2020年1月~12月の事象の記録と分析
コロナの影響に様々な関係国の視点で迫る
3月26日、防衛研究所が毎年発行で25回冊目となる「東アジア戦略概観2021」を発表し、全文webサイトで閲覧可能(日本語と英語版の両方同時に)となりました。インドがご専門で、防衛研究所の紅一点である理論研究部長の伊豆山真理さんが編集長としてまとめられました。
「新型コロナウイルス感染症後の世界の動向をめぐる議論が始まる中、本書が、東アジアの戦略環境に対する関心と理解を深め、日本がよりよい安全保障環境を追求するための知的議論の材料となれば幸甚である」と「はしがき」に記されているように、コロナがもたらした様々な変化を、各章を中朝アジア露米日に割り当て、多角的な視点で東アジアへの影響を描き出しています
「防衛研究所の研究者が内外の公刊資料に依拠して独自の立場から分析・記述したものであり、日本政府あるいは防衛省の見解を示すものではない」、「研究者が独自に分析した学術専門書としての性格を明確にした」と「はしがき」に明記されている性格のものですが、「日本政府あるいは防衛省の見解」から逸脱した内容では当然ありません
日本の安全保障環境をコンパクトに学ぶには最適の書物(しかも無料)ですので、まんぐーすの独断で各章冒頭のサマリーから「さわり」部分をご紹介し、皆様のご参考に供したいと思います
第1章 大国間競争に直面する世界―コロナ禍の太平洋と欧州を事例に
コロナパンデミックは、国際秩序の将来に関する既存の議論を一層活発化させた。本章では、このテーマの議論を往々にして独占しがちな米中両国および両大国の関係ではなく、それ以外の主要国、中小国の動向に焦点を当てる。特に章後半では、豪州をはじめとする太平洋地域および欧州連合(EU)を中心とした欧州の国際関係にそれぞれ焦点を当てて分析
第2章 中国―コロナで加速する習近平政権の強硬姿勢
コロナは習近平指導部に対する国民の不満を表面化させた。これに対して習近平政権は、経済活動の再開を進めると同時に、社会への統制を強化することで乗り切り、中国共産党5中全会を経て、政治的権威をさらに高めた。
香港には「香港国家安全維持法」を強要し、「一国二制度」を骨抜きにし、香港市民の声を力で封じ込めるとともに、対外的にも強硬な姿勢を取り、欧州諸国を含む多くの国の対中警戒感を高めることになった。
第3章 朝鮮半島―揺れる南北関係
北朝鮮は米国に追従する「事大主義」の是正を韓国に求め圧力をかけ、是正されなければ緊張を高めとの姿勢を取った。米新政権の発足に先立ち、北朝鮮は韓国を米国との協力から引き離すことに注力し 韓国の文在寅政権は、北の行動を受け南北関係の改善に強い意欲を示し、その結果米国との距離を取るかのような行動も見られた。SM-3採用見送り、攻撃ミサイル導入の動き、戦時作戦統制権の移管や米軍駐留経費の米韓協議の停滞など韓国政権の動きが注目される
第4章 東南アジア―ポスト・コロナの安全保障課題
インドネシアとフィリピンでは継続して感染が拡大または横ばいの状況であり、他の国でも、新規感染をほぼ抑え込んだ国がある一方、2020年後半から感染の再拡大が起きている国もあり、地域全体としては収束が見えない。
コロナによる国境の封鎖や国内での都市封鎖・行動制限などの措置は、各国経済に深刻なダメージを与え、特に貧困層が大きな影響を受けている
中国の南シナ海等での攻勢に対し、ASEAN外交の場でも米中両国の意見の対立が目立つ中、ASEANとしては大国間競争から距離を置く姿勢を示している
第5章 ロシア―ポスト・プーチン問題と1993年憲法体制の変容
プーチン体制の変革を求める市民の声も高まっており、ロシア社会は変動期を迎えている。憲法修正で大統領の3選禁止が明確化されたものの、例外条項が設けられたため、プーチンとメドヴェージェフは次期大統領選挙に出馬することが制度上可能である。憲法問題に焦点を当て、ロシアの政治体制やポスト・プーチン問題の示唆を得る
第6章 米国―コロナ危機下の米国の安全保障
2020年はトランプ政権下で、対中国政策が強化された。中国政府職員が米国の地方自治体の関係者と接触への事前通告の対象とした。また、中国国営メディア「外交使節団」に指定し、米の諸規定に従うことを求めた。さらに、ウイグル人権侵害に対する人権侵害に加担した者に対する制裁を求める2020年ウイグル人権政策法が成立し、一部の中国当局者に対して資産凍結や入国拒否の制裁を課した
国防省は、各軍が中露を想定した作戦コンセプトの開発をそれぞれ進める中、これらの作戦コンセプトを包含する統合コンセプトの開発に着手
第7章 日本―ポスト・コロナの安全保障に向けて
2000年代以降に日米豪、日米韓、日米印の3カ国間協力が強化されてきたが、それらをさらに拡大する形で日米豪印の協力が追求されている
防衛計画の大綱が求める「多次元統合防衛力」の構築に、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を活用するさまざまな施策が行われている。部隊の新編などで能力向上が図られているが、「領域横断作戦」が従来の戦闘様相とは大きく異なるため、同作戦能力を持続可能な形で発展させる長期的な方策が必要
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東アジア戦略概観2021のwebページ
→http://www.nids.mod.go.jp/publication/east-asian/j2021.html
各章のサマリーの書き方にばらつきがあるように、「執筆者の氏名および分析根拠を示す脚注を明示することにより、学術専門書としての性格をより明確に」との姿勢から、各担当者が各地域の注目点をかなり自由なアプローチでまとめている印象です
コロナ騒ぎで、世界情勢へのフォローが日常の中で難しくなっている中で、「巣ごもり」のお供に最適の無料提供資料です。
東アジア戦略概観の関連
「2020年版」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-21
(2年間サボリました・・・)
「2017年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「2016年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13-1
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-04-10
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-03