2014年のウクライナ危機で表面化した驚きの状況
米国の大型軍事衛星打ち上げが露製エンジン依存の現状に恫喝
露製ロケットエンジンRD-180の輸出停止・支援停止
米空軍長官は「今のところ問題ない」と語る・・・
3月3日、ロシア企業で大型衛星打ち上げ用ロケットエンジン「RD-180」を製造するRoscosmos社Dmitry Rogozin社長が、現下の状況に鑑み、米国への同エンジン輸出と輸出済エンジンへの技術サポートを停止すると明らかにし、同エンジンを使用する米国の「Atlas Vロケット」に大型軍事衛星打ち上げを依存している米国関係者を恫喝しました
これに対し3月4日Kendall空軍長官は、「今のところ、関連の懸念事項の報告は受けていない」、「2022年中にロシア製エンジンに依存しない態勢を構築するとの(2016年制定の)国防省戦略に沿い、目標を達成できると思う」、「SpaceXが代替手段開発に名乗りを上げ、ULAも取り組んでいる」と強気の姿勢を示しました
米国の安全保障を支える大型衛星打ち上げ(米ULA社製 Atlas Vによる)が、ロシア製ロケットエンジンに依存しているという信じがたい「アキレス腱」が明らかになったのは2014年ウクライナ危機の際で、米露関係が悪化し、ロシア国防相がRD-180の米国輸出打ち切りを示唆して米国内が大騒ぎになりました
2014年当時、数年分のRD-180在庫はあったのですが、米国産の新ロケットエンジン開発は容易ではなく、「米国の威信をかけて短期間で完成させろ。できるはずだ」派と、「リスクは受け入れがたく、屈辱に耐え、ロシアにRD-180追加緊急購入依頼をすべき」派の論争が続きました。
結果的に2016年、「できるはず派」の議会が、「屈辱受け入れ派」の米空軍や一部企業の要求を退け、8基程度のRD-180在庫でしのげるギリギリの2022年までに米国産ロケットエンジン&ロケットを開発する事となりました
その後2021年6月時点では、SpaceX社の「Falcon Heavy rocket」や Blue Origin社の「BE-4ロケット」が成熟度を高め、ULA社も新ロケット「Vulcan Centaur」初打ち上げ試験を2022年に行って「Atlas V」を2025年に引退させる計画を明らかにするなど米国製開発が進み、米宇宙軍幹部が議会で「あと6回のRD-180使用で依存を脱却可能」と証言していました
SpaceXやULA社「Vulcan Centaur」で、「Atlas V」の代替が完全に確保できたというレベルにあるのか、Kendall空軍長官の発言ぶりからは「ぼんやり感」がぬぐえませんが、購入済のRD-180でしのげる時間を活用して米国製ロケットの信頼性を高めて正式承認するのでしょう
後は、購入済RD-180使用に際し、ロシア側からの「技術支援」が得られなくて大丈夫かですが、これに関しULAのTory Bruno社長は「ロシア側技術者の支援が得られなくても、予期せぬトラブルに対応可能なレベルの技術的ノウハウを蓄積してきた」と一応語っています
Kendall空軍長官は、2014年にRD-180依存問題が表面化した際、国防省の調達&技術開発担当次官を務めていた人物で、「米国製推進派」か「屈辱甘受・露に土下座派」のどちらであったかは不明ですが、議会の指示に従い「2022年までに露製依存脱却」戦略をまとめた次官ですので、その手腕に期待いたしましょう
2014年当時に米国へのRD-180禁輸をちらつかせたロシア国防相も、結局のところ、(恐らく)ロシア軍需産業の苦境を目の当たりにしてRD-180禁輸に踏み切れなかった過去があり、ロシアにとっても痛みを伴う措置でしょうが、国防省や米空軍内も強気の姿勢を示しつつも、「ついに来る時が来たか・・・」と不安が広がっているのではないでしょうか・・・・
ロシア製ロケットエンジン依存で窮地
「あと6回でロシア製依存から脱却」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-06-04-1
「露製エンジンRD-180無しでロケット開発へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-10-07
「混迷の露製エンジンめぐる論争」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-24
「10年ぶり米軍事衛星打上げに競争導入」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-03
「国産開発が間に合わない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-29-1
「露製エンジンを何基購入?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-30-2
「米国安堵;露製エンジン届く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22
「露副首相が禁輸示唆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-22