ミニ原発は攻撃目標となり危険とのシンプルな主張
展開先候補になる、日本、豪州、フィリピン等は今から頭の体操を
15日付Defense-Newsが、米国防省SCO(戦略的能力迅速計画室)が進めるサイバー攻撃等による電力網中断に備えた「ミニ原発開発」に反対するハドソン研Bryan Clark氏らの意見投稿を掲載し、中国やロシアの精密誘導兵器が進歩を遂げる中、標的となりやすい「ミニ原発」は非常に危険であり、他の代替手段検討に投資すべきとの主張を紹介しています
このミニ原発は、サイバー攻撃で電源網が被害を受けた際の主要基地機能確保や、僻地前線部隊の電源確保、レーザー兵器やレールガン等の大電力を必要とする新装備電源確保、また航空アセットを施設不十分な飛行場などで分散運用する場合の電力源等々として期待されるもので、ググると日本の東芝を含め基礎的な構想は主要な原発企業は古くから温めています
米国防省SCOを中心とした移動可能なタイプも含む「ミニ原発開発」は「Project Pele」と呼ばれ、サイバー攻撃による社会インフラへの脅威が現実のものとなる中、昨年3月当時の調達担当国防次官が「Project Pele」の重要性と事業加速の必要性を会見で訴えるなどしてきました
なお2022年度予算案には、「Project Pele」用に約65億円が計上されているようが、多方面の軍事問題でメディアからコメントを求められ、バランスの取れたコメントで信頼されているBryan Clark氏がわざわざ本件に意見投稿をしている点に注目し、ご紹介しておきます
まず先に「Project Pele」関連の概要から・・・
2019年国防授権法が描くミニ原発活用構想
●2-10メガワット級を想定し、デモ機の効率性や安全性等を確認・実証するため、2023年にエネルギー省の試験施設での初期段階試験を構想
●上記初期段階試験で所望の成果が得られた場合、米国原子力規制評議会の許可を受け、商業ベースで具体的開発を進め、2027年までに米本土の米軍基地で1号機の固定デモ運用を構想
●ミニ原発を基地内で運用開始後は、運用民間会社から電力を購入する形式で利用
●約9割の米本土米軍基地の電力は40メガワット級の発電所でまかなえるが、サイバー攻撃停電に備え、ミニ原発で2-10メガワット程度を確保する方向目指す
Project Peleについて
●2020年3月、1~5メガワット級の移動可能ミニ原発デザイン設計を競わせるため、3企業と総額約44億円の設計契約
●安全かつ迅速に展開設置が可能で、かつ陸海空路で輸送可能なものを目指す
●国防省のSCO(戦略的迅速計画室)が担当し、2年後に最も優れたものを1社選び、更にデモ機製造へ進む予定も、提案の成熟度によっては実用化しない可能性もあり
●3企業とそれぞれとの契約額は・・・
— BWX Technologies 約15億円
— Westinghouse Government Services 約13億円
— X-energy 約16億円
Bryan Clark氏とHenry Sokolski氏は反対意見を投稿し
●2007年に開始された「Project Pele」は、過去20年間の対テロ戦争時代を生き延びてきたが、今後の中露との対峙を見据えた時代には「時代遅れ」と言わざるを得ない
●精密打撃力や我が方の基地を攻撃する能力の無い敵との戦いの時代には、ミニ原発も考慮の対象だったかもしれないが、精密誘導ミサイルや高性能攻撃用ドローンを使用する中露などを相手に想定するとき、第1の攻撃目標となるミニ原発を前線基地や前線の同盟国で運用することが可能だろうか?
●小型原発が前線基地に十分な電力を供給し、エネルギー兵器や電動車両の運用が可能になり、前線への燃料輸送の負担が軽減されるにしても、多数の小型弾頭やタングステンの槍を装備した中国の弾道ミサイル攻撃も想定される前線基地に、ミニ原発を配備できるだろうか?
●太平洋地域で対中国の前線を形成する重要な同盟国、つまり日本や豪州やフィリンピンは核に対する反発が強いが、果たしてミニ原発の展開を受け入れ、攻撃を受けた際の核汚染リスクを引き受けてくれるだろうか?
●たとえそれが米国の影響力が強いグアム島や北マリアナ諸島だとしても、中国のミサイル射程内にあるこれらの島々の地元住民が、ミニ原発を歓迎するとは到底考えられない
●仮にミニ原発を無事使用できたとしても、運用要員が使用した衣服や道具や廃棄物は全て「放射性廃棄物」として米本土に持ち帰る必要があろうし、その輸送や扱いは神経を要するだろう。つまり、ミニ原発は得られる恩恵よりもさらに大きな問題を我々にもたらすのだ
●NASAやエネルギー省が、極地や惑星探査用にミニ原発開発に取り組むのは別として、「Project Pele」を大電力を要するエネルギー兵器や新型センサーや電子戦装備導入のために開発するのは正しい道ではない
●これら大電力装備のために、国防省はより広範な技術分野に目を向け、発電や蓄電の次世代技術開発により焦点を当て、賞金付きコンテストを行ったり資金を出す道を選ぶべきである
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対中国の最前線国となる「日本や豪州やフィリンピン」での運用が想定されていることを忘れてはいけない問題です。
世界的なCO2排出量削減運動と同じで、代替手段に目途が立っていない中での「危険なミニ原発開発を中止せよ」論でした。
常温核融合とか、発電や蓄電の世界で夢のある技術的ブレークスルーに期待するしかないのでしょうか? 元ZOZOの前澤さんも、もう少しこのような分野に「お金配り」してくれたらなぁ・・・と思います
Lord調達担当国防次官が必要性を訴えていた
「サイバー停電に備えミニ原発開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-07
前CSBAのBryan Clark氏関連の記事
「イージスアショア撤退の日本に提言」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-28
「F-35搭載可能強襲揚陸艦の火災について」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-15
「FA-18後継機について」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-17
「F-35BとC型超音速飛行に制約」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-27
「フォード級空母にレーザー兵器を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-05
「CSBA:大型艦艇中心ではだめ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-10
「FA-18から2機の同機を操縦」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-05-1
「空母の脆弱性を海軍トップに詰問」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-07