの中、同時に後継兵器開発への投資が増加することに対し、優先順位をよく考えるべきとの「一旦停止」意見も出ており、微妙な立ち位置にある後継兵器開発でもあります
4月7日付Defense-Newsによれば
●短射程防空能力(SHORAD:Short-Range Air Defense capability)システム開発の一環として、2022年度予算から本格化したStingerミサイル後継検討に関する情報提供要求書RFIによれば、次期システムには「目標補足能力」「破壊力」「射程距離」向上が求められており、戦闘車両用に搭載可能な発射機にも引きつづき対応可能なことも要求されている
●開発・導入の時程としては
・ 2022年末に候補機種等を絞り込んで契約
・ 2023年度に技術確認デモンストレーションを行い、2026年度の実射による能力確認等の作戦運用デモンストレーションを経て、2027年度には計1万セットの製造を段階的に開始して、2028年夏まで製造品の完成度合いを継続アセスメントすることになっている
●また、先ほど述べた「目標補足能力」「破壊力」「射程距離」向上以外にも、技術開発状況に応じて近接信管能力(Proximity Fuze (PROX) capability)付与も考えられており、様々な空からの脅威対処に能力強化を狙っている後継選定である
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ロシアによるウクライナ侵略が発生したとしたら、高度なハイブリッド戦が宇宙ドメインも巻き込んで生起し・・・と言った予想はことごとく外れ、20世紀的な地上部隊の作戦が主流の中、突然脚光を浴びることになったStingerミサイルや対戦車ミサイルですが、2023年度予算案を議会に説明する米軍幹部にとっては、正直なところ「困ったスポットライト」なのでしょう
Kendall空軍長官以下の米空軍幹部が、ロシア軍のことを聞かれても「China」脅威を訴える対応を繰り返す中、ウクライナ侵略が2023年度予算案にどのような影響を与えるかを見る一つの試金石事業がStinger後継事業です
米陸軍の短射程防空能力(SHORAD)整備
「米議会がレーザー兵器開発に懸念で調査要求へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-08
「米陸軍が50KW防空レーザー兵器搭載装甲車両契約」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-05
ロシア脅威認識は変化なし。本丸は依然中国だ
「米空軍幹部と専門家がロシア空軍について語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-03-16
「米空軍幹部と専門家がロシア空軍について語る」→https://holylandtokyo.com/2022/03/17/2929/